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あれから数日、私たち3人はフィオナの魔法強化のために実習場を借りて魔法を練習していた。
ちなみに、引きこもり先輩、ルヴィナスはこの練習には参加していない。
「ファイヤー」
ぼうっー
「お、フィオナ。すごいじゃない。ちゃんと炎が出てるよ!」
「や、やったー! やったよ。シェリア」
喜び私に抱きついてくるフィオナ。ふおっ、なんで役得。女友達の特権だね。
…フィオナは結構お胸が立派である。
「おい、馬鹿。よそ見をするな!」
スウォンが私たちに向かって叫ぶ。
はっ。しまった。フィオナの巨乳に気を取られていた。
フィオナが集中を切らしたためか、炎の塊がこっちに向かってきていた。
「ウォーター」
バシャン
慌てて私は水魔法で彼女の炎魔法を打ち消す。だが炎の距離が近くて水が跳ね返り、2人ともびしゃびしゃになってしまった。
「ご、ごめんなさい。シェリア。私が浮かれたばっかりに。」
「大丈夫よ。私も嬉しくて油断しちゃってたんだから。」
「大丈夫か? 2人とも。」
スウォンが心配して声をかけながら様子を見に来た。
「…!」
と思ったらふいっと顔を背けてしまった。
…ああ。なるほど。
「フィオナ。これを羽織って。」
私はベンチにかけておいた、自分の魔法ローブをフィオナに羽織らせた。
「え?」
そう、フィオナは巨乳+白いカッターシャツでとんでもない凶器とかしていたのである。
主にスウォン会長にとって。
スウォンは実はウブな面があり、女性のそう言ったシーンが苦手なのである。特に好きな女性に対しては。
前世、彼のそのギャップに萌えたものである。
このイベントが出てくるという事は、やはりフィオナはスウォンルートへ行っているのだろうか。
「でも、これはシェリアのローブよ。あなたも濡れちゃったんだからシェリアが着るべき…」
そう言いながら、慌ててローブを返そうとする彼女の肩に両手を置き私は言った。
「いい? 今のあなたは全身凶器、リーサルウェポンなのよ。その格好で出歩いてみなさい。会長もそうだけど、他の男子生徒は卒倒ものだわ!」
「り、りーさる?」
早口で言いきった私の言葉にますますキョトンとするフィオナ。
「…ともかく、私は着替えを持ってくるから、フィオナはここで待っていて。」
「わ、わかった。」
「では、会長。私は少し席を外しますのでフィオナの事、宜しくお願いしますね。」
「あ、ああ。わかった。」
私はそう言って着替えを取りに寮へと戻った。
「うーん、流石にこんなにビタビタだと寮の部屋を濡らしちゃうな…。」
私は寮へと向かう道すがら、服をどうしようかと考えた。
結構盛大にずぶ濡れで、服の端から水滴がピタピタと垂れている。
「ちょっと、絞ったらマシになるか。」
私は周りに人がいないことを確認すると、茂みに入り上のシャツを脱いで雑巾のように絞った。シワにならないといいけど。
ジョボボ…
結構盛大に水が出た。
ちっとはましになっただろうか。
パンパンっとシャツのシワを伸ばしているとガサガサと茂みを掻き分ける音がした。
「…あ。」
「え?」
茂みの奥から、人が現れた!
その時、私が思いついた行動は
たたかう
にげる
まほう
いや、なんで思いついた選択肢がRPG風なんだろうか。
…私は可愛らしくヒロインみたいにきゃああとも言えず、気まずい雰囲気を打開できる気の利いた言葉もいうことができなかった。
人とは存外アクシデントに即座に対応できないものである。前世、日本で生きていた時もそういった事柄に縁がなかったらしい。おそらく私の顔は朱に染まっているだろう。
「…えーと、ごめんね。水の跡があったから、どっからか水棲モンスターが紛れ込んだのかと思って…。…決して覗くつもりではなかったんだよ。」
現れた人、キリト=ルッサーレは珍しく慌てながら私にそう言った。
あわわわわわ。よりによって何故こいつなのかしら。
「い、いえ…。こちらも悪かったので…。」
「ああ、うん。じゃ、じゃあ俺はこれで…」
「なんて…」
「え?」
「いうと思ったか!? この変態教師ーーー! ウィンド・ブラストーーーーっ」
どがあああああああん
やってしまった。恥ずかしさをごまかすために、風の攻撃呪文をぶち込んでしまった。
ウィンド・ブラストとは風を一方向に収束させて爆発させる技である。
流石に加減はしたから死ぬようなことはないと思うが遠くに吹っ飛ばされはしただろう。
…向こうも謝ってたのに少し申し訳ないことをした気がせんでもない…。
で、でも乙女の柔肌を見られたんだよよよ!?!?
ちょっとくらい許される!!
…たぶん。
私はこの出来事にかなり動揺してしまった。きっと、前世の記憶が戻るまでの私なら、淡々と何も感じず冷静に行動してただろう。
ましてや、教師に攻撃呪文なんて打ち込むなんて真似しない。
私は赤く火照る顔をブンブンと横に振り、シャツを羽織ったら、ダッシュでその場を離れた。
「どうしたの? シェリア。」
私はあれから部屋から着替えを取りに行ってフィオナの元へ戻ると、フィオナに抱きついてその胸に顔を埋めていた。
フィオナの戸惑っている様子が触れる体から伝わってくる。
「お前がそんなになるなんて珍しいな。」
スウォン会長も興味深そうにこちらを伺っている。
「み、みら……」
「ミラー? 鏡のこと?」
「見られたーーー! うわーーーん」
「???」
フィオナはますます訝しげに顔をかしげるだけだ。そりゃそうだろう。
だが、見られたショックは大きく、今の私は平静じゃない。というか、そういうイベントはフィオナの出番だろう。なんで悪役の私なんだ!?
「ふう。こいつがそんな状態じゃ、訓練どころじゃないな。フィオナ。今日は終わりだ。お前も、濡れて体が冷えただろう。風邪引かないうちに帰れ。」
「は、はい。ありがとうございました。スウォン先輩。」
そうして今日の魔法実地訓練は終わりを告げた。私はフィオナに付き添われながら寮に戻ることになった。
うう、我ながら情けなや。
「シェリア、今日は早めにお風呂に入ってゆっくり休もうね。」
「…ごめんね。訓練邪魔しちゃったね。」
「そんなことないよ。火の魔法も発現できたし、シェリアのアドバイスのおかげだから。ありがとう。」
彼女はそういって可愛らしく天使のように微笑んだ。
彼女は本当に優しく、美しく、まるで女神みたいだ。乙女ゲームでも中々好きになれない所謂、地雷とか言われるキャラもなれない中にはいた。
だが、彼女はそんなことはなく私の好みどストライクな女の子だ。もちろん、血の繋がった唯一の血縁ということもあるだろう。彼女は私のことなんて覚えていないだろうが。
「それに、ちょっと得しちゃった。」
「何かいいことあったの?」
「シェリアのあんな可愛らしいところが見つかったもの。少し嬉しかったんだ。」
「え?」
「うふふ。」
…確かに今日の行動は『シェリア』らしくなかったかもしれない。
本来の私はクールで物事に関してもどこか冷めている。きっと、前世の記憶がなかったらこんな態度は取らなかったと思う。きっといつも通りクールに理論的に最善の行動を起こしていただろう。
「今回の事でまた少しシェリアと仲良くなれな気がするよ! これからも宜しくね。」
フィオナはそういって手を差し出した。
「なんだか気恥ずかしいけど…。こちらこそ宜しくね。」
私もフィオナの手を握り返した。
「そ、そういえば。フィオナは会長のこと好きなの?」
私は恥ずかしさを誤魔化すために彼女へと話題をふった。
キリトに邪魔されて、イマイチ彼女は差が誰のルートに進んでいるのかわからない。
こうなったら直球でフィオナに聞いた方が良さそうだと判断した。
すると、彼女は
「ええ!?」
と顔を真っ赤にして驚いた。
…これは。ほぼ確実だろうか。
「ち、ちがうよ。そんな恐れ多いこと思ってないよ!」
慌ててブンブンと手を横に振りながら否定する。
「えー、本当に~?」
私は更にかまをかけるように肘で彼女の体を小突く。
「ほ、ほんとだってば!…それに、次元が違いすぎるよ。スウォン先輩は成績優秀で魔法も力量も格が上。家柄もいいしね。取り巻きの女子達が言うように、世界が違うんだよ…。」
「…」
「それに私は初級魔法もロクに使えない劣等生だからね。」
フィオナの光属性の魔法は回復・補助に特化する属性だ。
他の魔導師の力を増幅したり、防御をしたり、はたまた怪我の治療を行ったり。
なので、自分で魔法を発生・維持・攻撃といったものはとても難しいのだ。
まして、彼女の秘められた魔力量は絶大。力に飲み込まれないよう維持するのも困難だ。
「…フィオナ。あなたは頑張ってるわ!大丈夫。今に魔法をバンバン使えるようになって、あっという間にスウォン先輩なんか抜かしちゃうよ!」
「ふふっ。ありがとう。シェリア。元気が出たよ。誰かを守れる魔導師になるんだもん。くじけちゃダメだね!」
「そうそう、その意気よ!」
まあ、実際に彼女は力を発現させ急成長を遂げるのだが。
こうして、彼女とはより友情をより深めることになった。
…姉としては少し寂しい気もするが。
ーーーー
翌日。
「みんな、学校には慣れたかな? 最近、水棲モンスターが学校の敷地内にも現れてるから授業が終わったらなるべく複数人で速やかに帰ってね。」
今は朝のHRだ。教室でみんな席について先生の連絡事項を聞いている。
担任のキリト先生は顔に大きな湿布を貼っていた。
…昨日の魔法でどこかで怪我をしたのかもしれない。うっ、なんだか罪悪感。
周りの生徒もヒソヒソとどうしたんだろうねと声を掛け合っている。
「せんせー」
「ん、何かな?」
1人のモブ男子生徒が手を挙げておどけた口調で問う。
「その顔の傷はどうしたんですかー? まさか、女性関連ですか~?」
や、やめろ。その傷に触れるな!
モブ生徒の馬鹿ー!
私は心の中で男子生徒を呪う。
ええっ、キリト先生が~
私、先生のこと狙ってたのに~
いやでも、傷があるから別れたんじゃ?
ざわざわざわっ…
彼に気がある女生徒は一気にざわめき始める。攻略対象なだけあって結構女生徒に人気なのである。
「…ふふふ。どうだろうね。」
彼はじとーっと睨むように私を一瞬見るがすぐにそらし、さらっとそんな事を言って受け流した。
えー、やっぱり女性関連~!
やだー、先生取られちゃう!
だらだらだらだら…
こっちは冷や汗ものである。
やはり、私の魔法で怪我をしたようだ。
「あ、そうそう。今日は午後から全学年の交流イベントがあるから、みんな昼休みが終わったら校庭に集まるんだよ。」
おおっ…これは。
待ちに待った、交流イベント!
この交流会は全学年で行う、いわゆる新入生歓迎会だ。
このイベントでフィオナは攻略対象との友好をまた深めるのだ。
「じゃ、ホームルームは終わりだよ。今日も元気に過ごして下さい。」
キリトがそう言うと委員長が号令をかけホームルームは終了した。
先生が去りクラスが散会すると、フィオナがこちらに来て話しかけてきた。
「交流会って何するんだろう? わくわくするね!」
ゲームではこのイベントが節目で個別ルートへと進む。おそらく現時点でフィオナは会長との友好度が一番高い。
フィオナと会長のイベントが進むだろう。
死亡フラグがまた一歩進む…。
「そうだね。とっても楽しみ。」
口ではそう言いながらも私は内心不安だった。
入学式でフィオナを見かけ、ここは乙女ゲームの世界だと気付いたが。16年ここで生きてきたシェリアという私はここが現実。
正直、シェリアとしての私はフィオナに私のことを思い出して欲しいと思ってる。また、仲良く暮らしたい。
でも、前世の私の感情がそれを邪魔をする。死にたくないと。生きていたいと。
フィオナが私を思い出すことは、シェリアが死ぬ確定フラグのようなものらしい。
…何故だろうか?
思い出すくらいで死ぬものなのだろうか?
そういえば、私は幼い頃、私たちが生き別れる事件の頃から記憶がところどころ欠落している。かろうじて、フィオナだけは強く覚えている。
私の子供の頃の記憶に何か関係があるのだろうか?
前世の記憶が戻ったからといって謎はまだまだありそうだ。
小説家になろうさんのシステム難しい…
私が機械音痴なだけか…( ゜д゜)