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「君は僕の花嫁になるんだから。いいよね?」


「よくないわね。」


間髪入れずに否定した。だが、なおも迫ってこようとするゼノ。私の顔に向かって手を伸ばす。私はそれを払いのけた。


「つれないね。」


「私、あなたの花嫁になんてなる気はないの。それに、あなたは……」


同胞を欲しがっているだけ。私を好きなわけじゃない。


「なに?」


「あなたは寂しいだけでしょ。仲間が欲しいだけなんだわ。だから、私じゃなくてもいいのよ。」


ゼノが間の抜けたキョトンとした顔をした。彼のそんな顔を見たのは初めてかもしれない。


「まさか、君からそんな事言われると思わなかったね。うーん、そうか……。寂しい、ね。」


てっきり、すぐに否定されると思っていた。だが、意外にも彼はそんな事はせず私の言葉を受け止めて考えているように見える。


「と、ともかく。そういう訳だからここから出て行きなさいよね。」


ずっと湯に浸かっていた為か、頭がぼーっとしてきた。このままではのぼせてしまう。早くゼノには出て行ってもらいたい。


「それとこれとは別。ここは僕の家。どこにいようが僕の自由だよ。」


ゼノは先ほどとは打って変わって意地悪そうな笑みを浮かべた。ワザとらしい。


「だからってレディの風呂を覗くのは…どうかと思うわよ……。」


うう……、頭がふわふわする。


「君ってレディって柄かな?」


「失礼な!」


一瞬頭がはっきりした。というか、前にも誰かに言われたような。


「それに、君。」


「何?」


ゼノが不自然に会話を途切らせる。不審に思い問い返す。


「平らだよね~。」


ゼノがそう言って私の右胸を包むように触れた。


「…………。」


声も出なかった。


「僕の花嫁になるにはもう少し育ててから……。」


「ダーク・ブラスト。」


風呂場に杖は持っていなかったので、人差し指に魔力を集中させゼノにめがけて魔法を放った。


……かくして、温泉施設は破壊された。暫く使い物にならなくなったのは言うまでもない。


ーーーー


「えーと、何があったの。シェリア?」


大きな轟音とともに風呂場の施設が吹っ飛んだあと。私達はダイニングで食事をしていた。適当にあった食材でフィオナと料理をしたものを食べている。姉妹で料理。こんな状態じゃなかったら、なんて幸せな一場面だった事であろう。


「何でもないのよ。フィオナ。」


そう言って、私は野菜と卵が挟んであるサンドイッチにかぶりついた。

私の機嫌を察したのかフィオナはそれ以上は何も聞いてこなかった。気を使わせてしまってごめん、フィオナ。


「なんでもない、ねー? 僕じゃなかったら死んでたよー。」


ちなみにゼノもいけしゃあしゃあと席に着き、サンドイッチを食している。この野郎。それはフィオナが挟んだやつである。私が食べようと思っていたのに。


「なら、もっと加減せずにぶっ放せば良かったわ。」


ゼノには怪我ひとつない。結構本気で魔法を放ったはずであるが、彼が防御か何かしたのだろう。本当、しぶといやつ。


「酷いなぁ、シェリアは。」


「そ、そういえば。魔法を教えてくれるんですよね! ゼノさん。」


空気を変えようとしてくれているのか、フィオナがそんな事を言い出す。

気を使わせてしまっているのが分かるので、私もここらで機嫌を直そう。


「フィオナの言うとおりね。ゼノ、魔法を教えてほしいわ。」


早く魔法を扱えるようにならなくては。フィオナを傷つける前に。


「分かったよ。せっかちだね、二人共。」


ゼノはそう言って立ち上がった。

そして、空に手をふる。すると、先ほどまでダイニングだった部屋がドーム状の広い施設になった。上は屋根で覆われており、空は見えない。


「すごい、一瞬で部屋が変わった……。」


フィオナが辺りを見回しながら、感嘆の声を漏らす。


「さて、早速魔法を教えてあげるよ。僕の授業は厳しいよ? まずは、基本をさらおうか。」


……厳しいとか言っていたが、ゼノの魔法の教え方はとても上手であった。

正直に言うと学園の教師よりも分かりやすい。


「……さて、正式魔法の方はもう大丈夫かな。まあ、どれだけ集中を持続できるかが要だから知識だけあってもダメだけどね。」


正式魔法。国の法律によって認められている正式な魔法。学園でも習う基本の魔法。

ゼノから習うと不思議と普段より頭に入っていく。


「次にオリジナルの魔法について。正式魔法を自分で改良して使いやすいしたもの。まあ、言葉で言うのは簡単だけど、実際にやるのは難しいよ。」


キリトが使っていたのがオリジナルの魔法。自分で風魔法を改良したのだろう。多芸なやつである。


「ここに来る時、魔法の属性を変える話をしていたけど、あれをどうにか使える方法はない?」


魔法の属性を変えるなんてそんな真似できるのだろうか分からないが。もし、できるなら私とフィオナで互いに魔力を気にしないように魔法を使用できるようになる。瞬間移動する度に気分が悪くなるのはこりごりである。


「魔法の属性を変える方法。ある意味、君たちに一番必要かもしれないね。でも、今の君たちには難しいと思うよ。」


ですよね。ゼノが何十年とかけて開発した魔法をそこらの小娘が簡単に使えるようになるわけないのである。


「魔法の属性変えるのはこれまでの魔法の歴史の概念を変えてしまうものだから。そう簡単に理解できないと思う。」


顎に手を置きながらうーんと考え込むゼノ。


「とりあえず、今の君たちに必要なのは力に飲まれない事だね。シェリアは言わずがな。暴走したら周りを破壊し尽くす。フィオナ、君もなかなか危険だ。他人の魔力を増幅しすぎると君自身も衰弱するし、された側も魔法の力を暴走させるかもしれない。」


「そんなに危険なものだったんですね。今まで暴走しなくて良かったです。」


フィオナが自分の魔法にも危険がある事を知ると驚いた顔をしていた。


「そういう事だね。二人共、爆弾みたいなものだ。」


「人を危険物扱いしないでよね。」


しかし、魔力の制御の練習といってもキリトに監禁されていた時に訓練していた。おかげで普通闇魔法を使うには支障が無いほどだ。今更練習しても……。そんな私の心を読んだかのようにゼノが答える。


「もしかして無駄だと思っている? 通常の状態で制御の訓練をしてもほぼ意味はないよ。」


「どういう事?」


「やってみたほうが早いかな。シェリア。杖の先に魔力を集めて。集中していて。」


私は不思議に思いながら言われた通りに魔力を貯める。杖先に黒い球体が現れる。暴走なんてする気配はない。


「流石~。でも、これならどうだろう。」


ゼノは私をちらとみるとフィオナに近づいた。

何をする気だろうか。魔力を制御する事に集中しながらもゼノの様子を伺う。


「あの、なんでしょうか?」


近づいてきたゼノをキョトンと見つめるフィオナ。


……そして、そのフィオナの頬に唇を寄せ、ゼノはチュッと音を立てて口付けた。


ピシィッ


世界が凍りついた気がした。

わ、わ、わ、わたしの。私のフィオナに何をしてるんだ。


「はっ。しまった!」


気がつくと先ほどまで制御できていた闇の玉はみるみる膨れ今にも暴発しそうだ。


ゼノが指をパチンと鳴らす。


シュン


するとあっけなく闇の玉は消えてしまった。


「まっ、こういう事だね。君の感情が高ぶれば魔法も増長して暴発する。魔力と感情は深いつながりがあるからね。」


ゼノがやれやれといった風に説明する。


「君はフィオナの事になると魔法が制御しきれないみたいだ。さて、感情に惑わされないように特訓開始だね!」


にっこりと笑うゼノ。それとは対称に私はがっくりと地面にうなだれた。


盲点であった。確かに、前からフィオナが取られる、いなくなるなどといった感情で私は魔力

を暴発させている。


「これは……辛い修行になりそうね……。」


私は一人ぼそりと呟いた。

ソファーを購入したら気に入りすぎて一日中入り浸ってました。

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