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「うっ……気持ち悪い……。」


予想はしていたが、フィオナの魔力で私の体調は少し悪くなった。だが、学園長の時より随分マシだ。


「大丈夫、シェリア⁉︎」


フィオナが血相を変えて私に駆け寄る。私を心配してくれるのか。本当に優しい子だな。


「体調が悪いなら、もっと早くに言うべきだろう。」


スウォンが私の様子を見て正論を言う。だが、口調は優しく一応、心配してくれたようだ。


「大丈夫。すぐに回復するから。……これも含めてお話をします。」


支えてくれるフィオナに礼を言って、みんなに向き直る。


私たちが移動したのは、ルイスの学園近くの別邸だ。貴族の家の中でも彼の家は位が高い。別邸を至る所に持っているという話だ。

街の中に紛れるように立っている彼の別邸。一見普通の家に見えるが、内装は良いものを使っているのが分かった。


ルイスに案内されて部屋の居間に全員が集まる。


私は自分が闇属性の魔法の持ち主だと彼らに伝えた。そして、私が体調が悪くなる理由を告げるにあたりフィオナが光属性の使い手だという事を。


本当は姉妹という事を伝えたかったが、何故か口が止まって言えなかった。これは今度二人きりになった時話そう。


「フィオナが光魔法、シェリアが闇の使い手か……。珍しい二つの属性がこうして集うなど偶然にしても奇妙な話だな。まるで、小説みたいだ。」


ルヴィが私の話を聞いて頷きながらも訝しむ。

乙女ゲームの世界だからご都合主義なのは納得だが。


「じゃあ、私が他人の魔法を増幅するのが得意なのも光属性の特性なんですね。」


フィオナが納得したと言うように首をふる。


「大体の事情はわかったが、ここに引きこもっているわけにもいかない。どうするつもりだ。シェリア?」


「俺は別にここにいてくれても良いけどね〜? そしたら、シェリアちゃんに会いに天使ちゃんがここに来てくれるし?」


天使ちゃんとはフィオナのことだろうか?

そういえば、交流会の時にフィオナに一目惚れしたと言っていた気が……。


「あ、あの。前から言っていますけどその呼び方恥ずかしいのでやめてください……。」


フィオナが顔を赤くして俯き加減で言う。

か、かわいい!


するとルイスがフィオナを後ろから抱きしめた。


「きゃっ⁉︎」


「驚いた声もかわいいな。天使ちゃん。うん、やっぱり君は俺の天使ちゃんだよ。」


何言ってんだこいつ。フィオナは私の天使である。文句を言おうと私が口を開くより先に口を出した奴がいた。そう、スウォンだ。


「ふざけるな。ルイス。軽々しくフィオナに触れるんじゃない。」


虫でも払うかのようにルイスに手をやり、フィオナから引き剥がす。


「えー、もしかして、もうスウォンの者になっちゃったの?」


「な、ち、ちがう! お、俺は先輩としてだな……!」


「なら、いいじゃん。俺が天使ちゃんにナニをしても。」


なんか卑猥なアクセントだった気がする。


「ふざけるな! フィオナは俺の……」


会長が何かいいかける。が、この争いを私が黙って見ているわけがない。フィオナはまだ私のである。


「いい加減にしてください。フィオナは私のお友達です。誰にも渡す気はありません。」


私は杖を構えた。


「あ、あのー……」


「ふん、力で奪うか。悪くない。いざ…」


「えー。俺、不利じゃん。でもまあたまにはいいかな? 天使ちゃん、俺を見ていてね。惚れ直しちゃうかもよ?」


ルヴィナスが呆れた目でこちらを見ている気配が伝わってくる。だが、仕方がない。こればかりは譲れない。魔法が飛び交うかと思われたその時、


「いい加減にしてください! 私は誰の者でもありません!」


フィオナの怒った声が室内に響き渡った。


「フィオナ……。」

「天使ちゃん。」

「フィオナ。」


私たち三人は怒られてがっくしと肩を落とす。


「お前たち阿呆だろう。」


ルヴィナスがじとっとした目でこちらを見ていた。いや、自分でもそう思うけど……。


「ともかく今はこれからのことを話し合うべきです。」


フィオナがきっちりと場をまとめる。いつの間にこんなに成長したのだろう。お姉ちゃん嬉しいよ。


「でも、具体的な案なんてあるのか、シェリア? というより、俺たちに会わなかった場合脱走してどうするつもりだったんだ。」


「フィオナに用件を伝えたら、行こうと思っていたところがあるの。……私は最終的にはそこに行かないといけない。自分の力を制御するためにも。」


監禁されていた時に思った。一人で闇魔法の訓練を積んでいても限界がある。私は根本的にこの力の使い方をわかっていない。だが、闇魔法は謎に包まれている。フィオナの光魔法は他社の力を増幅したり、回復させたりそういった用途がある。だが、私の力にはそんなものはない。ただ、破壊するだけ。壊すだけ。

ゲームでシェリアの力に詳しい説明はなされてなかった。ただ、巨大な力を持っている描写だけだ。まあ、恐らく闇属性を思ってるんだろうねとプレイヤーに思わせる風なだけだ。

詳しい力の使い方は記されておらず、ボスとして立ちはだかりころっと死ぬだけだ。

それなら、闇魔法について詳しい奴に教えを請うしかない。


「君、もしかして。ゼノっていう人のところに行こうとしているの?」


勘のいいルイスは私が考えていたことを察したようだ。賢い男である。


「な、そんなのダメだ。折角こうして会えたのに。」


ルヴィナスが慌てて私の腕を掴みこちらを引き止める。まだ、行こうとしてもないのに気がはやい。


「ありがとう、ルヴィ。でも、あなたも見たでしょう。私の力。私は大勢の生徒を傷つけた。ルヴィだって怪我をさせてしまったもの。私のこと怖いでしょう?」


みんなを傷つけたのだ。普通、怖がられる。それは当然だ。


「確かにお前が人を傷つけたのは事実だ。正直、俺はお前の力が恐ろしいよ。なす術なく、この俺が倒されたんだからな。」


スウォンの言葉はいつも事実を実感させる。現実的で冷たいように感じるが、私にとってとてもありがたかった。


「でも、わざわざそんな怪しい人のところへ行かなくてもいいよ!」


「たしかに、ゼノは全身真っ黒、謎な言動、加えてロリコンで怪しいけど……」


「えっ、ロリ……?」


「でも、私が闇魔法を制御する上で彼の知識は必要になる。」


昔、教えてもらった姿を変える魔法。今までに聞いたことのない呪文だった。ゼノは呪文の知識も相当なのだろう。


私はこの闇属性の魔法を使いこなせないと、闇に飲まれフィオナと敵対し傷つけてしまうだろう。闇に飲まれた時、フィオナが止めなければ

私は生徒を殺していた。そして、スウォンの元へ行こうとしたフィオナも……憎いと思った。


「私は闇に飲まれないためにもこれを制御しなきゃいけない。癪だけど、ゼノが一番適任だわ。」


「だが、あいつは何を考えているかわからないぞ。もしかしたら、同じような目にあうかもしれないだろう!」


あいたは私を花嫁にとかなんとか言っていた。恐らく同じ闇属性だから執着しているのだろう。ゲームでフィオナがゼノルートに行った時はフィオナが誰とも仲良くならなかった時だった。交流会で一人でいるフィオナをゼノが気にとめるのだ。同じ孤独を持つ者として。


……そうか。彼は根本的に孤独を寂しがっている男なのかもしれない。だから、仲間を欲しがっている。決して裏切らない同胞を。

なんとなく彼の孤独がわかる。家が崩壊した後、私も孤独な時期があったから。


「大丈夫。私も考えなしで突っ込むわけじゃないから。」


私は皆にそういって頷いた。


「待って。シェリア」


彼女が真剣な目で私を見る。少しどきりと胸がなる。フィオナにしては珍しくとてもしっかりとした眼差しでこちらを見つめているからだ。


「どうしたの、フィオナ?」


私は少し間を空けてきき返す。


「私もシェリアについて行く。」


「え?」

「は?」

「ん?」

「えー?」


四人全員の声が同時に揃った。

皆、呆気にとられている。


「私の光魔法はシェリアに取って弱点なのよね?」


「ま、あ。そういう事になるわね……。」


「なら、シェリアとゼノが悪い事をしようとしたら私が全力で止める。だからシェリア。私はあなたと一緒に行きたい。」


何を言っているんだろう。彼女は。

そんな事になったらフィオナはまず生きていられないのに。


「お願い。シェリア。私、今あなたを一人で行かせたらきっと後悔する気がするの。」


どこかいつもふわふわして、にこやかに笑っているフィオナ。乙女ゲームの主人公にありがちな流されやすい部分がある。真面目で努力家な部分はあるけど、ここまではっきりとした意思表示をするのは稀だ。いや、初めてかもしれない。


はーー……。


誰かがため息をついた。


「わかった。二人とも。行け。」


ため息の持ち主のスウォンはそう一言告げた。


「彼女たちを二人で行かせるのか⁉︎」


「スウォンらしくない発想だね。」


他の二人が口を挟む。


「ここで閉じこもっていてもいずれシェリアの魔法は制御がきかなくなるだろう。なら、詳しい奴に教えを請うたほうがいい。」


「だが……。」


「学園にいたら学園長に臭いものは蓋をするように隠蔽されるだけだ。なら、賭けてみよう。」


「ありがとうございます。会長。」


「ふん。フィオナを傷つけないようにせいぜい頑張るんだな。」


「学校の方は俺たちがなんとかするしかないね〜。学園長とあのキリト先生をごまかすんだから相当な労力だよ。働きたくないなぁ。」


「お前は生徒会副会長だろう。働け。ルヴィナス、お前も働いてもらうぞ。」


「ひどいなぁ。」

「ぼ、僕もか⁉︎ まあ、構わないが。」


三人も影ながら協力してくれるようだ。感謝しよう。


私はフィオナの方に顔を向けた。

フィオナはこちらを見て微笑んだ。ああ、彼女の顔を見ていたらなんとかなる気がする。

楽観的かもしれない。もっといい方法があったのかもしれない。だけど、今の時点で私が考えられる最善だ。


最後まであがいてみよう。

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