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17

闇が広がり弾けていくのがわかった。

人が傷ついていくのがわかった。

そして、私はそれを悦んでいた。


「ダメ、よ。シェリア。こんなのシェリアじゃないよ!」


フィオナが辛いだろうに、体を動かして私を止めにかかる。

心配しているのだろうか?

私の最愛の妹。安心させてあげなきゃ。


「大丈夫よ。フィオナ。貴女は私のもの。守ってあげる。貴女だけは傷つけないわ。」


「そうじゃなくて!」


なおも私にすがるフィオナ。何が不安なのだろうか?

私の愛が足りないのだろうか?言葉だけでは不安になるのかもしれない。

私は彼女のほおに触れる。雪みたいに白い綺麗な肌。マシュマロみたい。


「何が心配なの? 大丈夫よ。貴女を傷つけるものはすぐにいなくなるわ。」


「私、そんなことシェリアにして欲しくないよ!」


「……。」


どうやら、彼女は私が人を傷つけるのが嫌らしい。

やれやれ、わがままな子だ。でも、他ならぬ愛しの妹の頼みだ。聞いてやろうじゃないか。


私は手を空に伸ばし、広げていた闇を収束するように意識しながら手を握りしめた。

広がっていた闇が収束した。


周りの生徒は大なり小なり怪我をして横たわっていた。フィオナが止めていなかったら、数人死んでいたかもしれない。

ルヴィナスとスウォンまで巻き込んでしまったが、仕方ない。彼らは少し離れた場所にいたから、爆発の勢いで飛ばされ気を失っているようだ。


「スウォン先輩!」


フィオナがスウォンの側へ駆け寄った。


「え?」


私はあっけに取られてしまった。

フィオナはスウォンを選ぶのか。双子の姉である私を捨てて。


「シェリア。流石だね。僕、ゾクゾクしちゃったよ。」


虚空からゼノが現れた。何が楽しいのかニヤニヤと笑いながら空中に浮かびながら漂っている。


「あら、ゼノ。何か用。私、今とても機嫌が悪いの。」


私は淡々と言葉を返す。フィオナがスウォンの元へ行ってしまった。早く彼女を引き戻したいのに。


「そんな怖い顔をしないでよ。思い出したんだろう? 自分のこと。…君には僕しかいないんだ。ほら、僕と行こう。」


彼は私に手を差し出した。


ああ、そうか。私がどんなにフィオナを大切に思っても報われない。彼女はきっと別の誰かを選ぶ。私はフィオナには愛されない。

それなら、いっそ彼の手を取ろうか。


……ダメ。この手を取ったら私はフィオナと敵対しなくてはならない。


唐突にそんなことを思った。ふっと映像が思い浮かんだ。フィオナとスウォンを高いところから見下ろしている私。そんな画面。前世のゲームの記憶だろうか。手をとってはいけない。


「私、あなたとはいかない。」


「ふぅん? 僕とはいかないんだ。」


ゼノはわたしの答えが自分の意に反したのか、眉をひそめ少し不機嫌そうに言葉を返した。


「じゃあ、フィオナのところに行くのかい? こんなことをした君を彼女は受け入れてくれるのかな?」


ドクンッ


心臓が跳ねる。

……そうだ。私は何てことをしてしまったんだろう。彼女の最愛の人を傷つけるようなことをしてしまった。

きっと、許してもらえない。何よりフィオナがスウォンの元へ走ったのが証拠だ。


「今なら、さっきのは聞かなかったことにしてあげる。さあ、おいで。」


再び彼が手を伸ばしてきた。

誰からも拒絶されるのは嫌だ。求められないのは嫌だ。

それなら、求めてくれているゼノと一緒にいたほうが……。私は彼へと手を伸ばす。

だが、後方から声が聞こえた。


「ダメだよ、シェリアちゃん。そっちへ行ったら。」


唐突に体の自由がきかなくなる。更に空に浮く感覚がしだと思ったら後ろからすごい力で引っ張られていく。


「えっ! きゃああああ⁉︎」


予想だにしなかった出来事に、思わず悲鳴を上げてしまった。


「捕獲完了だね。悪い生徒はお仕置きしないと。」


「変態教師⁉︎ 何でここにいるのよ!」


私を引張ったのはキリトであった。私はキリトに後ろから抱きとめられる形になる。

体の自由が効かなくなったのは、奴が例の十八番の捕縛魔法を使って縛ったから。そのまま魔法で私を後方へ引っ張ったのだろう。


「俺は教師だからね。試験の様子がどうもおかしいと校長に言われて様子を見に来たんだ。」


「人のものに触れるなんて。最近の人間は礼儀がなってないだね。」


先ほどから黙っていたゼノが憎々しげにこちらを睨んでくる。その手には黒い闇が握られていた。魔法を放とうとしている。恐らく、私よりゼノのほうが実力が上。戦っても負けてしまう。


「ちょっ、変態教師。逃げなさいよ。というか、離しなさいよ。」


キリトが危ないと思って逃げることを提案するが、彼は私を抱きしめたままニコニコと笑っているだけだ。


「余裕だね。僕を侮っているのかな? 後で後悔しないでね。 ……はあっ‼︎」


ゼノの手から闇が放たれた。

まずい!


ジュン


「えっ?」


私たちを飲み込むのかと思われた闇は、目と鼻の先で溶けるように消えた。


「光の結界魔法……。この魔力波動はクレアメンスだね。」


ゼノが一瞬、驚いた顔をした。だが、瞬時に事態を把握したらしく一人ぶつぶつ言いながら納得した様子を見せる。


クレアメンス……

どこかで聞いたことのある名だ。

確かこの学園の…


「久しいな。ゼノよ。お前は姿形が変わらんな。悪魔と契約でもしたか。」


白いひげを蓄えた初老のおじいさんがフィオナたちがいた方角から歩いてきた。今まで気配を感じなかったが……。


「君は……だいぶ老けたね。クレアメンス。今は学園長してるんだっけ? 君みたいな奴に似合わないね。」


そうだ、学園の校長だ。そして、フィオナを学校へ推薦し支援している本人。


「学園の結界が壊された時はもしやと思ったが、本当にゼノだったとはな。昔はともかく、今のお前に可愛い生徒を連れて行かせるわけにはいかんな。」


「クレアメンス。君は何処までも僕の邪魔をするんだね。本当に鬱陶しい奴だ。」


ゼノの周りの闇が濃くなっていく。

二人は知り合いのようだが、ゲームの記憶でも全くそんな事実は知らない。

まして、校長が光魔法の使い手だなんて。

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