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入学式から数日…。
私はフィオナの後を追っていた。
ばれないように姿隠しの魔法を使って。
彼女の行動次第で私の命運変わるのだ。ストーカーみたいだが仕方がない。
私はここ数日で思い出せた記憶を整理した。
恋愛魔法学園での攻略対象は5人だ。
私が思い出せるのは俺様会長。ヤンデレ教師。まだ、実際に見た事はないが、引きこもりの留年している先輩。生徒会の副会長。
あと1人はまだ、欠片も思い出せない。
俺様会長との出会いイベントはすでに見た。
教師は私と予期せぬ接触はしたが、フィオナと出会いイベは起こしていない。
残り3人。出会いイベの選択肢で好感度数値が変わり、後々の展開に関わってくる。
彼女が誰ルートにはいるかで私も対応が変わってくるのだ。
このゲームは個人ルートの中でも多数のエンドがある。記憶が曖昧だが、ベストエンド。つまり、一番いいと言われるエンドでは私がラスボスとなり、最後に倒される。
だが、途中分岐で様々な方向へ物語が進行するのだ。
友情エンド、先輩後輩エンド。現状維持なエンド。…監禁エンド。死亡エンド。キャラにもよるが千差万別多種多様だ。
主人公のフィオナも選択肢を間違えると魔法の制御に失敗し死んでしまうこともある。
私としてはフィオナも生き残り、私も生き残れるエンドに行って欲しいと思う。
そしてあわよくば姉妹仲良く…うへへ
ごほん。でも、姉妹エンドは確かなかった気がする。うーん、残念。
「やあ、シェリアちゃん。今日も元気にストーキングかな?」
「んなっ…!?」
またもや背後から肩をポンと叩かれ声をかけられる。
姿隠しの魔法をかけているのにも関わらず、私と判断してだ。
「あら、キリト先生。ストーキングだなんて、人聞きの悪い子とおっしゃらないでください。」
私は平静を取り繕いながら返答する。
なんで、気づいたんだ。私の魔法は完璧だったはず。…てなんか、これ悪役のテンプレ的思想だな。
「わざわざ、ディスピアまでかけて特定の子を追いかけるなんてストーカーとしか言いようがないよね?」
ニコニコと微笑みながら私に寄ってくる。…なんだか妙な威圧感があり逆らえない。
てか、怖い。
うーむ、下手に言い訳すると言いくるめられてしまいそうだ。ここはばれた時の考えていた理由を使おう。
「…フィオナちゃんの後を追いかけていたのは認めます。」
「…! へぇ。」
彼はあっさり認める私に予想外だという顔をした。それで?とでも言いたそうに続きを促す。
「ご存知かと思われますが、フィオナちゃんは他の生徒から嫌がらせを受けています。それは主に私が彼女から離れた時に受けている様子。なので陰ながら彼女を見守っていたのです。」
どうや!
完璧なる言い訳!
きっと、キリト先生にとって釈然とはしないだろうが、一応筋は通ってる!
「…釈然としないけど、筋は通ってるね。」
私が思った通りの答えを返した。
ふふふん♪
エスキャラを言いくるめるのって何か快感!
しっかし、この先生困ったもんである。
私は彼女をいじめたりしていないのに、入学式の一件から完全に目をつけられている。
なんでだよー、そんなにフィオナちゃん大好きかよー。それとも、首謀者として疑われているのだろうか。
「要件は以上ですよね?失礼します♪」
言いくるめた事によって、少し声に喜びが浮かんでしまった。
彼は眉を少し潜め、何か思案するように顎に手を当てあ、そうだ。というばかりに
「いや、まだあるよ。…姿隠しの魔法、ディスペアは君はまだ授業で習っていないよね?」
ぎぎくううっ
「習っていない魔法の使用は暴走などの危険を伴うため、校内での使用を禁止。校則で決まってるよね、シェリアちゃん?」
くっそおおおう
最後の最後で爪が甘かった。
「えー、でも。フィオナちゃんの身の危険を案じての行動なので~」
顔に手を当て、ちょっと可愛らしい声でぶりっ子してみるが…
「可愛らしく誤魔化そうとしても、だーめ。…それとも、このあと彼女に危険があると確証があるのかな?」
彼の目が鋭く光った。…ように見えるだけだが、これ以上の弁解は逆に疑いを強めそうだ。
「はーい…。すみませんでした。」
「今回は厳重注意ってことで。次はないからね?」
くっ、この変態教師め!覚えてろよー!
その日は教師のせいでフィオナを見失い、それ以上の追跡はできなかった。
日にち変わって、数日後。
「ああっ!!」
ぼわっ!!
ここは魔法連技場。
その名の通り、実践的に魔法を練習する場所だ。
入学式からしばらく経ち、基礎の魔法を実践で試す授業を受けている最中だ。
「ふー、ミス・フィオナ。貴方は初歩の炎魔法も満足に使えないようですね…。」
やれやれといった感じで首を振る、魔法実技担当の先生。女のおばさまーという感じの先生だ。その声に周りの生徒たちが蔑むように笑う。
くすくすくす…
なんで、あの子ここに入学できたのかしら
顔だけは可愛いから…
えー、きたならしい
庶民はこれだから…
…なかなか古典的な陰口である。
この世界の魔法を支える人間は大抵得意属性がある。入学したてのころは初歩の魔法を満遍なく習っていくが、徐々にみんな得意な魔法をさらに極めていく。
フィオナの属性は光。
この世界で使える人は少なく珍しい属性だ。希少な属性で分かっていることも少ない。
ただ光属性の魔法使いは他の火、水、風、地といった四第属性の魔法を操りにくい傾向がある。また、フィオナは魔力の強さ自体も高くこの時点ではコントロールできないのである。
「また、失敗しちゃった…。」
とぼとぼと肩を落としながら私の方へ歩いてくるフィオナ。
ああ、そんな姿も子犬のようで可愛らしい。
「今回は発動したのだから、あとはコントロールをすればきっと大丈夫だと思うよ。」
私は落ち込む彼女に励ますよう声をかける。
「ありがとう。シェリア。」
そういって彼女はふわりと微笑んだ。彼女の笑い方はとても綺麗だ。眼を細めるようにまるで花がほころぶように笑う。
入学式から数日経って私たちは呼び捨てで呼び合う友達になった。今の所、ゲームの共通ルートの展開通りに進んでいる。
「ミス、シェリア。次はあなたの番ですよ。」
私の名前が呼ばれた。
「行ってくるね。フィオナ。」
「ええ。頑張って!」
私は所定位置に着くと、意識を集中させる。
さて、シェリアというキャラ。
魔法、座学ともに優秀な成績を収める優等生だ。これも、義両親から巣立つために必死で努力した結果だ。
私も前世の記憶を取り戻すまではフィオナに会うため、早く魔法を使いこなして家を出るためという理由で学園入学前から必死で勉強した。
甲斐あって、
「素晴らしいですね!ミス、シェリア!」
うん、私の中でもなかなかの出来だった。
見事な炎の馬が現れ、くるりと広場を回って見せた。
「あいつ、すごいな」
「座学もトップだったんでしょう!」
周囲の反応も中々良さげ。
フィオナといるようになってから、私自身も多少キツく当たられたりしたが、これで見返せただろうか。
こんなことを思っているあたり、私は性格が悪いのかもしれない。
「すごい!さすがシェリアね!」
ちょっと、仄暗い感情を持つ私にフィオナはとても可愛らしい笑顔で私に微笑む。ああ、私の天使。マイエンジェル!彼女といると癒される。
むしろ、フィオナを攻略したい!
…私は前世でギャルゲもプレイしていたが、レズではない。
こう、可愛いものは愛でるもの。
フィオナは私の理想の天使なのだ。
うん、意味わからないな、私。
「たまたまだよ。」
私はクールにそう言い捨てる。
そういえば、前世の私とシェリアの性格はかなり違う。
前世の私はゲーム大好き!なるようになれ!なお気楽、楽観主義だった。
よく一緒にいた友達に、悩みなさそうでいいね!と褒められたこともある。…褒められたのか?
だが、シェリアはその生い立ちのせいかとっーてもクール。冷たいともいえる。
前世の記憶が戻りつつある私ではあるが、10数年生きてきたシェリアとしての私が消えるわけではない。また、前世と言っても前世の自分の名前すら思い出せない曖昧なものである。
だが、前世の私の意識がある以上、シェリアの性格にも多少なりともかなり変化が現れたはずだ。それは私も自覚がある。今までフィオナに会うためだけに生きてきた。それ以外はどうでもよくがむしゃらに生きて世界は灰色だった。
記憶がうっすら戻ってからなんだか世界が明るく見える気がする。前世の私、ありがとう。
「これで、全員終わりましたね。ではこの結果をもとに、中間試験の組み分けをします。チームの組み分けは放課後、全学年集めて中庭で行われます。みなさん、忘れないように。では、解散。」
先生の号令で授業が終了し、生徒たちは各々解散していった。
ーーーー
「ねえ、シェリア!私たち同じグループみたいだよ!」
掲示板に張り出された紙を指差しながら、フィオナは嬉しそうに言った。
「そうみたいね。宜しくフィオナ。」
「こちらこそ!シェリアの足引っ張らないようにもっと頑張るね!」
「フィオナなら大丈夫よ。無理しないでね。」
先ほどの授業をもとに班分けが行われた。
このグループは一年間かわらず、主に魔法の実地訓練の時に一緒に行動する。
試験の時も同じグループで行われるので成績にも多大な影響を及ぼす。
そして、このグループは学年を問わず4人1組で形成される。
フィオナと私が分かれるルートもあったはずだが、どうやら一緒のルートらしい。
となると…
「お前は…フィオナか。」
「会長さん!」
「あら、生徒会長さんまで一緒なんですね。」
うむ、やはりフィオナは順調に生徒会長ルートへ進んでいたらしい。
私の死亡ルートへ着々と進んでいるということか…。
「君はシェリア=エコールフルラ、か。話は聞いている。座学、実技ともに優秀な成績を収めているらしいな。」
「そんなことありませんよ。」
「すごいね!シェリア。会長さんにまで知られてるなんて!」
フィオナが尊敬の眼差しで私を見つめる。
「それより、フィオナ。会長さんとお知り合いだったのね!どこで知り合ったの?」
「あ、うん。入学式の時、迷子になったところを…。」
彼女は手振り身振りを合わせながら私に説明してくれた。
ストーキング…ごほん。見守っていたから知ってるんだけどね。
「ともかく、一年間同じ班だ。俺の足を引っ張るなよ。」
と俺様会長が高圧的にの言った。
顔がいいとどんなこと言ってもカッコよく見えるから得だよね~。
「はい」
「了解しました。」
私とフィオナは同時に返事をした。
「あれ、そういえば、もう1人は…?」
フィオナが周りを見渡しながら言った。
会長ルートの時のグループ編成は…確か
「こーら。一年間を共に過ごす大事なグループだよ。顔合わせをサボっちゃダメだろう?」
「いやだ。僕はグループなどには縛られない!離せええ。この変態教師~~。」
「誰が変態だ。俺はいつも君たち生徒のことを思っている優しい先生だよ?…ほら、ついた。」
ぼてっという効果音がつきそうな感じでずるずると引きずられていた人物が離された。
「あ!キリト先生。こんにちは!…ルヴィナス先輩が外に出るなんて珍しいですね。」
フィオナがキョトンとした顔で問う。
いつの間に引きこもり先輩ことルヴィナスまで知り合っていたのか…!
ルヴィナス=ビビラ=ネルスアーク。彼もまたフィオナの攻略対象だ。彼はあまり授業に出席せず、一年留年して私たちと同じ学年だ。だが、留年しているのでスウォン会長と同じ年である。
髪は綺麗なブロンド、いわゆる金髪だ。背中あたりまで伸びた髪を緩く横に垂れ流すように結んでいる。ちなみにメガネだ。メガネキャラだ。
なるべく、フィオナの動向が掴みたくて側にいるようにしているが、どうやら出会いイベを私は確認できていなかったようだ。
というか、邪魔されて見ることができなかったのだ。この教師に。
にこり
ぞくっ…!
なんだか不気味な視線を感じてその方角を見ると、キリト先生がこちらを見て微笑んでいた。
くっ…この教師。何を考えてるかさっぱりわからん。油断ならぬ…!
「さて、これでグループ4人揃ったね。シェリアちゃん、フィオナちゃん、スウォンにルヴィナス。これで君たちのチームは全員だよ。」
「ルヴィナス先輩も同じチームだったんですね!一緒に頑張りましょうね!」
「僕はあまり人と関わりたくない。」
「そ、そうですよね。すみません。」
「…うっ。ま、まあ。この間はフィオナには世話になったからな。協力してやる。」
かくて、私たちの魔法実習班は4人全員揃ったのであった。
…あれ。俺様会長ルートだとはルヴィナスではなく違う攻略キャラがチームだと思ってのだが…。
私の記憶違いか?
「みんな、仲良くね。あともう1つお知らせがあるよ。君たちのチームの担当教師の事だけど…」
魔法実習班には数グループを掛け持ちで担当教師がつく。
魔法実習では予想外なことも起こりえる。例えば隠された魔法属性が突如発現したり、魔法の暴走などだ。
そんなこと普通は滅多にありはしないが、フィオナの光属性がわかるイベでは彼女は突如発現した光魔法を制御できずに大変なことになるイベントが起こる。
そういったことにすぐに対処できるよう担当教師が存在する。
確か、会長ルートではモブの若手の女の先生なはず。彼女はフィオナの魔法の発現兆候に気付くことができず、彼女の魔法を暴発させてしまうのだ。
「俺になったから、よろしくね?」
「そうなんですね~。…って、ええ!?」
嘘だろう…!?
「なあに?シェリアちゃん。俺で何か文句でもあるのかな?」
「…いいえ。まさかある訳ないじゃないすか~。」
文句、大ありだわ!!
なんで、お前がしゃしゃり出てくるのだ。
「シェリア?」
フィオナが不思議そうにキョトンとした顔で首を傾げている。
…か、かわいい。
「まあ、4人ともよろしくね?スウォンも去年は俺の受け持ちだったし、よく知ってるから今更自己紹介なんていいよね。じゃ、今日は解散だよ。またね~。」
そう言ってキリトはあっさりと下がっていった。
うーん、なんだかここに来てルート通りに進まなくなってしまった。
一体全体、どうなっているんだろうか?