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筆記テストはなかなかいい手応えがあった。おそらく大丈夫だろう。
問題は実技だ。あれから毎日魔法の特訓を密かに行っていたが、威力は日に日に落ちていく。無属性の魔法が少し使えるのだけが救いだ。
逆に日増しに大きくなっていくのが、黒い力。おそらく闇属性の魔力なのだろう。
だが、扱い方を知らない私は下手に使用すると暴発させる危険性がある。癪だが、ゼノあたりに教わるしかないのだろうか。
だが、あれ以来彼は姿を見せない。結局、確固たる対策は施さず、実技試験の当日となってしまった。
「君たちの試験内容は潜入ですね。これが潜入する場所。ここの場所でこの巻物と同じものがあるからそれをどんな方法でもいい、取ってきて下さいね。」
校庭には様々なチームの班が集まって固まっており、私達は一人の教師から課題の説明をされていた。
それぞれのチームで課題が違い、少しずつ校庭から生徒が離れていくのが見えた。
「よし、場所は覚えた。フィオナ、シェリア、ルヴィナス、行くぞ。」
会長は教師から貰った場所を示す地図をみて、そういった。
「はい!」
「うむ。」
「了解です。」
私たち三人はほぼ同時に返事をする。
地図に示された場所は街中にあるようで、少し遠出をすることになる。歩くと時間内に間に合わないだろう。ここは魔法を使おうとルヴィナスが言った。
だが、別々で移動するとテレポートした位置がズレ逸れる場合もあるので、スウォンのテレポートをフィオナが増幅することで四人全員が街中に移動することができた。
「フィオナの増幅はすごいな。あっという間に街に移動することができた。」
「スウォン先輩の魔法が上手だからですよ。」
スウォンとフィオナはテレポートが上手くいったのは相手のおかげだと、お互いがお互いを褒め合っていた。
……こっちはこんなイチャつきをみながら、試験に挑まなければならないんかい。
というか、これでまだ付き合っていないのか。前世でゲームをしていた時は、気づかなかったが端で見てるとじれったいのと甘いイチャつきを間近で見せられ参ってしまう。
「僕らはこんなのを見続けなければいけないのか。」
ルヴィナスがぼそりと呟く。
ああ、それには激しく同意するよ。ルヴィナス。
でも、フィオナは幸せそうだ。
心が温かくなるのと同時に冷たい嫉妬の気持ちが渦巻く。
落ち着こう。深呼吸。
「すーーはーーー」
「何をしているのだ、シェリア。」
ルヴィナスが少し呆れた目でこちらを見てきた。
なんだよ、そんな目で見るな。私にとって結構重要な精神安定なんだ。
「気にしないで。さあ、二人の後に続くわよ。」
私達は先に歩いていくスウォンとフィオナの後をついていった。
しばらくして目的の場所に近づくと私達はディスピアで姿を隠した。
恐らく妨害を担当する人がいるはずだからだ。なるべく無駄な戦闘は避けたい。
潜入が私たちの試験だが、逆に捕縛が課題のチームもあるらしい。前年もテストを受けたルヴィナスとスウォンが言っていた。
「ここ、ですかね?」
フィオナがポソリとつぶやいた。
そこは庶民の家にしては広く大きかった。貴族の別邸という感じだろうか。屋敷だけでなくそれを囲うように美しい庭園存在した。花壇に花々が咲き乱れ、噴水があるのが見える。
「恐らく学園が試験用に保有する屋敷の一つだと思う。」
試験会場にしては豪華すぎやしないかと思ったが、ルヴィナスが説明するように言った。
「恐らく俺たちの妨害するチームもいるはずだ。気を引き締めろ。」
スウォンが周りを警戒しながら注意をする。あくまで潜入。ばれたら成績に響く。
私達は慎重に屋敷へと侵入した。
庭園を慎重に進んでいると、恐らく邪魔するチームだろう。学園の制服を着た男子生徒が一人いるのが見えた。杖を構えながら周囲を伺っているようだ。
チームで行動していないのか?
なんとなく違和感を覚えたが、抑えた。手分けする作戦なのかもしれないし。
先頭にいる会長が注意するようにと手で合図した。屋敷に入るにはその生徒の側を通り抜けなければならない。
まずはスウォンがそーっと横を通り抜けた。気づかれていない。
ディスピアの魔法は完璧のようだ。次にフィオナが行った。大丈夫みたいだ。
次は、私。そーっと彼の横を通り抜ける。
気づかれていない。大丈夫。そう思った瞬間。
「スノー・ブラスト。」
淡々と無機質な呪文の声が聞こえた。そう思ったら周りに冷気が集まっているのを感じた。ヤバい!
危機を察知した私は横へ飛び難を逃れた。私がいた場所には氷の結晶が地面から生えていた。まともに当たったら氷の彫像だったなあ。拍子にディスピアの魔法は解けてしまったが。
「シェリア!」
まだ、私の後ろにいたルヴィナスが叫んだ。そんなに叫んだらで気づかれるでしょうが。突っ込みたくなるが、我慢だ。
ばれてしまったのだから仕方がない。幸い他の三人にこの男子生徒は気づいていないようだ。
「?」
なんだか、違和感が強くなる。男子生徒は私に魔法をかけたのにもかかわらず、明後日の方向を見ていた。ただし杖だけはこちらを向けている。なんだか、目も虚ろで人形みたい……。
「スノー・ブラスト。」
そんなことを考えていたら、二発目の魔法が聞こえた。ヤバい、今は考えている時間はない。
「私が囮役になるから、他の人は先に行って!」
なんだか死亡フラグっぽい台詞だが、今はそれが最善だろう。さっさと試験の目的を果たせばそこで終わる。
スウォンもそう判断したんだろう。フィオナを連れて屋敷に入っていくのが視界の端で見えた。問題はルヴィナスだ。私の後ろに続いていたため抜けようにも抜けられない。ルヴィナスもスウォン達についていく気がないらしく、ディスピアの魔法を解いて私の方へときた。
「二手に分かれた方がよかろう。お前一人単独に行動させるのも悪い気がするからな。」
正直、とても助かる。今の私はろくな攻撃魔法も使えない。囮と言っても避けて気を引くだけでは最後まで持たなかった。
「ありがとう、ルヴィナス。」
「ルヴィでいい。その方が呼びやすいだろう。……しかし、あの生徒様子がおかしいな。」
「そうですね。」
男子生徒の目は虚ろのままで、ぼんやりしている。まるで、傀儡……。
そこまで思ってから私は気づいた。
この場面は見たことがある。ゲームで。そうだ、中間試験では何者かがテストを邪魔する。そしてフィオナは命の危険にさらされるのだ。それがきっかけでフィオナの魔法が暴発し正式に光魔法の属性の持ち主と認識される。
「フィオナが大変……!」
「えっ?」
私がつぶやいた言葉にルヴィナスが怪訝そうに聞き返した。だが、説明する暇もなく……
「スノー・ブラスト」
またもや、あの男子生徒が私達に向けて魔法を放ってきた。私とルヴィナスはお互い反対方向に飛んで魔法をかわした。
「試験だというのに、直撃したら擦り傷では済まなさそうだな。」
男子生徒が使っている魔法は対象を攻撃する攻撃魔法だ。以前、スウォンがスライムを討伐するのに使った魔法と一緒だ。スウォンほどの威力はないものの、当たったら最低でも凍傷は免れないだろう。
「仕方ない、少々怪我をさせてしまうかもしれないが。……ファイアー!」
ルヴィナスが魔法を使うのを見たのは初めてだ。眼鏡キャラは大概水属性が得意そうだが、彼は火魔法が得意だ。
彼が放った人の頭くらいの大きさの火の玉は男子生徒に向かっていく。直撃したら結構なやけどを負ってしまうが……。
「ブレイク!」
彼がそう唱えると火の玉が弾けた。
火の玉は火の粉になり男子生徒へ降りかかった。ところどころ服が焦げている。男子生徒が火に気を取られている間にルヴィナスはさらに呪文を唱え、
「スリーピング」
男子生徒はあっさり眠って倒れてしまった。スリーピングの魔法は不意打ちする事によってかかりやすくなり、効果が長くなる。ルヴィナスは炎の魔法で気をそらし、スリーピングをかけたのだろう。




