12
「こーら。そこまでだよ。シェリアちゃん。」
またもやいいところで誰かに邪魔される。
キリトだ。
私の首根っこを捕まえてルヴィナスから引き離す。
「何をするのよ。野暮な人ね。」
「今は俺の授業。好き勝手は許さないよ?」
ニコニコと穏やかな雰囲気を纏っているように見えるが、目が全く笑っていない。
「ほら、保健室で解毒剤を調合してあげる。こっちに来て。……他のみんなは授業を続けて!」
他の生徒に指示を出し、キリトは私の手首をしっかりと掴み引っ張っていく。
「離しなさいよ!」
ズケズケと無言で引張ていくこの男。
無粋極まりないわ。私はただ可愛いものを愛でていただけなのに。
この男はちっとも可愛くない!
振り解こうにも力が強くて振り切れない。
保健室につくと椅子に座らせられた。医務の先生は席を外しているらしく、姿が見えなかった。
キリトは保健室の薬品がしまっている扉を開け何やら調合しているようだ。
この間に逃げたいところであるが、彼のお得意魔法で縛られて椅子から離れられない。正常な私のだったら、きっと今の状況にツッコミを入れただろう。
「できた。はい、シェリアちゃん。これを飲んだらきっと目がさめるよ。」
キリトは薄黄緑色の液体を私に渡してきた。かろうじて手は動かせる状況なので、自分で飲む事が可能だ。
だが、せっかくのいい気分を邪魔されていた私は頭にきている。少しこの男を困らせてやろう。
私は薬を受け取らずにフンッとそっぽを向いた。
「いやよ。飲まない。せっかくいい気分なんだもの。邪魔しないでよね。」
「わがまま言わないの。今の君は正気じゃないからね。」
「絶対飲まないわ。」
「やれやれ、今の君は困った子だね。」
「貴方がせっかくの雰囲気を邪魔するからよ。ああ、それか……。」
私は少し思案する。
いい事を思いついたのだ。きっとこの男は困るだろう。この男の困った顔を見てみたい。
後に正気に戻った私はこの時の事を後悔する。とっても。
「貴方が口移しで飲ませてくれたら、飲んでもいいわ。」
ニコリと笑っていう。この男は教師だ。きっと大層、困るに違いない。私は彼の困った顔を想像してワクワクと彼の顔をちらりと盗み見る。
想像に反して彼は笑っていた。口角をあげて。効果音をつけるならニヤリだろうか。いつものニコニコという感じではなく、意地悪く。
なんだ、少しも困っていないじゃないか。つまらないわ。
その時の私は彼の不穏な雰囲気に気づいておらず、のんきにそんな事を思っていた。
「言質はとったよ。」
ボソリと彼は不穏な言葉を呟いた。
「え?」
と戸惑っている私に構わず彼はそのまま解毒薬の入った瓶の蓋を指で弾くように開けた。蓋はそのまま床に転がる。
彼はそのままビンに口をつけ三分の一程だろうか、一気に口に含んだ。
「え⁉︎ ちょっと冗談……!」
慌てて止めようと口を開ける私。
彼は私の後頭部を掴んで上を向かせ、口付けた。
「んんーーー! ゲホッ、ゲホ。」
液体が流れ込んでくる。変なところに入ったのか私はむせ込んだ。口移しって、結構息苦しくてつらい。
「あはは。まだ、二回分はあるよ?」
キリトは笑いながらまた瓶に口をつけ、薬を口含む。
「ちょっ、私が悪かったから……!」
彼の顔を押しのけようとするが手首を掴まれ、抵抗ができなくなってしまう。
そのまま、なし崩しにまた口付けられる。
私がせめてもの抵抗に口を閉じていると、唇をペロリと舐められ驚いて口を開いてしまう。そのまま、ゴクリと液体を飲んでしまった。
「じゃ、次でラストだね。」
私は酸欠で少し頭が朦朧としてきていて、三回目は抵抗する気力もなくなっていた。キリトが私の顎に手を当て、くいっと上に向かせられ口付けられる。
もう、こうなったら早く終わらそうと思って自分から口を開いた。流れ込んできた液体をごくっと飲み干す。
フゥ、終わったと思って口が離されるのを待っていたら、彼は何を思ったのか口の中に舌を入れてきた。そのまま口内を貪られる。
「っ⁉︎」
驚いて目を見開くとキリトは目を開けてこちらを見ていた。その目はどこか暗くて、妖しげで……。思わずドキりと心が跳ねた。
「はっ……。」
「んっ……。」
どちらのものかわからない甘い吐息と声が静かな保健室に漏れる。
熱に浮かされたようにぼーっとしてしまう。そして、ふと口を離された。
「今の俺に出来るのはここまで、か。」
どこか寂しげにキリトは呟いた。いや、ここまでどころかどこまで進もうとしていたんだ、こいつは。
すっかり薬の効果とやらも消えて頭はスッキリ爽快な私は叫んだ。
「この、変態教師ぃーーー‼︎」
これを書いている今、GWで絶賛社畜なうです。
1日1枚更新しようと思っていますが、お話が短くなっております>_<
その分糖度が濃ゆめですね 苦笑




