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プロローグ

学校の廊下をキョロキョロと見回しながら歩く少女。癖っ毛なのか耳の横で2つ結びにしているが、金髪の髪がふわーっと広がっている。瞳は綺麗なコバルトブルー。やや童顔で笑うとまるで天使みたいだ。


そんな超絶美少女を廊下の端から熱い視線で見つめる…私。はたから見たら怪しいことこの上ない。だが、廊下にはフィオナちゃんと私以外に誰もいないため、私を怪しむものはいない。


ああ、まさか乙女ゲームのヒロインに会えるなんて…!

ゲームよりも可愛らしく見える…!

かわいい、きゃわいい!


「はうわーーーー…。フィオナちゃん。きゃわいいいいーーー!!」


はっ!

思わず心の声が漏れ出てしまった。

金髪の美少女こと、フィオナちゃんはびくっと体を震わせ周りの様子を見る。


やばい、見つかる。慌てて私は姿隠しの魔法をかけた。


「ディスピア」


ふーっと私の姿は透明になる。

ここは魔法学園。ファンタジーの世界だ。

魔法が使える世界なんて夢見たい!そんなことを思いながら。私、シェリアはフィオナの元を後にした。


そして更にここはファンタジーな乙女ゲームの世界。主人公は先程の天使のような女の子のフィオナちゃん。

私は前世、地球の日本で大学生として生きていた。前世の私は、とんでもなくゲーマーで、乙女ゲームは勿論、ギャルゲーやロールプレイングゲーム、なんでも手を出していた。

プレイしたゲームは星の数。題名は思い出せないが、私がいる世界は前世プレイした乙女ゲームの1つのはずだ。

この話は魔法学園でお勉強しながら恋も発展。乙女ゲームの王道といえば王道だ。王道でありながら、エンドの種類が多く、中々攻略のしがいがあるゲームで随分とのめり込んだものだ。


そんな世界に私は生まれ変わった。

だが、しかし!


「まさか、主人公のボス的悪役に生まれ変わるとは…。」


私はあれから、フィオナちゃんに見つからないようにそーっとその場を後にし女子トイレにいた。洗面所の鏡を見ながらふーっとため息をつく。


主人公の天使のようなフワフワくせ毛と違って、まっすぐでクセのないドストレートな銀色の髪。瞳はダークレッド。ややつり目できつそうな印象を与えるが、フィオナちゃんとは違ったクール形の美人だ。


シェリアとフィオナは実は生き別れた双子の姉妹だ。

幼い時の事故で両親を亡くし別々の家に引き取られた。フィオナを引き取った義両親はとてもいい人達でその愛を受けてすくすくと育った。逆にシェリアを引き取った義両親はシェリアを厄介者扱いしていて、ひどい扱いを受けてきた。魔法学園で再開した私達。

…だが、フィオナは幼い時の事故の記憶がショックでシェリアの事を忘れている。義両親の元でひどい扱いを受けながらも、これまで頑張ってきたのはいつかフィオナにまた出会うため。

これまでフィオナに執着していたシェリアは忘れられていることに絶望し、激昂する。最初は仲良く友達しているが、最後には裏切ってフィオナとその攻略対象の前に立ちはだかるラスボスと化すのである。


私も前世を完全に思い出したわけではなく、フィオナを学校で見かけて記憶が流れてきた。今思い出せる情報はこのくらいだろうか。

ただ、厄介なのは


「シェリアの死亡ルートはいくつあったかしら…。」


…結構、シェリアはいろんなルートで死ぬ。


前述した通り、最後のボス的な存在でフィオナと攻略対象に立ちはだかるのでころっと死んでしまうのである…。


前世の記憶を思い出そうと頭に手を当ててうーんどうなるが、思い出せないものは思い出せない。


「ま、なんとかなるかー♪」


前世のお気楽な性格を存分に発揮し、私は思い出す事を諦めた。


死んだらその時はその時。せっかく魔法の世界に生まれたんだから死ぬその時まで楽しもう~。


さて、女子トイレを後にした私は、再びフィオナちゃんを探しに来た。

フィオナちゃんと攻略対象のイベントを見るためである!


そう、フィオナちゃんのストーキング…ゲフゲフ、見守っていたのはただの興味本位などではないのだ。

今日は魔法学園の入学式。入学式でフィオナは広い学校で迷子になり、攻略対象に道案内をしてもらうイベントがあるのだ。

いわやる、出会いイベント。この時の選択肢により好感度が変動し、後々の誰のルート派生するか予測できる。


フィオナは相変わらず、キョロキョロと歩き回っているが先程とは違い表情に焦りが出てき始めている。入学式の始まりの時間まで残り少ないのだ。


「どうしよう…。さっきの先輩方はここの奥に式場があるって言ってたのに…。」


少し泣きそうな顔のフィオナちゃん。

とっても可愛らしい…!

今すぐ抱きしめてあげたい!

だが、ここは心を鬼にする。…というか、嫌がらせイベントはもうおこっていたのか。私が席を外していた間におこったのだろうか。


魔法学園は魔法の才能は当たり前だが、家柄のランクでも中々周りの評価が変わる。フィオナの義両親はとてもいい人達であったが、家柄はそこまで高くなかった。また、この時点でフィオナは魔法の才能は限りなく低い。勿論、このあとの展開でかなりの実力者だと判明するのだが。

フィオナちゃんは身分がたかーい人達にとって目の上のたんこぶ。最初は嫌がらせされるのである。


「こんな所で何をしている?」


おおっと、そうこうしている内に攻略対象のキャラが来たようだ。


「…!す、すみません。ええっと、道に迷ってしまって。入学式の式場はどこでしょうか?」


フィオナの前に現れたのは、制服をきっちりと着こなした男子生徒。少し暗めなブルーな髪は肩に少しかかるくらいの長さ。瞳は綺麗なブルー。制服をきっちり着こなしており、どことなく威圧感がある。


彼の顔を見た途端、ふーっと前世の記憶が蘇る。


彼の名はスウォン=ウエルトルフ。

この魔法学園の生徒会長。そしてよくある、ドSな何様誰様俺様会長だ!彼はこのゲームのメインヒーローとも呼べる攻略対象キャラだ。

最初は冷たい態度に嫌われているのかと引いてしまうフィオナだが、徐々に彼の持つ優しさや過去に惹かれていく、王道の恋愛ルートである。

だが、


「死亡ルートあり…」


私はぼそりと呟く。彼のルートでベストエンドに行くと、ラスボスとして立ちはだかり、私は死ぬ。

うぬぬ…。


いや、これはあくまで目安でフィオナの行動次第で彼のルートはいかない可能性も存分にある。

お願い、今世の我が妹よ、彼のルートに行かないでくれ…!

私は心の中で必死に祈った。


私があたふたと記憶を整理している間にイベントは順調に進み、フィオナは無事に彼に案内されて式場へと向かっていった。


「現時点では生徒会長ルートが可能性高。」


ここでは、自力で式場を探す選択と案内される選択肢がある。彼女は案内されたようだ。案内を頼むと会長の好感度が上がる。


会長とフィオナのイベントに気を取られていた時だ。


「こんな所で何をしているのかな?」


ポンと後ろから肩を叩かれ声をかけられた。


「ひょわっ!?」


思わず変な声が出てしまった。

慌てて振り返るとそこには二十代前半くらいだろうか?男性が立っていた。薄茶色、光の当たり具合によっては金髪のようにも見える。ショートカットでサラサラな髪だ。

こいつも見たことあるぞ…確か。


「君、シェリアちゃんだね。」


私が思い出しきる前に先に彼が私の名を口にした。


「もうすぐ、入学式だよ?こんな所で何をしていたのかな。…もしかして、初っ端からサボるつもり?いけない子だね。」


そうだ、彼もフィオナの攻略対象キャラ…、キリト=ルッサーレ先生。

実は彼はただの先生ではなく、フィオナの生家に深く関わりのある人だ。幼い頃のフィオナとは何度かあったこともあるはず…。

生前、フィオナ…私たちの両親と交流があり、私とフィオナが生き別れるきっかけとなった事故の時は彼は大変心を痛めた。

学校で再び出会ったフィオナを今度は穏やかな日々をと願って陰ながら支える。

だが、嫉妬深いキャラでもあり、彼のルートは独占欲に支配される。ちょいヤンデレキャラだ。

普段からニコニコとしていてつかみどころがないので、油断ならない男である。


ぶわわわっと記憶が思い出された。

彼はこの物語の真相ストーリーにかじっているキーキャラなので設定がとても多い。


「黙っているということは図星なのかな?」


にっこりと微笑みながら問う先生。

私は記憶の波にのまれ、しばらくほうけていたようだ。

その間に彼は私をさぼりと認識したらしい。

これはまずい。


「い、いえちがいます。ちょっと道に迷ってしまって!今から向かいますのでお構いなく!」


私はそう言い捨てるとピューッと式場へと走り去る。

彼はシェリアにとっての要注意人物だ。シェリアの死亡ルートに多いに関わる。大抵のルートで私は彼に直接手を下され殺されてしまう。

彼にとってフィオナが一番大切でそのほかは容赦なく切り捨ててしまえるのだ。ニコニコと笑いながらサクッと殺されてしまう!


目をつけられたらやばい!

なんだか時すでに遅し感はあるが、逃げるが勝ちだ!ダッシュだ、ダッシュ!


「あ、こら。待ちなさい。…ウィンドロープ。」


ヒュルルルッ…


「えっ?!うわ!…いきなり魔法で生徒を捕まえるなんて!この、変態教師!」


思わず、悪態がついて出てしまった。


走り出していた私は見えない紐のようなもので、膝から下の足を拘束された。

これは、風を操り相手を捕縛する魔法だ。

て、冷静に分析してる場合ではない。


「誰が、変態教師だ。…まだ、サボりじゃないと断定できないから。1人で行かせるわけにはいかないよ?」


「そんな、サボりだなんてしませんよ!」


「だーめ。それに俺は君の担任でもあるから、責任もって入学式場まで案内してあげる。」


おのれえええい。


…結局、私はこのヤンデレ担任教師さんに式場まで連行されることとなってしまった。


ーーーー


無事、入学式がおわりみんなそれぞれクラスへと向かう。


私はフィオナちゃんを少し離れた後方から尾行…いや行くクラスは同じなのだからしょうがないのだが…。


彼女とは同じクラスになるはずだ。

そして、仲の良い女友達になる。

他の女子に嫌がらせされる中、シェリアだけは普通に接してくれ無二の親友になるのだ。

ゲームではそこから色々あり、最終的に今までのは嘘だったのよー展開でボスとして立ちはだかるわけだ。


うーむ。


死亡ルートを回避するには主人公と関わらずひっそりと生きていく方がいいと思われる。

嫌がらせを受けるフィオナには気の毒だが、やはりなるべく死にたくはない…。

痛そうだし…。


「ねーぇ?こんなところに庶民が混じってるんだけど?」


教室に入り、各々が席に着いていく。

だが、少数の生徒が教室の隅で集まっている。


これは、もしや…?


恐る恐る遠目で気づかれないように様子を伺ってみると、1人キツそうな女生徒がフィオナにむけて話している。

女生徒の周りには取り巻きだろうか?数人の生徒がフィオナを取り囲んでいた。


「警告イベントか…」


庶民で魔力も凡人、まして人気者の生徒会長に道案内されたとあって、彼女は入学早々から目をつけられてしまうのだ。


周りはみんな見て見ぬ振り…もしくは同意するかのように。冷たい目線を送るだけだ。


ちなみに私の義両親は性格こそ最悪であったが、家柄はよく、幸運にも彼女たちの嫌がらせ対象には入らなかった。


「…じゃ。勘違いしてつけあがるんじゃないわよ!」


どうやらイベントは終わったようだ。


フィオナはしょぼんと落ち込んだ様子で席に着く。私の隣だ。

そう彼女とは席が隣同士。

本来なら私が「大変だったね?」と声をかけるストーリーなのだが。


…私は迷っていた。

彼女と関わることで死亡フラグが開通してしまうのではないかと。

うーん。声をかけるべきかかけざるべきか…。


フィオナは可愛らしい顔を悲しみに歪ませている。彼女はこの魔法学園に入学するのを心待ちにしていたのだ。誰かを救える魔道士になりたい。そんな強い思いを胸に必死な思いでここにきた。


私はフィオナという主人公がとても好きだった。天使のような容姿。逆境に立たされながらもひたむきに頑張る健気な子。かといって、空気が読めないわけではなく。とても好感が持てる主人公だ。

私がこのゲームにはまったのも主人公の性格がモロ好みだったのも大きく関係あるだろう。


ギャルゲでもなかなかいないぞ、こんなかわゆい子。おにゃのこもいいですなー。悲しみに瞳を潤ませる姿も最高です。可愛いです!


「落ち込んでる顔もかわゆいですな~」


「…え?」


しまったあああああああ

心の声漏れたあああああああ!!

私のバカあああああああ。


「さっきは大変だったね!」


私は慌ててこのイベントのきっかけのセリフを口にする。

ええい、ままよ!


「…ちょっと、嫌われちゃいましたね。でも、まだまだ学生生活は長いから、また仲良くなれるチャンスはあると思うから。」


彼女は悲しげに眉を八の字にしながらも、前向きな意見を口にした。


「まあ、あんまり気にせずにいきましょう!私はシェリア=エコールフルラ。あなたのお名前は?」


「フィオナ=ルーシェ。シェリアちゃん。貴方はとっても優しいんですね。宜しくお願いします。」


彼女はそう言うと天使のような微笑みを見せた。


かわええ、かわええよ!天使!フィオナちゃん!


こうして、色々悩んだ挙句に自分から墓穴を掘り、フィオナとお友達ルートは開通したのであった。


…すったもんだあったが、各々自分の席についたのをみはかったかのように


がらららっ


教室の扉が音を立てて開かれた。

中へ入ってきてのは


「みんな、入学おめでとう。これから1年担任をする事になった、キリト=ルッサーレだよ。よろしくね?」


あの変態教師である。

本人も先程言っていた通り、やはり担任の先生だったようだ。

彼がいるとフィオナに近づきにくい。面倒だなあ。


「軽くだけど、これから一週間の大まかな予定を説明するね。まずは…」


彼への対応は慎重にしないといけないな。

そう、私は心に固く誓った。

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