朗らかな出来事
済みません。
投稿したんですけど、あの時から2回ほど加筆しました。
これで良い!と思っても次の話を書いてるとこれ、前のやつと一緒で良いなと思ってしまい、加筆してしまいました。
ご迷惑かけます。
今度こそ次の話に行きますので本当に申し訳ないです。
(P.S.明日までにはあげますので)
「〜〜〜〜〜♪」
鼻歌を歌いながらグローセは歩く。
そうして暫く歩いていると、街に着く。街と言ってもこのドが付く程の田舎からしたらの話だ。グローセからしたら街?と疑問符がつくような場所ではある。町とした方が良いのではとも思うが、そんな事はここや、この近隣に住む人が決める事である。今、幾ら考えようとも詮無いことだ。
街に入るには、門をくぐらなければならない。門と言ってもこちらも木でできた粗末なものだ。門と呼べるか甚だ疑問だが一応門の形は取ってある。一応でも門があるということはそこに立つ衛兵がいるということだ。
さて、ここで疑問に思うのがグローセはこのまま街に入れるのかということだ。なぜならグローセは今、大猪を引きずっているからである。流石に大猪を引きずって街に入ろうとするのは不審者に思える。
が、問題はなかったようだ。
衛兵はチラッとグローセを見ただけであとは興味をなくしまた前を向く。これは衛兵の職務怠慢ではない。この街には冒険者組合が小さいながらもある。モンスターが運び込まれてくる場合もあるので動物ごときで騒いだりしないのだ。あとは、顔見知りというのもあるだろう。何度も訪れているのだから知り合いぐらいできるだろう。ただ、知り合いにしては対応が淡白過ぎるという気がしないでもないが。
その反応は街に入ってからも続く。
彼方此方からグローセを罵倒する言葉や、グローセを忌避する人物もいる。
「また、あの呪子よ。とっとと出て行ってくれないかしら」
「ここにも災いを呼び起こしやしないだろうね。いい迷惑だよあんな子を街に入れるだなんて。衛兵はなにしてんだい。とっとと追い出してくれりゃ良いのに」
「あの村の人達全員死んだってのに一人だけ生き残ったらしいからね。この街にも災い起こす気なんじゃないだろうね」
災い、呪子。罵倒する人々の話の中にはこのワードが含まれていた。そして、そんな陰口の嵐をグローセは何処吹く風と気にせずに歩く。その顔には何度も言われ慣れたのであろうか、ある種の貫禄が出ていた。
『カカッ。相変わらずひでぇもんだなぁ。おい。街に来るたびに言ってるぜあいつらぁ。よく飽きないもんだよなぁ』
(もう、慣れましたよ。それに人間ってこんなもんだってのもよく分かれます。捌け口を見つけたらそこを突かずにはいられない。まあ、でも怖いのかもしれませんね。自分が知らないものを、現象を体験した者が。自分とは違う存在に感じるんでしょう。そんなの全員に当てはまることなんですけどね)
と、少し表情に影を落とす。だが直ぐに何かを思い出したのか少しニヤけさせる。
(ただ、あれには驚きましたよ。子供のボール)
それだけで両者には通じる何かがあったようでオクトタも直ぐに相槌を打つ。実際は火の玉がブルブルと震えただけであるが。
『ああぁ、あれかぁ。あれはまあ確かに驚いたなぁ。なんせ、転がってきたボールをお前が拾ってそれを持ち主の子供に返しただけだっていうのに、それを見てた友達かは知らんが同い年ぐらいの少年がそのボールを投げ返してきて、「お前が触ったボールなんかいるか!この呪子が‼︎」って言ってきたもんなぁ。大人だけじゃなく子供にまで言われるなんてかなりの末期だよなぁ』
と、オクトタは非常に楽しいことがあったかのような雰囲気で喋る。グローセもグローセでその言葉に機嫌が悪くなるどころか、さらに機嫌をよくしたようでさらに話が弾む。
「そうそう、そうなんですよ。あれで、どれだけ子供が親の影響を受けるのか、という事が分かれたんですよね。いやぁ、そう思うと僕って恵まれてましたよ。だってとっても素晴らしい母親だったんですから。」
かと、思えたが一方的にお話をする会話?になってしまったようだ。
『はあぁ、また始まっちまったよ。これ』
と、ため息をそっとつく。話を聞いていてあげるだけオクトタの優しさが分かるというものだ。
会話とは呼べない一方的なおしゃべりから数分後目的の場所に着いたようで、おしゃべりはようやく終わった。オクトタは火の玉のはずなのにどことなくやつれたような感じがするのは気のせいではあるまい。
グローセが立ち止まった場所はここら辺ではそこそこの規模のお店のようで、結構大きい。の割にはそこまで、と言うよりも一人もお客様がいるようには思われないのだが。
そんなお店の看板には無骨な文字で解体屋とだけ記されている。そのお店に猪を引きずりながら入ると続けて言葉を発した。
「おじちゃん、またお肉を持ってきたのでお願いします」
その声に、返事が返ってくると同時にドドドドドッと走るような音が聞こえてくる。それも二つ。その音が止むと同時に姿を現したのは太ってはいるが腕などにそこそこの筋肉が付いている事がわかる手がゴツゴツしている年のいった男と、男と同じぐらいの年でこちらは完全に恰幅が良いだけの女だった。
「おお、よく来たねグローセちゃん」
「まったくだ、いつもより少し遅かったから心配してたんだぞ。でも、よく来たな」
まるで家族に接するかのようなそんな雰囲気を漂わせている。さっきまでいた人たちとはまったく対応が違う。グローセもそれが当たり前かのように話し合う。
「すみません。少し眠ってしまってまして。迷惑をかけたようで申し訳ないです。でも、今日も獲ってきたものには自信がありますよ」
と、すまなそうな顔をしてから直ぐに自信満々といった表情に変わる。
そんな表情を見た男はニヤリとし、
「ほほう、それは楽しみなことだな。だが、この解体一筋うん十年の俺を果たして満足させられるかな少年よ」
と、尊大な言葉を言う。
そんな男の言葉に女はハア、とため息を出したかと思うと背中を思いっきり叩いた。バチーンッとかなり良い音が響く。
「いっテーーー!」
「何が、いっテーーー!だいこのバカ亭主は。何度その言葉を言えば気がすむんだい。あたしゃ良い加減うんざりなんだよ。グローセちゃんが持ってきてくれた猪はデカイんだから直ぐに分かるだろうが。それとも分からないほど耄碌したっていうんじゃないだろうね!」
「いや、そこまで言わんでも良いじゃないか」
「ああ、はいはい。分かったからグズグズしないでとっとと作業に取り掛かりな。時間は有限なんだよ」
力関係が一瞬でわかる会話の後、いそいそと男の方は作業に取り掛かる。グローセは男に猪を引っ張ってきた紐を渡すと、女性と会話をし始める。
「いや〜、それにしても日が経つほどにどんどんカッコよくなっていくね〜〜。ほんと眼福眼福だよ。うちの亭主も息子たちもあんななりだからね。私に似りゃ、息子はまだ救いがあったんだけどどこをどう間違ったのやらだよ。そんな訳でグローセちゃんは私のオアシスだよ」
と、モジモジしながら女、もといおばちゃんは言う。破壊力は抜群だったようでグローセが返答する前に男、もといおじちゃんが反応を返す。
「オエエエエエェェェ」
ゲロというモザイクをかけねばならない事案によって。
「気持ち悪い真似すんな!このババアが!年考えろ年を!それにどう考えても息子たちはお前似だろうが‼︎」
その言葉の後ガンッと、音がした。きっと何か硬いものが額にでも当たってしまったのだろう。そう、グローセはいつものように思うようにした。その後も言葉の応酬が続くが毎度のことなので慣れたグローセはニコニコとしながらそのやり取りを見る。面白いからという気持ちもあるにはあるが。
その間にも解体はちゃんと進めていたようで、慣れた手つきで終わらせていく。ものの数分で大まかな解体は終わらせてしまったようだ。本当に腕は熟練者だなぁと、思うグローセであった。
ちなみに床は綺麗に清掃された。解体で出た血など、例のやつと一緒にだ。
おじちゃんが細かい解体に移るため奥に行きおばちゃんも何か取ってくるものがあるらしく一緒に行ってしまった。そんな中でグローセは一気に静かになったなという思いとまるで嵐のような人たちだと思考していた。
(きっとまだ気を使ってもらっているのだろう。あの日からまだ一年経ってないもんな)
そして、一人になるとどうしても過去にとらわれてしまう。今のグローセの気持ちは寂しいという感情によるものだと知れるのはもう少し先の未来である。
だが今はそんなことは分かるはずもなく、ただただボーッとしている時間が続く。ゆえに背後から近づく人物に気づくのが遅れてしまう。
「おい、お前、また来てたのか。何度俺がここには来るなって言った?それとも俺の言葉を理解できないのか?理解できるならもう来ないでくれ。ウチにとってお前はいい迷惑なんだよ」
という、トゲトゲしい言葉を頂くまで気づけなかったほどに。
そんな敵意丸出しの言葉を投げかけてきた人物へと振り向く。
その人物はここの次男だった。
顎髭を少しはやし、髪は所々はねている。目はこちらにまっすぐと向け、その敵愾心を包み隠そうともしない。だが、この人物のグローセに向ける嫌悪はさっきまでの住民たちとどことなく違う気もする。
そんな人物にグローセは
「やはりまだ僕がここに来るのは許してもらえないんですか?ディサさん」
と、悲しそうな表情をになりながら質問をする。
「許、す?今、お前は許すとかほざかなかったか⁈一体何を思って許すとかほざけるんだ?なあ、おい!お前が一体俺たちに何したと思ってんだよ!お前、のせいで俺たちがどんな目にあったと・・・どんな思いをしていると・・・」
最初は激情に囚われたのか興奮して怒鳴ったが後半はそんな自分に気づいたようで声のトーンを落とす。だがその声に含まれる“怒り”という感情は衰えるどころか更に増したように思える。
グローセは返答どころか何のアクションも起こそうとはしない。
そんな態度にディサは更に苛つく。
「何の返事もなしかよ。それとも何も見ようとしてないのか?聞こうとしていないのか?それは自分が傷つくのが嫌だからか。それなら俺がはっきりと突きつけてやるよ。お前のせいでなーーーーーーーーー」
ディサがグローセに対し何かを言おうとしたタイミングで別の声が響く。
「ディサ‼︎あんたいったい何を言おうとしてんだい!内容によっちゃこの母の愛の張り手をくらわせるよ。さあ、何を言おうとしてたんだい?」
ニッコリ、と見ているこちらを恐怖させるような笑顔を向けてくる。言葉をむけられてはいないはずのグローセも、背筋をブルッと震わせる。
「かあ、、ババアは黙ってろ。今俺はこいつにはっきりと言ってやらないといけないんだよ」
言った。言ってやった。言い切ったと同時に妙な達成感に包まれたこの勢いのまま言ってやろうと口を開いたディサに何か硬いものが飛来してきた。
「グローせっぶらっ!」
クリティカルヒット。そう思わせてくれる音が響く。実際かなり痛そうだ。当たったデコを抑え悶絶している。そんなディサの前方から声が届く。
「ディサ。あんた何て、誰に向かって言ったんだい?ねえぇ、もう一度言ってみなよ」
まるで宣告されているようだった。いや、次に起こることはもうすでに予想できる。目の前にいるのは今の瞬間、預言者なのだ。数秒後に起こることに対する。つまり、何が言いたいかとゆうと、だ。きっとディサの現状の気持ちは断頭台に立った死刑囚といったところか。
「歯ぁ、食いしばりな。これが母の愛の張り手だよ!」
ズッバァワン‼︎
物凄い音が響き、直後にズザーーッという音が聞こえてくる。ディサは、ピクッピクッと痙攣?を起こしている。
そんな一連の動きを見ながらグローセは
「まだ内容言ってないのに愛の張り手とんじゃってますよ。可哀想に」
と、まるで他人事のように思いながら、合掌をこっそりとしていた。
「グローセちゃん、愚息の見苦しいところを見せたね。申し訳ないけど、明日改めて来てくれるかい?お金と、今日渡すつもりだった物もあるからさ」
「いえいえ、そんなすまなそうな顔しないでください。僕は何とも思ってませんから。それにディサさんが見苦しいなんてこともありませんよ」
とこっそりしていた合掌を素早く止めながら返答をする。
そんなグローセの行動には気づかず感激した様子で
「グローセちゃんはやっぱりいい子だねぇ。こんな子を見てそんな言ってくれるなんて」
と言ってくる。
(いえ、本当に思えませんよそんなこと)
グローセはコッソリと心の中で本音を漏らしニッコリと笑う。
「それじゃあ明日また伺いますね」
「すまないねぇ。恩にきるよ。亭主には私から言っておくから気にしないでね」
「恩を感じる必要なんてありませんよ。それと、おじちゃんにへのあいさつお願いします。それじゃあまた明日」
店を出て後ろを見て手を振りながら言う。
そして歩き出した背後から
「本当に今日はすまなかったね〜。気いつけて帰るんだよ〜」
と、元気な声が届く。
グローセはもう一度背後を振り返り大きく手を振って
「はい!気をつけて帰ります!」
と、負けないぐらい大きな声で返す。
その顔はとてもいい笑顔であった。
・
・
・
数分後
・
・
『そういやぁ、疑問に思ったことがあんだけどよ〜ディサの野郎が言おうとしてたのってどんなことなんだろうなぁ』
と、突然オクトタがグローセにさっきの出来事のことを質問する。グローセは言われることを予想していたのか苦い顔をして、質問に答えようとする。
「まあ、十中八九お店の状態でしょうね。前はもうちょっと人の出入りがありましたから。多分そのこと、だと思います。僕がいるからお客とか他の店の人も離れていってるのでしょう」
後半は声が沈んでいったが確信を持っているような顔で言った。
そして、グローセの予想は当たっていた。グローセがある事件をきっかけにして呪子と呼ばれるようになるまではもっと人の出入りがあった。それがなくなってしまったのはひとえにグローセがあの店を利用しているからだ。呪われた、不気味なモノが使った場所は使いたくない。これもまた一般的な人の感情とも言えるだろう。では、なぜグローセはそれが分かっていてあの店に行くのか。あの店や住んでいる人達が嫌いだから?違う、全くの逆である。好きなのだ。それならばなおさら離れようとするはずだろう。だがそうできない理由もグローセにはあった。一方的な自分勝手な理由であるが。
『へえ、それが分かってんのに離れようとしないなんて、お前も大分悪だなぁ』
と、火の玉をプルプルさせながらオクトタが言う。その口調はからかいが半分以上を占めていた。
「オクトタ、お前も知っているでしょう?今の僕の不安定さ、を。僕という仮面は今ヒビだらけなんです。あの人達はそんな僕という存在の安定剤なんです。あの人達を失ったら僕はきっと壊れる。そうなればどうなるか分かる、でしょう」
ところどころでまるで別の人物のような雰囲気を滲ませながらグローセは答える。そんな自分自身がかなりマズイ状態だと思いながらも、方法がないために現状維持しかないとも分かってしまっている。
「きっとこのまま僕が利用し続けたら恐らくお店は潰れてしまうでしょう。その後あの人達がどうなってしまうのかも想像に難くありません。それでも、不幸にしてしまうとしても、それでも僕は今のために今の現状を変えるつもりはありません。後で破綻するかもしれないけれど今、今破綻するよりは僕はいい」
そう言いつつも顔は本当に苦しそうな顔になっている。人間は利己的で自分勝手で未来よりも今の自分を優先しがちなものだとも分かっている。グローセはそんな人間が嫌いだとゆうのにそんな人間を代表するような行いをしている自分に吐き気を催しそうになりながらも、他の選択肢を選べない。その行いが自分という存在を破壊するのを早めていることを知らないまま。
「まあ、この話はもうここまででいいでしょう。変える気がない話しをいくらしたところで詮無いことです。予想外の事態で時間が空いたのでギルドにでも行きましょうか」
『お前はよくもまあぁ、自分からあんな不快な場所に行こうとするよなぁ。何がいいんだマジで』
「ふふっ、確かにそうですね。まあでもエルシィさんがいますし。そこまで捨てた場所でもないですよ」
『ああぁ?エルシィ?エロシィの間違いじゃねえのか?あんなの』
そんなオクトタの発言に吹き出しそうになるのを堪えながら
「あんなのって失礼ですよ。エルシィさんは良い人じゃないですか?まあ、時々発言と行動は不適切なことがありますけど」
と返す。
そんなグローセに呆れたのかそれとも唖然としているのかオクトタは
『まあぁ、感性は人それぞれ、だよなぁ」
と呟いてから黙ってしまった。




