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僕と俺の選択道  作者: カタナナタカ
第1章 それは、人生の序章の序章それでも悩み生きていく
26/30

シェーリの憶いと想いと思い

シェーリ視点です

今日は最悪の日です。

いえ、いつもの事といえばそれまでなのですけれどやっぱり最悪の日には変わりありません。

これはあの日からずっと続いています。


あの日、家族の事を聞かれあんなに取り乱してしまった私が悪いのですけれど、やっぱり気にします。何を気にするって、あの子が父さんはどうしたの?と聞いた事です。父の事だけを気にするという事は、母の事に関しては気にしていないという事です。つまり私は母親と思われていたという事です。それがたまらなく嬉しかった。私が、私みたいな人が母親でいられる。そう見てもらえるというのはたまらなく嬉しいものだったんです。でも、同時にとても歪な感情を抱きました。嬉しいという思いとそんな自分を卑しいと感じる自分です。なにせ、リアの場所を奪ったのは私なのに。本当はリアが私の位置にいなければならないのに。その場所に私がいる。こんなに卑しい事はありません。それで、感情が不安定になってあの通りです。


「ハア」

ため息が出てしまうのも仕方がない事です。あの日からあの子とはろくに喋っていないです。この頃なんて喋ろうとしたら何処かに行ってしまうんです。今日、勇気を出して早口で喋ってみたんですけど逆効果でした。あの子を怒らせてしまったみたいです。

「ハア」

ため息も何回も出てしまいます。



私の一日はあの子が森に行った後、街に出かけてまずあの子が取ってきてくれる動物の皮や脂、骨などを売りにいきます。

本当にできた子です。あんなに小さいのに毎日のように動物を狩ってきてくれて家計の足しにしてくれるのです。驚くほどよくできた子ですよね。まあ本当は危ないのでやめて欲しいのですけどね。それでも流石リアの子です。それとも旦那様の血なのでしょうか?まあ、どっちでも良い事ですよね。だって良い事なんですから。


「今日もいっぱい持ってきたね。こっちは助かるから良いんだけどさいつもいつもこんなに持ってきて大変じゃないかい?」


「いえいえ、そんな事ないですよ。それに日は開けてありますからちゃんと休養も取れていますからね」


「か〜、あれで休養取れてるって本当に働きもんだね。うちのアホ息子どもにも見習わせたいよ。はい、これお代ね。いつもうちを贔屓にしてくれてるからねオマケしといてあげたよ」


「どうもありがとうございます。後、私を見習わせたいだなんてそんなお世辞要りませんよ。贔屓にしてるのだってここが一番良いところだからじゃないですか」


「こりゃ参ったね。こんな嬉しい事言われたら又、オマケしちゃうよ。おじさん。今日、一杯どうだい?奢っちゃうよ?」


「あんた!また何バカな事言ってんだい。シェーリちゃんが困っちまうだろうが!あんたも人に言う前に自分が働きな。シェーリちゃんもこんなバカの相手してないで気をつけて行きな。またおいで。今度は私が相手するから気が楽だよ」


「お前、俺の楽しみを奪うんじゃねえよ。日々の潤いってやつじゃねえか」


「あんたもそろそろ黙らないと張り倒すよ?とっとと働いてこい!」


「ふふ、お邪魔みたいですしもう行きますね。またお願いします」


「あいよ。じゃあね」


「また来てね〜シェーリちゃん」


「あんた、本当にそろそろ張り倒す」


ふふ、本当に仲が良い夫婦ですね。羨ましいです。リアもあんな風ではなかったですけど旦那様ととても仲が良かったですからね。とても和みます。私も、結婚したら。あんな風に仲良くなれるのでしょうか?・・・いけませんね私みたいな人間がそんな尊大な願いを抱くなんて。バチが当たってしまいます。


いけませんね。こんな事を考えていたら仕事に遅刻してしまいます。急がないと。


ああ、でもその前にやる事がありました。

「僕たちこれで何かお食べ」

それは、浮浪児達にお金を与える事です。本当はこんな事偽善にしかならないと分かっているのですけど。一つボタンを掛け違えば私たちも同じような事になっていたかもしれないのです。気を紛らわせるためにやっていることです。だから、


「ありがとうおねいさん」

なんて言葉、言わないで欲しいのですけどね。それでも元気に走って行って屋台でご飯を買う姿を見ると和みます。

ああ、本当に時間に間に合わなくなってしまいます。急がないと。



「マスターすみません少し遅れてしまいました」

結局間に合いませんでした。失敗してしまいましたね。


「まったくだ。馬鹿野郎!一体どこほっつき歩いてた。とっとと仕事の準備に入りやがれ!」


「す、すみませんマスター」

この人根はすごく良い人ですけど仕事に対して誠実だから仕事が絡むととっても厳しくなるんですよね。まあ、良い人って事には変わりませんけど。


「おいおい、少し遅刻しただけで何そんなに怒ってんだよ。こんなに人が居ないってのにさ。今、客1人だけだよ。やる仕事なんてたかがしれてるじゃねえか」

そう、私の事を庇ってくれたのは同じく良い人のホラさん。この街の衛兵隊の副隊長さんです。


「俺にとってはその一人の客がこの街の衛兵隊副隊長ってのに漠然とした危機を感じるんだがな。大丈夫なのかこの街?」

確かにそうですよね衛兵隊副隊長って偉い人なんですよね?こんなところにいて大丈夫なんでしょうか?


「ハッハッハッ、この街で俺が必要になる事なんて滅多にないよ。もし必要なら俺を呼びに来るだろうしな」

ああ〜なるほど。ちゃんと考えてあるんですね。良かったです。


「おい、納得するところじゃないだろうが。何をそんなに首肯いとるんだお前は。それに呼びに来させるんだったら始めっからちゃんと待機してた方が対応もしやすいだろうが」

あっ、確かにそうでした。そこらへんも考えてあるんでしょうか?


「・・・ハッハッハッ、そんな細かいこと気にしたらダメだろうが気楽に行こうぜ!」

どうやら、考えてないみたいですね。大丈夫でしょうか。私まで不安になってきてしまいました。


そんなやり取りをした後、私はいつもの仕事に取り掛かります。まあ、私がする仕事なんて小物の整理とか後はお客さんが来た時に料理を作るのと少しの接客ぐらいですからね。楽なものです。

お掃除はマスターがするのが好きすぎていつも綺麗ですから、する必要がありませんしね。


「おい、マジでいつまでいるんだよ。とっとと仕事に行けよ」


「大丈夫、大丈夫。シェーリちゃんに会うのも俺の仕事だからな。シェーリちゃん!料理お任せ追加で一つお願い」


「ふふっ、嬉しい事言ってくれますね。良いですよ腕によりをかけちゃいます」


「うおー、シェーリちゃん素敵だぜ」


「はあ、頭が痛くなってきた。おい、シェーリ。一番高いもの使ってこいつにとっとと帰ってもらえ!」


「おい、何バカな事言ってんだよ。そんなに俺とシェーリちゃんを引き離したいのか!はっ、まさかお前シェーリちゃんと二人っきりになりたいんだな。させん、絶対にそんな事させんぞ!」

鬼気迫る勢いでそんな事を言い出すホラさん。まったく、これには流石に私も呆れてしまいます。そんな事ないって分かってるのに。やれやれです。


「お前、どたまかち割るぞ。俺はいつでも妻一筋だと言ってるだろうが。何度言わせれば気がすむんだ」

本当にその通りです。このやりとりも一体何回繰り返した事か。


「分かってるよ。冗談じゃねえか。だからその包丁は取り敢えず置いとこうぜ。それにしてもあれからもう十数年だぜ、そろそろ引きずるのも止めたらどうだよ」


「馬鹿野郎が。一番引きずってるやつにそんな事言われても何もこたえねえよ」


あの日、この街に流れ着いた頃はそれは酷かった。持っているお金は少しで、服もボロボロ。他に持っているものは無くて、どうしようかと途方に暮れていたあの日。この二人が救ってくれなければどうなっていた事か・・・。その救ってくれた理由について知っている事は二人の過去に起こった事が原因とゆう事と、その事件でマスターの奥さんと子供さんが死んでしまったということ。このたった二つです。


「本当に有難うございました。貴方達にどんな事があったのかは分かりません。ですが、こんな事を言ってはなんですが、それが無ければ今の私とあの子はこんな生活を送れていませんでした。それは分かります。卑しくあさましいことですが何度もお礼を述べさせていただきます。そして本当にすみませんこんなことを言って。ですが言わなければ気が済まないんです」

私は本当にあさましい人間です。確実に不幸な事だと言うのにそれが起こった事に感謝しているんですから。


「「よせやい。」」

二人同時にそんな事を言われました。

「「・・・・・・・」」

そして、どうしたのか二人で見つめ合ってしまいました。見つめ合うのが終わったと思ったらマスターから話し始めたした。


「あの日、お前達を救ったのは確かにあの事件のせいもあるだろう。だが、あの事にお前達は関係ないだろう。そんな事まで気にしていては身がもたないぞ。それに助けたのも俺の気まぐれだしな」


「そうそう、二人は救われたんだぜ。そう思うとあの事件を生き延びた俺たちにも救いがあったって事だ。シェーリちゃんが気にするだけ損損」


「はい。はい。そうですね。それで良いんですよね」

本当に良い人たちです。私の人生で二番目に幸運な事です。この人たちに会えたことわ。一番目は不動に変わる事がないので申し訳ないのですけど。そうですよねウジウジしてたって何も良い事はありませんよね。何だか今日は良い事がある予感がします。


「ったく。ほらそんな事言ってる暇があるならとっとと仕事に集中しろ。手が止まってんぞ」


「おっといけねえ。他の客が来る予感がするぜ。俺もそろそろおいとまするとしよう。シェーリちゃん、お代ここ置いとくね〜。じゃあまたね」


「おい、そのお代俺に渡すやつだろうが。何シェーリに渡そうとしてやがる。早く寄越せこの馬鹿野郎」

ふふ、ホラさんの予感は当たりますからね。料理の準備を始めましょうか。あの二人のやりとりを見ながら作るのはとても楽しいですしね。



「マスターそろそろ時間なので。これで失礼させていただきますね」


「おう、お疲れ。また頼むよ」


「はい、任せてください」


こうして、私の仕事は終わります。この時間から森に向かうと丁度日が沈んでくる時間になるんです。という事は、あの子が帰ってくる時間という事です。何だか今日はあの子に早く会いたいです。別に何かが変わるわけでは無いのですけど、少し気が急いてしまいます。


案の定、早く着きすぎてしまいました。まったく、急いだって何かが変わるわけではないのに。


・・・なんでしょうか?生き物の断末魔が聞こえるような。

何だかすごく不安になります。この不安な気持ちはあの日、リアにあの子を託された日の気持ちと似ています。あの日、私がもっと賢ければ、強ければきっと私の位置にはリアが居ました。そうしたらあの子はもっと幸せだったはずです。

さっきから何故か息切れしてしまいます。

そんなこと無いそんな事あるはず無いと思いながらも恐る恐る、こわごわと足を音のする方に向けてしまいます。


そして、見てしまいました。あの子がゴブリンから逃げているところを。弓で射られそうになっているところを。


その後はあまり考えれませんでした。ただ、血の気がサッと引いたことと、簡易橋があるのに川を一心不乱に渡ったこと。そして、あの子に剣を突き立てようとしていたゴブリンを火の第2階魔法で吹き飛ばした事。

そして、あの子を抱きしめた事を覚えています。



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