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僕と俺の選択道  作者: カタナナタカ
第1章 それは、人生の序章の序章それでも悩み生きていく
25/30

理由と困惑と体温

「ぐぅぅぅっ!」

痛みで我慢できずに声を上げてしまう。だが先ずは背後のゴブリンを退かしたい。ゆえに背後に向かって剣を突き刺す。だが、今の状態で当たれる筈もなく簡単に避けられてしまう。それでもただひたすら離れて欲しかった俺は大振りに横薙ぎに剣を振るう。その直後背中に当たる、矢、矢。

そのせいで包帯で止血していた傷口が開き始める。血が流れ始める。意識が朦朧とする。


「があっ!」

だが気合いを入れ直して、出来る限り迅速に矢の射線上から身を隠す。

その後考えることは、どうして生死ノ境が発動しなくなったのか。まあ、理由は分かっている。限界使用の結果なのだろう。だが体の何が、何処を限界まで使用してしまったのだろうか?それが分からない。目から血が出てきたことに関係があるのだろうか。いくら考えても分からない。ただ、今はもう、生死ノ境を使うことはできないと考えて作戦を練り直すべきだ。分からない理由について長時間考えていられる時間はない。さて、どうするべきか。




○○○○○

ここで少し違う視点からの話を入れよう。この物語の主人公はこの戦闘中終ぞ理由がわかることはないが、それでも読者の皆様には説明をしようと思う。まあ、分かっている人もいるのかもしれないが、この生死ノ境は、時を止めるなどのそんな便利な能力では、断じてない。それに近いというだけだ。言ってしまえば時が止まってるように見える・思うと感じているのが真相に近い。

どういう事なのかと言われれば、良い例がある。皆さんはスポーツ選手が極限状態になったり、考えも及びつかないほど集中した時に時が止まったと感じた事があるという話を聞いた事があるだろうか?

野球選手がボールを打つ時にそのボールが止まっているかのように遅く感じるように、サッカー選手がドリブルしている時にブロックをしてきた相手が止まっているように見えるように、人間はとてつもない集中をした時など考えられもしない状態を体験する。

これを生死ノ境は強制的に引き起こしているのだ。言わば極度の集中状態にさせるのだ。

時が止まって感じているのはそのように脳が認識しているため、周りの色がなくなるのは余計な情報をそぎ落としているため。主人公は気づいていないが実は匂いなども感じなくなっている。視る、という情報に焦点を当てその情報を優先的に取得しようとするために起こるのだ。

だがそうなると新たな疑問が浮上する事だろう。どうやって主人公はその状態の中で早く動けているのか、という事だ。これも、答えの本質は変わらない。脳に働きかける事によってだ。こんな話を耳にした事はないだろうか?人間は自分の体の行使に制限を設けていると。それは体が壊れないようにするための安全装置のようなものだ。が、この生死ノ境はそれを取り払う事により高速移動を可能にしているのだ。

どういう事かと言うならば、時が止まった世界でも自分だけが普通に動く事ができると脳に暗示をかけているのだ。暗示をかけられた脳は動けるように体の制限を取り払う。つまり時が止まった世界に適応させるのだ。

時が戻り始めると同時にその暗示を消していけば、体の制限は元に戻り普段と変わらない状態になるというわけだ。これが時が止まりその状況でも動く事のできると錯覚する理由だ。

だがしかし、そんな状態を何度も往復する事は可能だろうか?何度も使用する事は?・・・答えは否だろう。主人公の状態が結果を教えてくれている。体がそんなに便利にできている筈もなく、まず脳がそんな異常事態に対応できずにパンクする。それにより、体の一部機能不全、内出血などが起こる。もし、主人公がこのまま無理に使用していたならばきっと身体を扱う事すら出来なくなっていた事だろう。

本当ならばスキル説明欄に明記していたのだが主人公は今回読み飛ばしたために、それを知る事はできなかった。まあ、今回の結果は仕方ないと言えば仕方ない事なのだ。

それでは、物語に戻るとしよう。

○○○○○



それにしても先ずは戦闘をこのまま続行できるかが問題だな。そこから考えよう。このスキルを使用できるのであればまだ全然勝機はある。だが、今の状況でそんな博打は打てない。それに無理に発動させるのは嫌な予感がする。

・・・総合的に判断してもう、無理だな。これ以上戦うのは不可能に近い。結局、撤退か。最後の最後で俺はこういう事になるわけか。ほんとにしまらねえな。

しょーがない。切り替えが大事だ。そういう事になるなら、それについて考えよう。

とりあえず敵に遠距離武器持ちがいる状況に変わりはない。つまり川を渡る時にハチの巣になる恐れが未だあるわけだ。

さらに酷いのが今の俺の状況だ。今のこの状態で、川を泳いで渡るのは取り敢えずダメだ。腹と、脚に空いた穴にプラスして更に矢の傷がある。こんな状態で水の中に入ったら大惨事になる事間違いなしだ。きっと泳いでいる途中で死ぬだろう。川の深さは腰より少し上、肋骨のあたりぐらいの深さとはいえど流される自信が今の俺にはある。そしたら終わりだ。そんなの絶対に嫌だ。


ダメだ。ダメだ。何にも方法が思い浮かばない。しかも剣を持っているゴブリンが近づいてきている。こうなるともう、しょうがないよな。運に頼るしかない。って事でうまいことタイミングを計ってダッシュで逃げるか。


タイミングとしていいのは矢が飛んできてそれが不発に終わるだろう瞬間。もっと良いのは矢を打ち出してそれが当たらないと確信を持てた瞬間に逃げる事。勿論剣を持っているのと接敵する前に逃げる。


俺は絶妙なタイミングを計る。計る。計る。


・・・今だ!

ゴブリンが矢を打ち出し、それが俺が逃げる方向ではないと思えた瞬間に飛び出す。

そういえばダッシュって片脚負傷しているのに大丈夫なのかよって?大丈夫に決まってる。なんせ片脚で走れば良いんだからな。所謂、ケンケンってやつだ。右脚が残っていてラッキーだった。なんせ俺は左より右の方がケンケンは速い。


剣を支えにしながら川が視認できる位置まで来る。川の目前まで行けばあとは簡易橋なり、岩が連なったところなりを探して川に沿って走れば良い。確かこの辺なら橋が近かったはずだ。

このまま逃げきってやる。そう思えた瞬間だった。何本も飛んできた矢の一本が脚に刺さる。そのせいで前のめりに倒れる。そして、そんな隙を見逃すほど相手は甘くなくて、ゴブリンが剣を振り上げながらやってくる。


「ああ、結局ダメだったか。こんなもんだったのか俺の人生」


せめてこのゴブリンだけでも道連れにしてやろうと痛み軋む体で剣を持つ最期に思い出すのはあの人のこと。


「なんだって最期の最期であの人が出てくるんだか。わけわかんねえな」


「我が(てき)に打ち当たれ 火の玉よ

ファイヤーボール!」


「はは、ほら、幻聴まで聞こえた。あの人がいるはず無いってのにまったく、俺ってこんなにおめでたい奴だったんだな」


そんな事を自嘲気味に呟いたそんな直後目前まで迫っていた、剣を振り上げたゴブリンは火の玉に当たって吹き飛んていった。


「はい?」


そんな間抜けな言葉を出して火の玉が飛んできた方を見てみればこちらに向かって走ってくる人影。


「はは、なんだよ幻覚か?目が、視界がぼやけてて全然上手く見えねえ。そんな筈ねえもん。あの人なわけがない。だって朝あんな事言ったんだ。いつもいつも酷い事言ってたんだぞ。なのにあの人な筈がない」


それでも、無言で一生懸命に俺の元まで走ってきて、そのまま無言で抱きしめてくれたその体温は温もりは間違いなくあの人のものだった。





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