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僕と俺の選択道  作者: カタナナタカ
第1章 それは、人生の序章の序章それでも悩み生きていく
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現金と照れの配慮とその優しさ

『まあぁ、お前にとっては試練だろうがこっちにとってはぁ、遊戯なんでなどうしても軽くなっちまうのは許せよ』

本当に息を吸うかのように当然のようにこんな言葉を言ってきやがった。人の人生が終わるか終わらないかの瀬戸際だってのに。


「まったく、いやになるな。転生させられて復讐に生きようと思ったらこんなざまだ。しかもお前にらにとったら遊戯だもんな。ほんと、クソみたいな人生だ。まあ、前世から分かってたことか。俺みたいな奴はそういう星のもとに生まれてるってことわ」

遣る瀬無い思いばかりが積み重なっていく。これから最後になるかもしれない試練・・・いや、遊戯だってのに。やらなければとも思うんだがそれに比例するように身体の力が抜けていく。自分の身体じゃないようだ。チグハグだ。バラバラだ。そう分かっているのに、なんとかしようという気力すら湧かない。この感情とても懐かしい感じがする。一体何時、何処で感じたんだったっけ?

そんなことを考えるのも億劫になってきた。

拙いな。こんなんじゃあ、すぐ死ぬんだろうな。

ほんと他人事みたいだ。自分自身のことなのにそう思えてきてしまう。


『無気力に陥っていってるところすまねえんだがよ、俺の話はまだ終わってねえぞ?俺たちからするとこれは遊戯なんだってのは言ったなぁ?だがこのままじゃあぁ、明らかに差がありすぎるよなぁ。それじゃあ面白くないよなぁ?だからよ、お前が望むなら力をーーーーー』


「くれ」

即答だった。自分でも驚くほどに。さっきまで打ちひしがれていたのが嘘みたいだ。心と身体がカチリとはまった感じがして、無気力は気力に変わる。バラバラだったものが一つのために集まってくる気がする。虚無感なんかなかったかのように充足感が包み込む。

ほんと現金なもんだな。でも分かってたことだ。人間なんて俺含めてこんなもんだ。何か一つきっかけがあるだけでこんなにも変わる。

まあ、自分で言うのもなんだが、今回の俺はちょっと現金すぎたな。力をくれるのを待ってたって思われても仕方ないレベルだ。待ってはなかったんだけどな。


『お、おう。いいのかぁ?これを受け取ったらお前は確実に大切なものを将来失うぜ。きっと今回のことを後悔する。それでもいいのかぁ?』


「構わない。早く寄越せ。将来の俺のことは将来の俺に任せればいい。今の俺という存在は今のことに全力を注げばいいんだ。だから寄越せ今すぐ」


『なんだその顔はぁ、さっきまでの顔が嘘みたいだなぁ。ほんと現金なやつだぁ』


それは知ってる。というかさっき思ったところだ。


『将来の俺に任せる、ね。じゃあ存分に将来の俺に恨まれなぁ。それじゃあ力を譲渡するぜ』


「ああ、なんか久しぶりだな。お前が譲渡をするなんて。だから存分に、気兼ねなく寄越してくれ。力を!」

始まる。世界を書き換える儀式が。こいつが譲渡するときはいつも普通ではない能力、技術の時だ。間違いなく今の俺は興奮している。力をもらえるということに。この世界の法則を書き換えているであろうこの儀式に!


『我、契約者の契約主より権利を代行するものなり。その我が契約者の望み受領する。

それ、生と死の境の瞬間を留めるものなり。時が止まり景色が色褪せるようとも、其の思考は動き続ける。生きることを望むなら思考せよ。死ぬことを望むならば思考を止めよ。生と死の境に立とうとも其の思考は尊重される。望め望め生と死のどちらかを、望め望め生と死のどちらかの選択を。生と死の境に立とうとも其の思考がすべてを決める。すべては其の思考によりて。

その瞬間は、生死ノ境なり。

契約履行、受領終了、譲渡開始。

生死ノ境、譲渡完了、終了』


その瞬間何かが変わったのが分かる。

例えるならば鍛冶の炉だ。炉の中に火をくべて刀を打つように俺の中で新しい力がくべられて俺という存在が強くなる。これは本当に言いようのない快感だ。ここまでしてもらったんだ後は遊戯とやらを楽しんでもらうとするか。


『ここからはぁ、俺は傍観者(スペクティター)だぁ。当事者(プレイヤー)であるお前にはもう何も言わねえ。せいぜい頑張りなぁ』


「なんだ励ましてくれているのか?本当に今日はらしくないことばかりするな」

今の俺はどんな表情をしているだろう?


『馬鹿野郎、誰が励ましてるって?俺は神様の分身だからなぁ、その特権で高みの見物をさせてもらってんだぁ。これは言うなれば上の者から下の者に送る言葉なんだよ』


「ああ、そうだな。うん、その通りだ」

照れくさくて、正直に励ませられないお前。試練という言葉を重たく受け止めていた俺に、これは遊戯(お遊び)だと言ってくれたお前。そんな小さな気遣いが今の俺にとってどれだけ嬉しかったか。お前はきっとそこまで考えてないんだろうな。


ああ、本当に俺は今、どんな表情をしているのだろうか。


「悪神、見てろよ。このお遊び、俺が勝つからな。期待して見とけよ」


『ああぁ、期待せずに見といてやるよ。だからせいぜいがんばんなぁ。

・・・行って来い』


「うん、行ってくる」


どんな表情をしているか、それは分からないけれど。少なくとも悪い表情ではないはずだよな悪神。

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