美人だと自覚していて、すべての人がちやほやしてくれると勘違いしている高校生・亜美
小男に捕まれ、引きずられるようにして連れてこられた。すみれと離されるって思ったときは心細くて震えていた。どうやら別の所に連れていかれるらしい。
すみれって、あんなに子供っぽいのに、けっこう落ち着いていてちょっと頼もしいって感じた。これから一人でどうしたらいいんだろう。
けれど、亜美のそんな不安を払拭するように、清めの湯での待遇はよかった。明るくきれいな大理石の風呂場。ここは王様とかが使うんじゃないか、って思うほど立派だった。
亜美はその香りのよい泡ぶろにはいり、三人の召使のような女たちが、頭の先から足のつま先まで念入りに磨きあげていた。あんな化け物がいる檻に押し込められて、野獣に手を舐められて、もう頭がおかしくなるんじゃないかって思ってた。だから、この風呂はものすごく気持ちがよかった。
さらに洗い上げた体をマッサージでほぐしてくれる。フェイスマッサージもすごい。スチーマーで毛穴を開いて、蝋で固めて汗を出す。それで、一回りも顔が小さくなっていた。
髪も整えられて化粧も施してくれる。鏡の中の自分を見ると、信じられないくらい妖艶な雰囲気を持つ美しい女性になっていった。
皆が亜美を丁重に扱ってくれていた。極めつけは白い絹のような素材のさらさらと流れるドレスだ。自分の姿に見とれていた。まるで女王になった気分だった。ああ、美しいって得。
風呂から出ると食事だった。ドレスの上から汚れ防止のエプロンをかけられる。浴室にいたうちの一人の女が亜美の後ろに控えていた。たぶん、亜美の世話をしてくれるんだろう。亜美専用の下女がいるみたいだ。なんだか偉くなった気分だった。
そこへ、やはり風呂上りのすみれが入ってきた。その姿を見て、亜美は思わず吹き出しそうになった。
不安でいっぱい、っていう顔のすみれは、惨めったらしく縮こまっていて、ゴザのような粗末な素材のものを着せられていた。一瞬、どこのホームレスかと思っちゃった。髪も洗いざらしのままだし、化粧なんて程遠い。あれじゃ、まるで男の子。亜美と比べて、なんていう待遇の差だろう。それにこの臭い。そう、漢方薬をいつも飲んでいたお祖父ちゃんの臭い。
すみれが哀れになる。でも、いい気味だとも思う。他人の不幸は蜜の味って、言うじゃない。亜美は自分がかなり優遇されていると思った。愉快だった。
すみれは亜美と離れたところに座らされていた。あまり話はできそうにない。
亜美の食事が運ばれてきた。大きなお盆の上で、ジュージューと肉が音を立てている。ものすごくおいしそうな分厚いステーキだった。
亜美がナイフとフォークを手にすると後ろに立っていた女が、すかさず亜美の袖を邪魔にならないようにたくし上げてくれた。なんて気が利くんだろう。
お腹は空いていた。亜美はさっそく肉を切り分けて、大きな肉片を口に運んだ。脂肪の付き具合が絶妙で、ものすごくジューシーでまろやか、それに柔らかい。こんなところでこんな極上の肉が食べられるとは思ってもみなかった。
肉の半分を食べたところで、ひとごこちつく。ワインもついていた。ものすごく赤いワインだ。肉がおいしいから、ワインもさぞかしおいしいだろうと手をだす。
その時、なにかが亜美の頭の中をよぎる。そうだ。ここへ連れてこられる時、あの男たちが言った。ワインがどうとかこうとか。ちょっと考えてみたが、思い出せない。なにを言ったのだろう。まあいい。食事が終わったら考えてみればいい。
ワインを口にする。最初はむっとするくらい生臭く感じたが、ごくりと飲み込むと胃の中まで熱くなるのを感じていた。もう一口、飲んでみた。こんどは赤ワイン独特の渋みと、芳醇な香りが口の中に広がり、おいしいと思う。
なんだかいい気分になっていた。
すみれにも食事が運ばれてきた。それを見て、笑いをこらえる。おかしくて仕方がない。本当になんてかわいそうなんだろう、すみれって。
すみれには犬の餌入れのようなアルミのボウルに、野菜がごちゃごちゃと入っているスープだ。スープっていうのは聞こえがいいが、もしかすると残飯かもしれない。
それでも生意気に、すみれのお膳にもワインがついていた。あんな子、ワインなんて飲んだこともないだろう。もったいないって思った。
亜美は上機嫌だ。すみれとの扱いの不公平さは、この美貌の差から、当然だろうと思っていた。
捕えられたときは、この先どうなるのか不安で心震えたが、この扱いからすると、ものすごいお金持ちに売られるのかもしれない、ってちょっと期待する。。
こんな世界での大富豪は怪しい危険な香りがするが、この際、いい暮らしができれば別に構わないなんて思ったりする。
女王様気分に浸っていた。早くもほろ酔い加減の亜美。
そうだ。そうなったら、このかわいそうなすみれを召使として使ってやろう。前の世界での知り合いのよしみってことで。
それですみれは涙ぐんで、「亜美、ありがとう」って言うんだ。あ、亜美様だよね。呼び捨てはだめ。主と召使なんだから。見知らぬところで、過酷な労働をさせられるんだったら、亜美のお屋敷にいたほうがいいだろう。
亜美の妄想は尽きることはない。ワインを飲み干した。
「ねえ、もう一杯、欲しいんだけど」
すみれと乾杯をしてあげようと思ったから。けど、小男は首を振った。
むっとしたが、仕方がない。亜美が本当に大富豪と結婚したら、こんな小男、二度と逆らえないようにしてやる。
あっという間に肉を平らげていた。
食事がすむと、もう一度化粧を整えられ、エプロンを取った。
さあ、今からは亜美のショータイムだ。どうせ、元の世界の戻れないんじゃ、魔の世界の上流階級の者に見初められたいと考えていた。
決して、美人に対する偏見やヒガミを持っているわけではございません。美人を冒涜しているわけでもないし、否定しているわけでもございません。
でも、亜美は問題発言をしてしまいました。
「アイドル雑誌を見てキャーキャー言っている、低俗で、子供な女の子たち」などと。
すみません。私はいい年して、嵐、大好きです。