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彼氏に浮気がばれ、叱られてむしゃくしゃしていた亜美

 男に差し出されたカクテルをすぐさま、あおった。男たちが驚いていた。


 ふん、このくらいのカクテル、平気だ。みると、すみれは飲まないらしく、手も付けようとしない。

「ね、飲まないなら、それ、もらっていい?」

 すみれがうなづくと同時に、カクテルをまた一気飲みしていた。


 面白くなかった。彼氏の宮田慶介から怒鳴られたのだ。

「ふざけんじゃねえっ。お前があいつと寝たこと、知ってんだぞ。バカにしやがって」

 そう、亜美は大学生の彼の友人と遊び、一晩を共にしていた。あれほど口止めしたのに、ばらしちゃったみたいだ。口が軽い男って、サイテー。


 この亜美様が、一介の大学生に唾をいっぱい飛ばされて、怒鳴られていた。そんなこと、絶対に許されない。亜美はミス城南なのだ。同じ高校生の男の子たちの憧れの女の子なのだ。それなのに、敬おうとしないで、怒鳴りつけるなんて。

 そう、だからこっちから振ってやった。どんなに謝っても許してあげない。あんな奴、顔だけなんだから。

  いつもの取り巻き、亜香里とカンナを呼び出した。お金はないから、ちょうど声をかけられた男たちに声をかけて奢らせようとしていた。

 交差点で、この冴えないすみれと会った。この子、ダサい制服姿のまま、沈んだ顔をしていた。化粧っ気はないし、本当に子供。笑えてくる。この子たちって、本当に低俗。テレビに出てくるアイドルとか好きになっちゃって、キャーキャー騒いでいる。くだらない。

 むしゃくしゃしていたから、このすみれも誘って、とことんからかってやろうと思った。それで声をかけていた。


「ねえ、あなたの友達、どうしちゃったの?」

 そう、すみれが訊いた。

 カンナも亜香里もぼうっとしていて、まるで魂が抜かれたかのようだった。気味が悪かった。

 十二時を回る頃、すみれがカウンター奥にいる男に訴える。

「あのう、この二人が気分が悪そうなので帰ります」

 亜美はまだ帰りたくないが、ここに一晩中いるほど居心地はよくない。

 亜美も立ち上がった。

 するとすぐに奥からさっきの二人が出てくる。

「あ、この二人はすぐには歩けないよ。ここに寝かせておけば朝には元に戻る」

 その言い方には、この二人が放心状態になった原因を知っているようだった。さすがの亜美も薄気味悪くなる。


 男たちが急に豹変し、亜美とすみれの腕を掴む。そして無理やりそのパブの地下へ連れていかれた。

「悪く思うなよ。他の子みたいに吸い取らせればよかったんだ」

 男の一人がそうボソッと言った。

 吸い取るってなんのことだろう。なぜ、亜美とすみれは平気なのか。


 それほど広い店ではなかったのに、その地下の通路はかなり歩いて行っても壁に行きあたらなかった。それどころか、いつのまにか、ごつごつした岩で覆われた洞窟のようなところを歩いていた。

 洞窟を出ると、すべてが真っ白な霧に覆われていた。


 奇妙に思ったのは、それまでいろいろ話していた男たちが何も言わなくなったこと。ただすみれと亜美をしっかりと捕まえて、霧の中を黙って歩いていた。



 やっとこの頃にはさすがの亜美にもおかしいとわかった。すみれも不安そうにしている。しかし、男たちが恐ろしくて抵抗できないでいた。

 やがてその霧が、夜の暗闇に変わった。

 誰もいないはずなのに、辺りはなんとなく、ざわざわしていた。時折、亜美の手に何かが触れる。服が引っ張られたりもした。しかし、それが何なのかわからない。不気味なところだった。


 亜美は恐怖と不安にかられ、こらえきれなくなって泣きはじめた。そういう現象は伝染する。すみれも心細くなったのだろう。涙がこぼれ始めた。それでも男たちは歩調を緩めようとしない。掴まれている腕はきっと真っ赤に腫れ上がっていることだろう。


 そして、一際大きな木の下にある檻の中に入れられた。いきなり背中を押されたから、その勢いで亜美が転び、すみれも中に投げ出されていた。

 亜美が、すぐさま檻の鉄格子を掴んで揺さぶりながら叫んだ。

「ねえ、出してよ。うちへ帰してよっ。こんなことして、犯罪よ。訴えてやるんだからっ。私のお父さん、警察関係の偉い人なのよ」

 カッとしていた。この亜美を乱暴に扱って、こんなところへ押し込むなんて許せない。学校中の男の子たちが黙っていない。

 しかし、男たちはそんな言葉に怯む様子はなかった。ただ、ニタリと笑った。その笑いはまるで爬虫類のようだと思った。

「ねえ、出してよっ。出してったらっ」

 パニックになった亜美は、泣き叫んでいた。時々、全身を使って、鉄格子を揺さぶった。しかし、びくともしない。突然、檻を掴んでいた手に生温かいモノが触れた。キャっと短い悲鳴を上げて飛び退いた。尻餅をつく。


「どうしたの?」

 すみれは亜美を抱き起こす。

「なにかが私の手に触れた」


 すみれは亜美の手を見る。ねっとりとした液体がべったりついている。涎のようだった。触れたというよりもなにかが亜美の手を舐めたようにみえる。

「いやっ、気持ち悪い」

 亜美がその手の涎を払いのけるように激しく振った。


 ここは一体、どこなの。なんなのよ。

 どうして亜美とすみれの二人だけなの。ぼうっとしていたあの二人はあそこに取り残されて、どうして亜美たちがこんなところへ連れられてきたの?


 そう叫ぼうとしたけど、そのことにはっきりとした返事をもらうこともためらう。怖かった。それだけここの空間には違和感があった。



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