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入院中の姉を持つ孤独な高校生・すみれ

 北城きたしろすみれは、檻の中に突き飛ばされて、したたか腰を打った。思わず、悲鳴をあげた。ひどく乱暴に扱われている。しかし、すみれたちがいくら騒いでも男たちは何も言わないし、誰も助けにこようとはしなかった。というか、ここには誰もいないようだ。少なくとも誰の姿も見えなかった。

 ここはどこなんだろう。不安、不安しかない。


 確か、少し前までは繁華街の薄暗いパブにいたはず。それなのに、どうしてこんなところにいるのかわからない。すみれは記憶をたどる。



 この日は病院の帰りだった。姉が入院していた。

 消灯間際に帰る時、ちょうど聞こえてきた看護師たちの心ない噂話。

 姉はたぶん、このまま目覚めないだろうという。彼女たちは口では気の毒よねと言っているが、所詮それは他人ごとに過ぎない。医者はそうはっきりとは言わないが、実際のところ、その通りなのだろう。姉は半年近くもずっと意識不明だったから。


 そんな夜、亜美とその仲間たち三人と街で会った。亜美とは同じクラスだけど、グループが違うから、それほど親しく話したことはない。けど、向こうもすみれの帰りたくないサインを読み取り、こっちも亜美がむしゃくしゃしているのを嗅ぎとっていた。


「ねえ、北城さん、どこか行くの? ねえ、ちょっとつきあわない?」

 そう声をかけられた。はっきりと家へ帰ると返事をすればよかった。けど、その時のすみれは、口ごもり、曖昧な返事をしていた。

 亜美たち三人の後ろに、ちょっと大人な男たちが二人一緒だった。夜なのに、黒いサングラスをかけていた。それだけでも充分奇妙な感じ。


「この人たち、おごってくれるって。ねっ」

 亜美の取り巻きの一人、亜香里が、なれなれしくすみれの腕を組む。

「う、うん」

 亜美は美人で有名だ。今日は化粧もばっちりしているから、大学生のように見える。他の二人もきれいな格好をしていた。すごく大人っぽい。

 すぐ後ろにいた男の一人が、感心した声を出した。


「へえ、本当に高校生だったんだ」

 すみれはまだ、制服のまま、街を徘徊していた。すっぴん。ショートヘアで子供っぽい。ジーンズでぶかぶかのシャツなんて着ていたら、中学生の男の子に間違えられそうだ。

「どこへ行くの?」

 夜の街。未成年が歩くにはリスキーすぎる。


「うん、ちょっとそこの店。知り合いがやってんだ。安く飲めるからさ。カラオケもできるし、ダンスもできるよ」

 そんなふうに男たちが誘った。未成年なのに。すみれは制服姿なのに。


「ねえねえ、最新式のカラオケなんでしょうね」

 そう、亜香里が訊いた。

「まあね」

 一瞬だけ、男がサングラスを外し、亜香里を見た。

 すると亜香里が黙った。それまでカラオケか、ゲームセンターもいきたいとはしゃいでいたのに、急に黙り、ただ歩く。

 おかしいと思ったが、亜美はもう一人の男と冗談を言って笑っていた。


「ねえ」

 今度は男がすみれを見た。サングラスを外す。その目は真っ赤。血の色だった。

 その瞬間、頭の中が真っ白になった。まるで突風が頭の中に吹き荒れ、記憶のすべてを吹き飛ばしてしまう、そんな感覚。

 しかし、すぐに我に返った。

「えっ」

 それは男が発した声。驚いてすみれを見ていた。

「はい? なにか」

 すみれの疑問。

「あ、いや、なんでもない」

 

 

 大通りから外れて、裏道へ入る。今までこんなところ、来たことがない。

 【ナイトマーケット】という看板の店に入る。中は暗く、誰もいない。

「ああ、そこに座ってて。飲み物、持ってくるからさ。みんなカクテルでいいよね」

「はい」

 亜美がそう返事をしていた。

 

 四人がソファに座ると、店内にほのかな明かりがつき、奥から音楽が流れてきた。よく見るとバーのカウンターにもサングラスをかけたバーテンダーが立っていた。

 さっきの男たちの話と違っている。もっと賑やかな若者が大勢いる店なのかと思っていたのに。こんなところで最新式のカラオケなんてできないだろうし、ダンスをするフロアもない。


 それよりも奇妙だったのは、亜美の取り巻き二人の女の子たちだった。さっきまで、うるさいくらいはしゃいでいたのに、今は黙ったまま。その目は酒の酔っているかのように、目がトロンとして、焦点が合っていない。

 亜美は好奇心たっぷりの顔で、バーの方を見ていた。


 カクテルを出された。亜美はそれを勧められるままにぐいぐい飲んで上機嫌だ。男たちはとりとめのないどうでもいい話を延々としていた。

 何度もそっと亜美の脇腹をついて、帰ろうと言った。しかし、亜美はなにが楽しいのか、男たちの話にはしゃぎ、腰をあげようとはしなかった。




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