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知ってた? 龍ってずっと昔から人間と共存して生きていたってこと

 亜美がいきなり呻きだす。苦しそうだった。

「あ、ああ・・・・あああ」

 言葉にならないが、何かを訴えている。そして目が白目になり、身体をもむように苦しみだした。その口から涎がたれる。それでも何かを求めるようにして、地面を這うようにしている。


「亜美っ、大丈夫? ねえ、どうしたの」

 その亜美の姿が恐ろしかった。その表情は全く知らない人のように思える。


 爺が亜美を抑える。亜美はその腕の中でもがく。苦しいのだろう。

「禁断症状だ。亜美はずっと定期的にブラッケンの血が入ったワインを飲み続けていた。それが効いているうちはまだいいけど、その効力が切れたんだ」


 それは麻薬中毒のようなものなのだろう。

「ねえ、どうすればいいの。亜美を助けられる?」

 すみれはレオンにすがりつくように言う。

 爺が、脚や手をバタバタさせて暴れている亜美を、軽々と抱きかかえた。

「大丈夫だよ。この奥に診療所がある。そこで禁断症状が消えるまで診てもらうから」

 少しは安心できた。けど、ああいった禁断症状はかなりきついのだろう。


「龍が人間を治療することってできるの?」

 単純に考えて、龍と人間とは全く姿も構造も違う。

「龍に不可能なことはない。龍ほど人間のことを良く知っている生き物も他にはいないと思う。だって我らはずっと昔から人間と共存していたんだから」

「えっ」


 レオンが興味深いことを言った。

 その先を知りたいと思ったが、レオンの父ちゃんがきて、風呂に入って食事をしようと言ってきた。


 とりあえず、すみれも吉野も大きな岩風呂に入り、きれいさっぱりしたところで、龍たちの宴会? の場に座った。

 その場に集まった人はやはり龍が化けているんだろう。だってもうすみれにはわかる。ここにいる人たちは殆どが見たことのある人ばかりだった。

 どっかの国の大統領、首相、今年話題になった野球選手、サッカー、マラソンの選手、研究で世界的に認められた博士の顔もあった。なんか、笑ってしまうくらい有名人がそろっている。


「人ってさ、全く知らない顔より、ちょっと知ってる顔の方が親しみがわくだろ」

「そうだけど、これってものすごく怪しいよ。あり得ない光景だもん。でも面白い。みんなが私達をどれだけ歓迎してくれているかわかる」


 すみれがそういうとレオンは安心したらしい。

 久しぶりに魚を食べ、生野菜、果物を口にする。あの檻の中でのスープもおいしかったが、噛むことの喜びを感じている。


 ふと気づいた。レオンの父ちゃんがこの席での中央に座っている。その横にレオンと吉野、すみれがいた。

 どう見てもこっちが上座。それにジョー君の顔の爺が、レオンにあれこれ料理を取り、世話をしていた。


「ねえ、レオン。まさか・・・・レオンって、この龍の谷の中でも家柄がいいのかな?」

「ん? 家柄ってなんだ」

 すぐさま、後ろに控えている爺が耳打ちする。その言葉の意味を説明しているらしい。


「ああ、そういうことか。うん、そうかも。僕の父ちゃん、龍王だから」

「あ、そっ。龍王ね。龍、王ってまさか、王様の王?」


 そう言ってみて、その意味がわかった。父ちゃんこと、アーサーさんは龍族の王様、ってことは、その息子のレオンは王子。


「ああ、うん。そうなるか。でも人間たちのようにそれほど威張ってはいないぞ。みんな同じ兄弟だと思ってるし」


「だってレオン、家出同然で龍の谷を出たみたいだったから、半龍ってことでいじめられてたのかと思ってた」

「あ、そう。そんなことはない。僕が勝手に飛び出しただけだ。父ちゃんが僕を見ると母さんを思い出すから、その哀しい心がちょっと重荷になった。それでちょっと世界を見てみようと出ただけのこと」


 すみれは食事の前にレオンが言ったことの意味を、聞いてみようと思った。

「ねえ、レオン。人間と龍が共存していたって、ホント?」

「うん、ずっと昔からね。特に日本はそう。龍が最も好んで住んでたところだ。今でも龍のDNAを持つ日本人、いっぱいいるよ。すみれもそのうちの一人。だから、最初からすみれには近寄りやすかったんだろう」


 その話、聞いたことがあった。龍蛇族のこと。


「龍はね、ずっと昔からその姿を人間に変えて、住んでいた。どうやって田畑を耕し、生きていくか。そういう知恵をわけあって、一緒にやってきたんだ。けど人間はわりと単純なことで殺し合いをする。最初は龍も争いを鎮めるために、一緒に戦った。長い戦乱期だった。それが江戸時代になって、もうそれほど戦が起こらなくなったから、龍はこの谷に戻ってきた。もう龍の力は必要ないってことで。でも、まだ人は戦争を繰り返しているけど、もう龍は関与しないし、できないくらいの段階になってる」


 複雑な思いだ。

「核戦争とか、ミサイルとかの問題だろ。あんなものを龍が止められるわけないし、人間自体の考えが変わってきている。生活は便利になったけど、目に見えないものを信じる心が失われているんだ。だから、龍の存在なんて認めないし、実際にその目で見たとしてもまやかし、いや、映画かなんかの特撮とかだと思う。人を敬う、人を思いやる心が失われているんだよ。そういうところが龍たちをがっかりさせ、人間社会から撤退させている」


 すみれは黙ってしまった。確かにそうだと思う。昔の人は生きることに必死だった。今はそんなことあたりまえで、自分はどう楽しく生きるかって自分だけのことを考えている人が多いのではないか。人のことを考えて、そこから思いやりの心が生まれる。そんなことを忘れてはいないか。

 龍たちは、日常のあたりまえのことに感謝する心を失った人間の中で暮らすことが嫌になったのだ。これだけ人の心が見えるんだ。その人が感じているよりもずっとわかりやすいと思う。


 すみれがそんなことを考えて落ち込んでいた。レオンがすぐさま、それに気づく。

「あ、でも大丈夫。すさんだ人もいるけど、かなり進歩した考えを持つ人も大勢いる。だから、そんなに悲観するな」

 レオンがすみれの肩を抱いた。暖かい。レオンといると本当に安心できる。レオンは龍なのに、すみれはどんどんレオンのことを好きになっていた。この谷から出て、もしもすみれが元の世界へ戻ることになれば、レオンと別れなきゃいけなくなる。

 そんなことを考えると胸が締め付けられた。


「すみれ、お前さ、ちょっと酔ってないか?」

「えっ」

 手にしたフルーツジュースのような飲み物を見せる。

「ああ、これ発泡酒。誰だ、こんなもの、未成年に飲ませたのは」


 初めてのお酒だった。でも別に構わない。もう、お酒は二十歳からって頑張ることも面倒になっていた。残りを飲み干す。

 亜美のことも悲観している。人間社会の未来も考えると泣きたくなった。その上、吉野は無事に江戸時代へ戻れるのか。戻ってもあの妖刀で仇を討ち、自害をし、四つ目のカラスに目玉も取られる・・・・。無性に悲しくなってきた。


「一体なんなの。なんでみんな、こんなことになっちゃうの」

 すみれは泣き上戸だった。おいおいとむせび泣く。


 隣のレオンが重い重いため息をついた。

「おい、本当に誰だよ。だめだよ、すみれって酒癖、すっごく悪い。責任とれよ」

 ジョーの姿の爺がペロリと舌を出し、父ちゃんの後ろに隠れた。


 すみれはレオンの着ているガウンの襟をつかむ。

「ねえ、なんで人ってああなんだろう。自分のことばかり考えてさっ。私だってそう。自分のことばかり考えていた。あんなに親身になってやってくれていたお姉ちゃんを困らせるようなこと、したの」

 すみれはここで号泣する。そして大きな息を吸い、一気にしゃべる。

「ほんと。私って最低なの。レオン、私も本当は臭かったんでしょ。お母さんがいないことをお姉ちゃんに当たり散らしていた。口をきかなかったこともあるの」

 そこでまた大泣きする。

「しかたねえよ。すみれは反抗期だったんだ。そうしていても心の奥底ではお姉さんに悪いことしてるって思ってただろっ。それでいいんだ。それが人間だって言っただろっ」


「そうだけど、そうなんだけどぉ。あの日、私、学校をさぼったの。さぼって街をぶらぶらしてた。そんな時、私を心配して探していたお姉ちゃんが交通事故にあった。それからお姉ちゃん、目覚めない。私がちゃんと学校へ行っていたら、お姉ちゃんは普通に生活していたはず。全部、私がいけないの。そう、私が生まれたから、お母さんが死んじゃった。全部、全部私がいけないの」

 再び号泣していた。

 そのすみれの背を一生懸命に撫でてくれる手。レオンだった。


「レオン、好き。大好き。私、このままここにいる。レオンと暮らしたい。元の世界へ戻りたくない。レオンのお嫁さんにして」

 そういうとレオンがギュッと抱きしめてくれた。

 あとはもうすみれの記憶はない。寝てしまっていた。


 その傍らで、吉野はもらい泣きをしていた。レオンもいつもなら突っ込んでいくところだが、その泣き上戸の言い分にはかなりの本音があった。人間の姿になっている龍たちも、もらい泣きをして酒を酌み交わしていた。


********


 すみれが気がついた。もう先程の宴会の場ではない。随分静かだった。

 頭をあげようとすると頭の芯がズキリとする。

 痛い。なんだこれ。どこかぶつけたのかな、いや、違う。起き上がると頭全体にガンガン釘でも打ちつけられているかのように痛んだ。


 両手で頭を押さえる。うわぁって思う。


「あ、起きたんだ」

 そこへレオンが、ミノの姿で現れた。

「酒、飲んだからな。ほら、水」

 水を渡される。ごくごくと喉を鳴らして飲み干した。

「お酒? 飲んだの、初めて」


「うん、すみれはもう酒、飲むな。介抱が大変だ」

「えっ、暴れたの? 私」

 レオンがクスっと笑う。

「まあ、そんな感じかな」


 レオンがすみれの横に座った。

 そこは洞窟の穴の中のよう。ごつごつした岩が削り取られて丸い天井になっている。そしてふんわりとした敷物。そこの中央にすみれは寝かされていた。


 かなり荒れたらしい。迷惑をかけてしまった。レオンの父ちゃんにも醜態を見せて恥ずかしい。そんなことを考えて反省していた。


「さて、すみれが起きてひとごこちついたなら、・・・・」


 レオンの顔が近づいてきた。

 え、なに? キスされた。

 えっ、ちょっと・・・・・・。


 すみれが思わず、身体を引くとそのままレオンに体を押され、寝転ぶ。すみれに覆いかぶさってきた。濃厚なキスに変わっていた。


≪あ、ちょっと・・・・レオン、待ってよ≫


 レオンの動きが止る。顔がすみれの一センチくらい上でこっちを見ている。


≪なに?≫


 なにって、いきなりどうしたんだろう。今までのレオンとちょっと違う。


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