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青薔薇のシュバリエ  作者: 亀谷琥珀
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三話 異世界生活

 教授の無理だという言葉から、俺が立ち直るのに相当の時間を要した。

 考えても見てくれ、いきなり連れてこられた異世界で、自分ではどうしようもない現状。

 これで元の世界に帰れないと来れば、途方に暮れるしかない。


 これが異世界に連れてきた張本人が、全く悪びれても無ければ怒りをぶつけて発散もできただろう。

 しかし、その連れてきた教授は俺の放心した姿を見て、今にも泣き出しそうなそんなかわいい顔をしながら、アストラルダイブがどうのとか転移にかかる耐久性だのと、俺には理解できない説明をして俺を慰めにかかっている模様だ。


 置かれている状況は明らかに教授が悪で俺が被害者なのだが、これで俺が教授に怒りをぶつければ、傍から見ればかわいい少女に暴力で襲いかかる、そんなヤバい構図に見えなくもない。

 いや、まてよ。

 目の前に居るのは、教授が操るメタルノイドだった。

 メタルノイドの外見はさっき弄られて俺の好みの女性の姿になっているが、実際の教授が女性と言うわけもあるまい。

 操っている教授は、白髪交じりのひげを生やしたおっさんと言うこともありえる。目の前で泣きだしそうな女性姿のメタルノイドの身振り手振りをむさいおっさんがやっているかと想像すると、何とも言い難い気持ちになってきた。

 俺が自分の勝手な想像でげんなりしていると、教授は長い説明が丁度終わる所だった。


「と言うわけで、今現在の手に入れたデータでは君を確実に元居た世界に送り届けられる確率は一〇パーセントにも満たないのだよ」

「それだけ聞くと、可能性がないわけではないように聞こえるんだが」


 俺は教授の言葉に本当に帰れないのかと、もう一度聞いてみた。


「先ほどからの話の繰り返しになるが、私がこの世界から異世界に放った探索機の大きさは影響を考慮して肉眼では視認できないナノマシンサイズだ。君が来れたのだから大きさは問題ないようだが、それでも異世界への地図ははっきり言って無い。私も適当に探索機を送り、戻ってくるかの実験中なんだよ。いうなればコンパスも羅針盤も持たずに、船で大海を渡るようなものだ。運よく別の異世界にたどり着ければいいが下手をすれば世界の狭間を延々とさ迷う可能性もある」


 俺が変な思考を働かせていた時に、教授はそんな説明をしていたのか。

 今の簡易な説明だけでも難しそうだと何となくだが分かる気もする。

 確かに太平洋を何の知識も道具もなく漂うなんて自殺行為もいいところだろう。


 ならばちゃんと準備をしてから行けばどうだろうか。

 地図を作って道を確立してから良ければ安全にたどり着ける。

 そんな安易な考えを教授にぶつけてみたが、それはバッサリと切り捨てられた。


「それにはあまりにも情報が足りなさすぎるのだよ。今までに放った探索機の数は累計一京個以上。そして帰ってきたのは十年前に放ったプロトタイプ、君が事故で巻き込まれた機体の一機のみなのだ。しかも、戻ってきた機体は損傷が激しくまともなデータは回収できなかった。悪いとは思ったが、君の名前も世界の情報も含めて、君の体を調べて少しでも次元移動の手掛かりをと思ったがそれも無理だった……」

「もしかして、俺がこの世界に来れたのってすごく運が良かったってこと?」


 今の話を聞くと、特に支障なくこうやって会話できていることが、とてもありがたいように思えてくる。


「過去の戻らない探索機と戻ってきた唯一の探索機からすれば、君の生存は数多くの偶然が重なっていることは否定できないな」


 科学者の教授からしてもこれはすごいことのようだ。


「出来るだけのことはする。その上でだ、雄一はこれからどうしたいと思う?」


 俺が無言で話を整理していると教授はそう語りかけてきた。

 どうしたいも何も、俺の気持ちは先ほどと変わらない。

 俺は教授にはっきりと、元居た世界に帰りたいと意思表示をした。


「そうだな、それが君の意思だったな、繰り返して悪かった」


 教授は俺の言葉を聞いてそう言いながら、何か思案にふけっているようだった。

 俺はその間を利用させてもらい、これからどうすればいいのかを考える。

 この世界でも働いて生活の糧を得なければ。

 そこで俺は重大問題に思い当たった。


 果たして俺の居た世界より高度な文明において、俺のやれるような仕事はあるのだろうかと。

 取り柄と言っても剣道くらいだ。

 早くも暗礁に乗り上げた感じがしてしまった感じがある。


「帰れないってことは、俺はこれからどうすればいいんだ?」


 非常に不安が大きくなったので、俺は助けを求めるように教授に聞いてみた。


「もともと私のせいだからな。帰る方法を見つけるまで私の責任を持って、こちらでの生活は保障しよう。この部屋からは当分出すわけにはいかないしね」

「部屋から出せない?」

「先ほども言ったと思うが、君の存在がこの世界に影響を与えるとも限らない。それに加えて、この世界の人間がすんなり君を受け入れるともわからないしね」


 なるほど、俺はこの世界でさながら異邦人のような感じだ。

 すると世界史などで習った様に異国の人間に対して初期対応がすんなりいくとも限らない。

 酷い迫害を受ける可能性もあるってことか。


 そう言う意味では、教授は俺を保護してくれるというのはありがたいことこの上ない。

 風習も何もかも知らない世界で生きていくのは、難しいのは想像に難くないから、ここは教授の言葉をありがたく受けておくべきだ。


「なるほど、お世話になります」

「もう少し取り乱したりするかと思ったが、そう言われては私が困ってしまう。私が全ての原因だしな。だがそういう楽観的な思考があれば、この先君の大きな武器になるだろう」


 教授のそういう励ましを受けながら、俺は教授の操るメタルノイドに手を差し出した。


「すまない、君の意図していることが分からないのだが……」


 すると教授は俺の差し出した手を見てとても戸惑っている感じだった。


「握手ですよ握手。これからお世話になるんだしコミュニケーションは必要でしょ?」


 この世界には握手と言う習慣は無いのだろうか。教授は戸惑いながらではあるが、俺の手を握った。


「これからお願いしますね」


 俺はメタルノイドの手をしっかりと握り返す。


「ああ、任せてくれ。必ず君を元の世界に戻して見せる」


 そんなわけで俺の異世界生活はスタートしたのだった。





 教授との出会いを思い出していると、マリエルが朝食の用意ができたと部屋に呼びに来た。

 俺はマリエルの言葉に返事をして、マリエルを先に行かせてから朝食を取りに食堂へ向かう。

 食堂には既にフランツ父上がいらしていた。


「やぁ、コノエラから聞いたぞ。警備騎士二人相手に圧勝だったそうだな」

「たまたま運が良かっただけです。次も勝てるとは限りません」


 俺は父上の言葉にそう返しながら、マリエルの引いてくれた椅子に着席する。


「そう言えばアルフォンスはまだ来ないのか?」


 食堂を見回した父上は、そう周りに控えているメイド達に聞く。

 兄上の事だ。どうせ朝が起きれずにまだベットの上だろう。

 そして、兄上は毎度のことながら体調がすぐれないという言い訳をメイド達にさせている。


 今日も予想通り兄上のお付きのメイドから体調がすぐれなく相席出来ないという申し出があった。

 父上は何か言いたげだったが、言葉を飲み込み朝食を始めることになさったらしい。

 さすがに血のつながった唯一の肉親には甘いご様子だ。


 俺も父上に可愛がってもらってはいるが、やはり愛情に若干の差があるのは否めない。

 だからと言って父上に不満があるわけでもないので、俺は特に言うこともなく父上に従い食事を始める。

 俺は癖になっている食材の毒味をナノマシンにさせてから、出されてきた料理に口を付ける。

 こればかりは、そんな毒物を混ぜられるわけがないと判っていても、どうしてもやめられない癖だ。


 教授の所に居る時に生き抜くためだと、実際に毒を盛られてまで教え込まれたのだ。その体験のため、そうやすやすと抜けるような事のない。むしろ当たり前の日課にさえなってしまっている。


 俺は傍から見れば黙々と食事を進め、時に父上の会話に相槌を打ちながらなんてないひと時を過ごす。

 しかし、こちらに来て二年近くなるがどうしてもこの食事風景だけは慣れないものがある。

 食事をするのは父上と俺、多くて兄上が入る位の最大で三人。

 そしてその少数のためだけに控える給仕のメイド達の多さが、どうしても現代日本で育った身としては窮屈と言うか堅苦しいと言うか、未だに馴染めないでいた。


 鍛錬のためと半年間放り込まれた、警備騎士団と寝食を共にした時の車座になって食べていた食事の方が俺にとっては居心地がいい

 だが、それは贅沢な要求だろう。

 何せ俺に提供されているこの朝食一食で、周りで控えているメイド一人が五日は満腹で食事が出来るくらいの金額がかかっているのだ。

 それでいて不満を言っては罰が当たる。


 俺はその一食の重みを噛みしめながら、最後の一欠けらを口に放り込んで食事を終えた。

 食事を終えて俺は父上と共に食後の緑茶をティーカップで楽しむ。

 この世界において、元居た世界で慣れ親しんだ物が一つでもあって助かったとしみじみ思う。

 教授の世界では飲み物から何からほとんどが俺の知識を越えた物しかなかったので、あちらに居た時には一刻一秒でも早く元の世界に戻りたいと思っていた。そう言う意味ではこちらの世界は合っているのかもしれない。

 食後のお茶会も終わりにさしかかった頃、父上は思い出したかのように話を振ってこられた。


「そういえば、マルサス。王都に出向く準備は万端だろうね」

「はい、後は身支度さえ整えればいつでも出立できます」

「息子の門出だ。私も向こうでの手続きが終わるまでは付いて行くが、この地の生活とは全く違うものになるだろう。心してかかりなさい」

「心得ました」


 父上は俺のその言葉に満足した様子で、先に準備をしておくと仰られて食堂を後にされた。

 俺も父上を見送ってから出立の準備をしに部屋に戻る。

 俺もしっかりしなければならない。

 そう意気込みマリエル達メイドに世話してもらいながら出立の身支度を始めるのであった。





 教授に世話をしてもらいながらの異世界の生活は、まず異次元移動が確立された場合、万が一のトラブルが起きも俺が困らないようにと、身を守るすべから始まった。

 具体的にいえば教授が使用しているナノマシンの使い方を覚えることにより、ある程度の環境下でも生きられるようになすることだった。


 教授の世界で使用されているナノマシンは、背骨にナノマシン用の生産プラントを埋め込み、脳とリンクさせることによって半永久的に使用できるシステムらしい。

 半永久的と言ったのは自分が死ねばその体内にあるプラントも死滅すると言う意味で生きている限り基本的には問題なく使用できるとの教授の話だ。


 このナノマシンと言うのは、聞けば本当に何でもできる優れ物で、生活に直結するものだけ挙げても、泥水からの真水の生成、有機物から固形食糧を製造、肉体強化による運動能力の増大、治癒能力上昇など、どれをとっても有益なものばかりだった。

 大量のナノマシンを投入する機能として、莫大な熱量などが発生させるはずの元素組み換えもできるとのことだったがこれは頻繁にやらない方がいいと言う注意が入った。


 それはそうだろう、これは中世の人々が夢にまで見た錬金術の類いだ。簡単に出来てしまってはありがたみもない。

 しかし、教授の注意はそう言うわけではなく、単に精神力とナノマシンを酷使するので問題があると言うことだった。

 実際に自分で元素組み換えを行ったが数滴の水を金に変えただけで成功はしたものの、非常に精神力を消費したため、教授が勧めない理由も分かる気がする。


 こんななんでもありの超高性能なナノマシンだったが、二つ難点があった。

 一つは上位種のナノマシンには逆らえない事。

 それとこのナノマシンは指示を出さないと機能せず、オートメーション化は出来ないという点だ。


 始めはそこまで重要な問題ではないと思っていたが、これが非常に死活問題だと言うことを身をもって思い知らされる。

 それはなぜかと言うと、ナノマシンの使い方を一通り教えた教授は俺を自由にナノマシンで遊ばせた。

 俺は出来ること全てが新鮮で、何ができるのかと幼子が新しいおもちゃを与えられたが如く時間を忘れて遊び倒した。

 そして俺が遊び終えるのを見はからって、俺が居た研究室ごと燃え盛る砂漠の如く熱くしたり、凍てつく氷の世界のように冷却を繰り返したのだ。

 当初、俺の体はその急激な変化にナノマシン制御が追い付かず、時には焼けただれ、時には凍傷で壊死を繰り返し、その都度俺の体は死ぬ寸前で教授からのナノマシンの強制介入で皮膚などを蘇生させられ、生を繋ぎとめられた。


「常に危険を考慮して動かねば、いくら高性能でも宝の持ち腐れだ。つらいかもしれないがこればかりは体で覚えてもらうしかない」


 灼熱から極寒まで同じ空間に居ながら平然としている俺好みの教授のメタルノイド。

 きっと教授の方は制御も完璧なのだろう。

 俺がこのまさに生死の境を味わっている間、教授の操るメタルノイドは平然と俺を観察していた。


 俺がやっとの思いで気温への対応が出来るようになると、教授は間髪いれずに次から次へと俺にナノマシンの制御と対応の課題を出してきた。

 詳しい内容は今でも思い出したくない。一言過酷だったとだけ言っておこう。


 だが、一つだけ言える事は、元居た世界での生活では一生味わうこと出来ない体験だと言うこと。

 飽きる暇がないとも言えるその生活を続けて一年位が経過した頃、事件は起こった。


 その時は俺がやっと慣れた流動栄養食の毒味をナノマシンで終わらせ、食事を出来ると思った所で教授が、もとい教授のメタルノイドがいきなり研究室に入ってきたのだ。

 相変わらず俺好みの女性の体をとったメタルノイドだ。


 この一年、本物の教授にはお目にかかれていない。

 入ってきた教授のメタルノイドに対し、俺はこの一年で叩きこまれた警戒をしながら教授を迎える。

 いきなり何だと文句の一つも言おうとしたが、それは興奮した教授の一言にあっさり遮られた。


「起きているな、雄一。良く聞け新たな探索機が戻ってきたぞ」

「戻ってきたって、今度は状態は大丈夫なのか?」

「あぁ、問題ない。今データの抽出中だが今のところこれと言って不具合は起きていないし、すぐにとは言えないが君を帰す日近づいたのは確かだ」


 そう言うや、教授は俺の手を取り俺の顔をマジマジと見てくる。

 教授は明らかに興奮していて放っておけば踊りでも踊りだしかねない勢いだ。そんな顔で見られると俺も恥ずかしくなる。

 それもあって俺はその教授の勢いに押されて、それ以上言葉を発せられなかった。

 すると、教授はとてもきらきらとした目を俺に向けながらデータ解析があると言い残しそそくさと研究室を出ていってしまった。


 俺は教授の後を追おうとしたが転送ポート前で思い止める。

 この転送ポートは俺のナノマシン介入では権限の問題で起動しないのだ。

 何とか外へ出たいと思って前に試したが、結果はことごとく失敗だった。


 こちらに来てから俺はこの部屋から出たことがない。

 最初は戸惑いもあったが慣れてしまえばこの生活も快適だった。

 それにこの研究室には元居た世界ではない機能が付いていたのだ。


「さて、鍛錬でもするか」


 俺は慣れた手つきで研究室のコントロールにナノマシンを介しアクセスする。

 とりあえず遮蔽物の無い場所を選択してアクセスを終えると目の前は草原になっていた。

 これがこの研究室の機能。亜空間と連結することにより数十ヘクタールほどの広さにすることができる。

 またナノマシンとリンクすることにより環境も自由に設定可能だ。


 はじめはこの機能で教授に生きるすべを体で覚えさせられた。

 今はたまに教授が抜き打ちで試されるくらいで頻度は減っているが気は抜けない。

 この機能も気分転換を兼ねて鍛錬のために使っている。


 草原で柔軟から剣術の練習までしていると、ナノマシンのシグナルにノイズが入った。

 ノイズに気が付き即座に状況検索をナノマシンに指示する。

 ナノマシンが唯一と言ってもいい俺の異世界でも生き残るための大事な道具だ。

 判断ミスは即、死へ繋がる。

 状況チェックはすぐに網膜に表示され、結果は異状なし。


 思いすごしかと、また鍛錬に戻ろうとした時に今度は研究室の亜空間にもノイズが入った。

 具体的にいえば風景が一度砂嵐の様に揺らいだのだ。

 今この空間は俺の統制下にある。

 教授に半ば強制的に培われた対応能力でナノマシンを操りしらみつぶしに可能性を潰して行った。

 しかし、いくら探っても問題は見つからない。


 ナノマシンのトラブルかとも思い教授に連絡を入れようかと思っていると、俺のいるこの亜空間に黒い人型の影が七つ湧き出してきた。

 俺はその影に、即座に反応し警戒をしながらいつでも動けるように身を引き締める。

 また、影の詳細スキャンを試みるがこれは権限なしと表記され解析ができなかった。


 俺がそうしている間にその七つの影はさらに輪郭をハッキリとさせ、完全に黒い揃いの服を着込んだ顔には同じく黒い能面のような仮面をして人の形を取った。

 明らかに人なのだろう。

 こうも解析不能が続くと考えられるのは一つ。

 教授の抜き打ち訓練だろうか。


 俺が帰ってきた探索機に気を取られて気がそれてるとでも思ってるのだろう。

 ここでやられては教授に後でどんな嫌味を言われるか分からない。

 だから俺は表情も読み取れない七人に対して持っていた木刀を構える。


 七人は俺の姿に呼応するように臨戦態勢を取ると手にとるように殺気も感じられた。

 これで間違いない。いつもの教授の抜き打ちだ。

 どうせメタルノイド辺りだろう。


 それならば先手必勝と、俺は一番手前の黒い影の胴体を肉体強化した腕の力で勢いよく左から薙いで弾き飛ばす。

 後ろに控えるもう一人を巻き込めるかと思ったが、巻き込もうとした人影はあっさりと俺が弾き飛ばした奴を避けて俺の首元に手を伸ばしてくる。


 また周囲の残る五人も時を同じくして俺めがけて動き出した。

 俺は緊迫した空気の中、いやに冷静に思考を巡らせナノマシンに命令をしていく。

 筋力補強、周囲警戒、シナプス再構成、視覚補助、脚力調整などなどなど。


 百近くの項目を物の数秒で終わらせ、迫る首元への腕を体を傾けて避け、腕を出した人物の頭部に勢いよく回し蹴りを喰らわせる。

 倒した奴らも警戒しつつ、常に動き回り一人、また一人と草むらに沈めていった。


 七人の影を俺は数分で撃破する。これなら教授も文句は言わないだろう。

 そうして七つの影が動かないのを確認し安堵していると、ふといつも感じられない違和感に気が付く。

 影を殴った木刀や足などに黒い付着物があったのだ。


 俺は習慣で付着物のスキャンをする。

 すると血だと言うことが分かった。

 それを目にして俺は自分の体にスキャンを入れる。

 しかし、出血をするような外傷は見られなかった。


 するとこの血は誰のもか。

 俺は恐る恐る倒した七人に目をやる。

 そして、七人を確認してすぐに教授に向けて叫んだ。


「教授! モニタリングしてるんだろ!」


 しかし、すぐに返事はない。

 だが、それでも構わない。こんな後味の悪い演出をされて俺は怒りを爆発させた。


「教授、悪趣味は止めて説明しろ!」


 俺は気にするとなく教授に向けて怒鳴り散らす。

 暫く俺が叫んでいると、網膜にナノマシンの権限移譲と言うアラートが流れた。

 上位種のナノマシンに対する服従警報だ。これを出されては俺は抗えない。


 教授め俺をナノマシンで無力化してさらに痛めつける気か。

 俺は一矢でも報いろうと何とか抗おうと試みる。


 しかし教授からのさらなる追撃は無く。突如として亜空間が強い閃光で包まれた。


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