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青薔薇のシュバリエ  作者: 亀谷琥珀
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一話 プロローグ

 日の出が目前に迫る薄暗い部屋の中で、俺は一人灯りも付けずに椅子に座り窓の外を眺めていた。

 そして、徐々にうっすらと外が明るくなりだす。

 

 窓から見える景色はとても雄大で緑が多く、心が洗われるようなそんな気持ちにさせてくれる。

 俺はおもむろに椅子から立ち上がり、窓の方に足を向けた。

 窓は飾窓になっていて見慣れた装飾の窓ノブに手をかけ一気に外側へ開け放つ。

 開け放たれた窓の外はバルコニーになっており、その窓から出られる仕組みだ。

 

 バルコニーに出た俺は、先ほどよりさらに明るくなってきた景色に目を凝らす。

 そして、徐々に西から昇り始める太陽と東に沈みかける赤と黄色の二つの月を眺めてから、色づき始める景色をおおいに堪能する。

 これが俺のささやかな楽しみの一つだ。

 

 もうしばらくすれば中庭で朝の日課である鍛錬の時間になるが、まだ時間はある。

 この土地。いや正確にはこの世界に来て早二年近く。

 すっかり違和感も消えて、元居た世界の方がリアルな夢を見ていたのではないかと錯覚するくらい遠い記憶の奥底だ。

 はじめは戸惑った生活だったが、安定してしまえばなんてことはなく順調に日々を過ごしている。


「それもこれも教授のおかげか……」


 俺はバルコニーの手すりに手を添えながら、そう呟く。

 この生活の全ての始まりにして全ての元凶である、あの人の顔を思い出しながら。

 しばらく俺がバルコニーで風に当たってると、太陽が山の稜線の上にその全体をまるで巨人が躯体をもたげるかの如くゆっくりと顔を出した。

 それと時を同じくして、部屋の中に一つ気配が生まれるのを感じる。

 誰かが部屋に入ってきたようだ。

 この時間に俺の部屋を訪れるなんて数人しかいない。

 俺は脳内で周囲警戒と念じる。すると網膜に部屋に入ってきた人物の詳細ステータスが表示された。

 やはり、こんな時間に俺の部屋に入ってきたのは彼女だったかと、俺は目線を昇ってきた太陽に合わせながら振り向かず、彼女に問いかけた。


「おはよう、マリエル。そろそろ時間かな?」

「おはようございます。本日は出立の準備もあるので短時間での鍛錬とコノエラが申しておりました」

「わかった。準備して中庭に行くので、待っていてくれってコノエラに伝えておいて」


 そう言って俺は振り向き、窓際で深く一礼している黒と白を基調とした服装。

 いわゆるメイド服を着たマリエルにそう告げる。


「かしこまりました」


 マリエルはそう言うとそそくさと部屋を辞して行った。

 用件だけで無駄な会話がないのがいかにも彼女らしい。

 マリエルが部屋を出ていったのを確認すると、俺はもう一度昇る太陽に視線を向けて当分見られないこの場所からの風景を目に焼き付ける。そして、脳内記憶にもこの風景を記録した。


「さて、出立前の最後の鍛錬だ。気を引き締めてやろう」


 俺は誰に言うでもなくそう言って気持ちを切り替え、さっそく鍛練用の服に着替え天蓋の付いたベッド横に置いてあった鍛練用の模造剣と丸く杖のような包丁サイズの棒を片手に中庭へ向かう。

 中庭へ向かう途中、廊下で俺を呼び止める声があった。


「おはよう、マルサス」


 名を呼ばれて振り返れば、紺のスラックスに白いワイシャツを着て髪をオールバックにきめた、この世界で慕うフランツ・ローゼンバーグ父上がいらした。


「おはようございます。父上」


 俺はとっさに目上の人間にとる、礼をもって父上に挨拶をする。


「毎日殊勝な事だな。出立の朝くらい休めばいいものを」

「一日でも休んでしまえば体が鈍ると思いますので、こればかりは休むわけにはまいりません」

「まったく、アルフォンスにも見習わせたいものだ」

「兄上はゆくゆくはこのローゼンバーグ領を治めるお方ですし、それほどまでに剣術が必要なわけでもないと思うのですが」


 俺は話に振られた兄の顔を思い浮かべながら、フォローを入れておいた。


「治めるにも騎士として下々の者に信頼を得られなければ、それには騎士として武勲をあげるのが一番……すまん、お前に言ってもしょうがないことだな」

「いえ、私も兄上を十分お支えできるように騎士として励みますゆえ」

「うむ、期待しているよ」


 俺は父上に鍛錬の時間があるのでと断りを入れて父上の前を辞した。

 中庭に通じるドアを開ける前に、ふと脳内で次元転移システムにアクセスをする。

 しかし、アクセスして転移不能と網膜に表示される赤い文字を見て、すぐにアクセスを止めた。

 この地の生活も悪いわけではない。だが俺の望む形とは言い難い。


 マルサス・ローゼンバーグ。外見年齢十歳。

 それが今、俺が名乗っている名前と容姿だ。

 今あるこの体も悪くない。いっそのことこの世界に骨を埋めるのも良いかとも最近では思い出した。

 だが当初の望みが強い分、未練が拭いきれない。

 俺は揺らぐ心を持ちながら中庭へのドアを開いて鍛錬に向かうのであった。





 俺の本名は丸佐和雄一。

 元居た世界の認識では太陽系第三惑星地球の日本と言う国に暮らすごく普通の一般人だった。

 いや、今思い返せば一般人と言うのは少し違うかもしれない。

 曾祖父の代から経営する古めかしい剣術道場の息子として生まれた俺は、気がつけば剣道一筋で人生を過ごした。しかし、だからと言って不自由したことはない。


 厳格な祖父と親父の下での剣道の英才教育を受けたが、学校時代はいじめを受けるでもなく平穏に日々を送り、剣道でインターハイを連覇したり満ち足りた子供時代を過ごした。

 成人してからも剣道の大きな大会で優勝を重ね、大学を出てから親父から道場を引き継いだ。最初は親父との二人三脚の経営だったが、俺の代から始めた実家の剣道場以外の、体育館などで行う剣道教室も好評で剣術道場の経営だけで難なく生活は出来ていたし、人並みの恋愛もして結婚をして娘も出来てささやかながら幸せな家庭を持っていた。


 俺はそんな普通の人生を過ごして終わることに、何の疑いもなかった。

 いや、それも違う。俺はその生活に不自由はしてないが刺激がないと常日頃思っていたのだ。

 そんな人生の転換点はそう、冬至が近い夕暮れどき。

 妻の妙子に夕飯の買い物を頼まれて、買い物を終えた帰り道に俺の人生は一変した。

 近所のスーパーで長い列の会計を切り抜け、買い物を終えて時計を見れば午後五時半。


 家に急ごうと、スーパーと家の間に鎮座する神社のある山を突っ切ろうと鳥居をくぐり石段に足をかける。

 この山は鎮守の森と言われる有名な大きな山で、ここを突っ切れば三十分ほど時間の短縮になる。

 辺りは街灯の明かりがなければ真っ暗と言うこの時期特有の暗闇に少し怖さを感じながらも家へ向かい一心不乱に石段を駆け神社に到着する。


 そして頂上の社の裏を通ってけもの道をしばらく下れば家の裏まであと少しとなるはずだった。

 宮司も居ない小さな神社の境内は灯りもなく暗い。

 しかし、この時は社の裏に光る何かが目に留まったのだった。

 真っ暗な空間に浮かぶ不自然な光。俺はその光に興味を持ち近づいた。


 近づくとそれは小さなゴルフボール位の小さな穴が地面に光っていた。

 誰かのいたずらか懐中電灯でも電源を入れたまま地上に向けて埋めてあるのだろうかと思っていたら、その穴はあっという間に大きさを増し、半径一メートルくらいの大きさまで広がっていった。

 そして気がついた時にはその光の穴はさらに広がり、俺が足をとめた一帯をも飲み込んだのだ。

 そして俺の意識は、そこで途切れることとなった。


お目汚し失礼しました。ですがめげないで続編を書け・・・たらいいな

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