ライバル登場!
「隼人ー、今日は仕事終わりー?」
「終わりだよ」
「じゃあ、一緒にかーえるっ」
「はいはい。」
「では、今日は新アイドル紹介のコーナーです!」
「こんにちはー!キミのハートもらっちゃうぞっ♡綾月黒姫です!姫って呼んでくださーい♡」
「可愛いねー!綾月さんは今日デビューなんだよね?」
「そうなんですー!応援よろしくお願いしますっ」
「では、綾月さんにはこのあとデビュー曲、ゴシックを披露していただきます」
ピッ。テレビを消してソファーに寝転ぶ。隼人の妹としての自分が黒い画面にうつる。
「はーやーとー」
「朝からうるさい。どした?」
「もー。最近構ってくれない...」
「兄ちゃんは忙しいの。」
「むー...」
隼人は机に向かったままこちらに背を向けていた。気になってのぞき込むと、デザイン画のラフだった。
「...それ、今度の新作?」
「...ああ。ライブグッズのデザイン画を考えてる」
「サンプルくれる?」
「だーめ。お前がいくら妹でもサンプルはあげらんないの。分かったか?」
「えーっ...兄ちゃんのケチ」
「ケチで結構。明日も早いんだから、早く寝なさい。」
「...はーい」
しぶしぶ部屋を出ていく妹をみてため息をついた。昔からお兄ちゃん子だったアイツは、俺が作るものや描く絵をよく欲しがってその度にあげていた。今は、アイドルとして走り出したけれど、見ていて心配になるほど危なっかしい。
「...大丈夫かな、アイツ」
翌日。ブラックラビリンスと桜雪アリスのコラボ企画がついにスタートした。双方のファンからは期待の声や複雑な声、批判など、いろいろな声が届き始めた。一部週刊誌の記事も出回ったせいもあるのだろう、厳戒態勢で撮影やミーティングが行われた。
「衣装コンセプトは禁断の恋。黒をベースに仮面とドレスを用意したわ。目元のみ隠れる仮面と黒フリルのドレスで大人な感じにしてみたのだけど...うん、やっぱり似合うわね、アリス」
「そ、そうかな...恥ずかしい...」
「だーいじょうぶ!似合ってるから」
コンコン...
「アリス、いるか?」
「あら、冬樹が来たみたいね。それじゃ私は打ち合わせしてくるわ!」
「えっ!?ちょっと!しーちゃん!?」
呼び止める前にはもう居なかった。
「アリス?」
「は、はい!どうぞ!」
「.....」
「冬樹?わ、私変じゃない...?」
「似合ってる、すごく...その、あまり綺麗だから、びっくりした...」
「え!?あ、ああああ...ご、ごめん...」
「いや、大丈夫...」
あの...と言いかけた瞬間、スタッフが入ってきて撮影スタジオへ行くよう促される。
「じゃあ...行こうか」
「うん...」
スタジオへ向かうと、結衣たちは既に楽器を手にスタンバイしていた。
「アリスちゃん似合ってるね!可愛い!」
「あ、ありがとうございます。今日はよろしくお願いします!」
「音源お願いしまーす!」
音源が流れると歌唱シーンに入る。セットに座り込み上のカメラを見ながら口ずさむ。
冬樹とのシーンがメインになりつつも、他のメンバーとのシーンもいくつか撮りつつ撮影は順調に進む。
仮面をつけたままの歌唱シーンでカメラをまっすぐ見つめ、切ない表情を浮かべる。
「アリスって子、やっぱりいいね、静雅。」
「ええ、あの子本番にはとても強いのよ。」
隼人と静雅が見守る中、撮影は無事終了し、アーティスト写真撮影へ。
「はい、いきまーす、3、2、1」
カシャ、カシャとシャッター音が響く中、いろいろな表情を浮かべて撮影した写真はCDジャケット、ポスター、店舗特典、アーティスト写真とたくさんのことに使われる。
「では撮影は以上でーす、おつかれさまでした!」
「「「「「おつかれさまでした!」」」」」
「アリスちゃん、おつかれさま」
「結衣さん、おつかれさまです!」
「アリスちゃん、こっち向いて?」
「えっ?...っ!?」
振り向いた一瞬で、結衣はアリスにキスをした。冬樹が振り返ったのをまるで分かっていたかのように。
「...隙を見せたらダメだよ?こんな風にキスされちゃうから。ね?」
「結衣!お前...!」
「残念でした、冬樹。それじゃね。また。」
「おい...!」
結衣はいつの間にか居なくなっていた。
「アリス、大丈夫か!?」
「うん...大丈夫...」
「ごめん...一緒に帰ろう」
「うん...」
自宅に着き、冬樹の自室へ行くと、冬樹は何度も、ごめん、と謝っていた。
「冬樹...もう、大丈夫だから。」
「俺のせいで、嫌な思いさせたよな..」
「ううん、そんなことないよ?ありがと」
そう言って笑うアリスを強く抱きしめた。
「冬樹...?」
「...これからは、俺から離れるな。絶対守る」
「うん...ありがと。」
翌日は歌番組の収録だった。新人アイドルとの共演が決まっていた。
「...あなたが桜雪アリス?」
「はい、そうですけど?」
その女の子は私をじっと見ると、にこりと笑った。
「今日ご一緒させていただく綾月黒姫です♡よろしくお願いします♡」
「こ...こちらこそ...」
「では本番いきまーす!よーい...」
「今夜も始まりました、ミュージックレイン。今日は桜雪アリスさん、綾月黒姫さんをお迎えして...」
トーク、歌唱撮りを終えると番組は順調に進み、無事終了。
「「おつかれさまでしたー」」
「ねえ、あなた」
「はい...?」
「人気アイドルだか知らないけど、今だけだから。私があなたより売れる、人気になる。世の中はあなたに飽きるわ。だから...引っ込んでよね?」
「それは...」
「じゃあ、また♡」
黒姫はそういうと早々と去っていった。
「.....」
「アリス、どうしたの?送っていくわ」
「ありがと。着替えてくるね。ちょっと待ってて」
バタン...
「あの子、どうしたのかしら?」
着替えて支度をしながら、さっき言われたことを思い出していた。
今だけしか人気アイドルじゃない。そんな言葉が胸に深く刺さる。
(人気がなくなったら、私はいなくならなきゃいけないのかな..)
「アリスー、行くわよ?」
「お待たせ。行こう、しーちゃん」
いつものように車で送ってもらい、自宅に着くと部屋着に着替えて布団に寝転んだ。
目を閉じていても、頭に思い浮かぶ黒姫に言われた言葉。波風が激しいこの世界にいる以上、可能性はゼロではない。黒姫のように、新人として出てきても消える人がほとんどだ。もちろん、自分のようにずっと輝いている人も居るのだが。
「...今だけ、か」
ため息をつき、目を閉じて意識を飛ばした。
ーーあなたは、もう人気じゃないーーー
そう言い放つ黒姫はまっすぐ前を見ている。
(これは...夢...?)
ーー私が人気になったからには不要なのよーーー
ハッとなり、目を覚ますと辺りはすっかり暗くなっていて慌てて部屋の電気をつけた。
「夢...か...」
ピンポーン。インターホンが鳴り、モニターを覗くと冬樹が写っていた。
「いきなりきてごめんな。今、上がってもいいかな?」
「うん!」
「...珍しいね、冬樹が私の部屋に来るなんて」
「アリスが心配になって来てみたんだ。迷惑...だったか?」
「ううん!全然!...ありがとう、来てくれて」
「.....綾月に、何か言われたのか?」
「えっ!?..それは...」
「...アイツ、隼人の妹なんだ。アイドルに憧れてずっとなりたかったらしくて。未経験のまま、この世界に飛び込んだ。隼人と一緒にいるために。」
「一緒にいるため...」
「...っと、こんな時間か。それじゃ、また来る」
「うん、ありがとう」