ライブとバンド。
静雅と共に乗り込んだ車の中でアリスはぼんやりと外を見つめていた。
「アリス、今日のライブも大盛況だったわねー!ファンの人たちも喜んでいたし。け•れ•ど、勝手に出ていくのは禁止。ライブも大事な仕事なんだから放り出したら周りに迷惑かけるんだから!…って聞いてるの?」
「…はいはい聞いてますよー…ったく、しーちゃんは厳しいんだからぁ…もっと自由にさせてくれても…」
「だーめ!あなたは売れっ子なのよ!なにかあったら社長に顔向け出来ないわ!いいわね?勝手に出ていくのは禁止」
「…はーい」
そんな話をしているうちにアリスの自宅に着いた。ドアが開き、アリスはかばんを持って降りる。
「それじゃあ、また明後日ね。あしたはオフにしておいたからきちんと休むこと。」
「ありがと、しーちゃん。おやすみなさい。」
「ええ、またね」
ドアが閉まり静雅を乗せた車は走り去っていった。それを見送り、アリスも部屋へと向かった。
「(えっと、6階…っと。)」
「ちょ、待って。俺も乗る」
「何階ですか?」
「6階。」
「私と同じなんですね。あの、ご近所さん…」
言いかけたところで顔を上げて隣を見ると冬樹が立っていた。
「と…冬樹?」
「アリス…ってことはお前も?ちょうど俺は今帰ってきたんだけど…」
「わ…わたしもっ。しーちゃん…じゃなくてマネージャーが送ってくれたとこでっ…」
「へー…って、しーちゃんて誰?」
「あっ…と…その…マネージャーが静雅って言う名前だから…」
「ふーん。隼人みてーなもんか。」
「はや…と?」
「ウチのマネージャー。ブラックラビリンスのグッズデザインとかもしてんの。元美大生。」
「そうなんだ…すごいね…」
「…今度、よかったらウチのブラックラビリンスのグッズ見る?デザイン紙あるからさ。」
「い…いいの?」
「まあ、グッズとして出ていったやつのがほとんどだからな、そんな危ないやつじゃないよ」
「あ…ありがと…えと、あたしここの部屋だからっ」
「まじ?お隣さんじゃん。俺この部屋。」
「えっ…あ…そっか…じゃあまた」
「ああ、また。…アリス」
「??」
「これ、俺の連絡先。よかったら…」
「うんっ…」
素早く受け取って部屋に入るとため息をついた。
「(冬樹も同じマンションなんて…びっくりした…しかもお隣さんだし…)」
翌日。アリスは昨日手渡された紙をじっと見つめていた。
「(連絡…迷惑じゃないかな…)」
スマホを手に取り、LINEを送ってみることにした。
冬樹は同じ頃、ライブ開演前だった。
「とーき、ケータイ鳴ってるよ」
「ああ。」
「(アリスです。こんにちは。昨日もらった紙を見て送ってみました。迷惑じゃなければ…よろしくおねがいします…)」
「(全然迷惑じゃないよ、送ってくれてありがとう。途中からでもいい、今日のブラックラビリンスのライブ、見に来て欲しい。これから行ってくる。待ってて)」
「まもなく開演しまーす!冬樹さん、みんな待ってますよ」
「ああ、わかった。行ってくるよ、隼人。」
ギターやベースやドラムの音が聞こえるステージの真ん中に立つと一斉に歓声が聞こえる。
「冬樹ー!」
「結衣ー!」
「燭ー!」
「昂輝ー!」
「お前らああああ!盛り上がってこうぜー!」
「おおおー!」
「いつも俺らの支えになってくれてる黒うさちゃんたち、愛してるぜ。俺らの名を言ってみろー!」
「weareブラックラビリンスー!」
「それじゃあ最初はこの曲から。クロウサラプソディー〜永遠の愛〜」
それからあっという間にライブ中盤。MCは冬樹だ。
「楽しんでるかー?」
「おおおー!!」
「そろそろ次で最後です」
観客席からはえー!という声が飛び交う。ちらりと見るといつの間にかアリスが来ていた。周りには気づかれていないようでアリスは帽子を深く被っていた。
「えー…と。次やるのは新曲です。作詞は俺で、作曲は結衣がやってくれました。タイトルは…天使の羽根。この公演後に先行販売予定なので良かったら買ってやって下さい。それでは改めて。聞いてください。天使の羽根。」
冬樹が歌い出すと周りは静けさに包まれ、穏やかな雰囲気になる。演出で白い羽根がふわふわと舞い散る。真っ白いペンライトが咲く光景は綺麗という言葉では足りないくらいだった。
「みんな、今日は来てくれてありがとう。また会おう。」
冬樹はそう言ってペンダントを投げるとそれはふわりと舞い、アリスの手の中に消えた。アリスは周りに見つからないようにペンダントをしまうとファンが帰る中、楽屋へと向かった。
「冬樹、良かったよ。」
「隼人にそう言ってもらえると嬉しい。」
「冬樹、可愛いお客さんでもいた?ちょっと今日は違ってたけど?」
「えっ!?あ…いや…」
「とーき、その可愛いお客さん来たよ?どうぞ、アリスちゃん」
「はい…」
「カワイコちゃんだけど、誰?冬樹。」
「紹介するよ、隼人。彼女は桜雪アリス、アイドルだよ」
「お話は聞いています。はじめまして、隼人さん。桜雪アリスです。」
「よろしく、事務所は…静雅のとこ?」
「えっ、なんでしーちゃんのこと…?」
「この業界で古くからの知り合いなんだ。静雅のいるところに新人アイドルがきたって聞いてどんなコかと思ってたところ。キミだったんだね。どうりで冬樹が惚れるわけだ。」
「えっ!あ…えと…はい…」
「あはは、そんなに緊張しなくていいよ。ライブ、どうだった?」
「ライブ、とっても素敵でした。新曲の演出も、ファンの方たちの笑顔も。わたしとは違いすぎるけれど…新鮮でした!あの、また、来てもいいですか?」
「構わないよ、いつでも来て。静雅にもそのうち挨拶に行くからよろしく伝えてね。」
「はい、じゃあ…また…。失礼します!」
アリスはお辞儀をすると楽屋を出た。
「アリス!」
「冬樹…なんで?このあと…!?」
ふわりと抱きしめられ気づけば腕の中におさまっていた。
「好きだ。アリス」
「冬樹…あの…私、帰らないと…」
「わかってる。けど、返したくない…」
「うん…ありがと…」
二人は少しの間抱き合ったあと、冬樹は楽屋へ、アリスは自宅へとそれぞれむかった。