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外の世界、キラキラの向こう側

「そっちの照明いいかー?」

「照明もうちょっと明るめに」

「楽器のチューニングオッケーでーす!」

目の前でスタッフたちがバタバタとあちこち駆けまわっている。今日はライブの日。少し小さな会場だけど、お客さんはたくさん来ているらしく、会場内のモニターにはたくさんのお客さんが映る。


「うん、完璧ね!とても似合うわ」

静雅にそうほめられ、少し照れ笑いをする。

「ねぇ、外行きたいー」

「だめよ、今日はライブなんだから!」

「えー…」

「すみませーん!こっち確認お願いします。」

「はーい!…アリス、待っててね」

静雅はそういうとスタッフとともにいなくなった。

私服のパーカーを羽織り、隙を見てアリスは外へと駆け出した。


ざわざわと人が行き交う街中と大きなモニターに映し出されるいろいろな映像。立ち止まり見つめる人もいれば足早にかけていく人もいる。


「(これが…外の世界…)」


しばらく立ち尽くしていると声をかけられた。

「お嬢さん、こんなとこでなにしてんの?珍しいモンでも見つけた?」

「あ…えと…」

直後、大きなモニターから女性アナウンサーの声が聞こえてくると同時に彼はモニターに目を向けた。


「今人気急上昇中アイドルの桜雪アリスさんが失踪したとのニュースが入ってきました。本日開催されるライブのために至急スタッフや関係者らが行方を追っている模様です。尚…」

「…ふーん。桜雪アリスってアイドルが失踪、ね。」

彼はニヤリと笑うとアリスに手を差し伸べた。

「あんた、ヒマなら行きたいとこ連れてってやるよ。どこがいい?」

「…プリクラ…とか…」

「よし、わかった。いくか」

「あの!…えっと…まだ名前、聞いてないです」

「俺は琥珀冬樹(こはくとうき)。あんたは?」

「アリス…です」

「アリス、よろしく。…で、あんま見かけない顔だけどどこのひと?」

「東京です。でも友達いないから外出たことなくて…」

「へぇー、じゃあプリクラ撮りたいけど相手がいないってわけか。俺なんかでいいの?」

「はい。あなたは…なんだか似てる。わたしと」

「似てるって…はは、アリスって面白いのな(笑)」


それから冬樹とプリクラをとったり、ゲームセンターで冬樹にぬいぐるみをとってもらったりと仲良くなるまですぐだった。アイドルとしてこんな普通のことをしてこなかったのがちょっともったいなかった。


「はぁー、楽しかった。ありがとう、冬樹。」

「いやいや、なにもしてないって。…あ」

そのときモニターから流れた映像を見てアリスが歌い始める。周りには聞こえない、けど冬樹には聞こえるほどの声量で口ずさんだ。

「ときめき、あなたと一緒にいたいの♪♪キスしてって言っても焦らしてばかり♪♪あなたとわたしさくら色に染まれ♪♪」

「…アリス…あんたまさか…」

口ずさんだあと、アリスは人が少ない場所へ冬樹を連れていき、パーカーを脱いだ。キラキラの衣装。胸元にはキラキラにデコられたブローチ。髪飾りもお揃いのラインストーン。

「…冬樹、わたしは、アイドル桜雪アリスです。黙っていてごめんなさい。」

「…そうか、あんたが。…アリス、俺も黙っていたことがある。」

冬樹から1冊の冊子を渡される。めくると、ブラックラビリンスの記事。そして冬樹の写真が載っていた。

「冬樹…」

「俺こそ黙っててごめん。ブラックラビリンスの活動を放り出してこんな街中でアイドルに会うなんてな。驚いたよ。…けど楽しかった。アリスはステージがあるんだろ?なら早く帰らないとな」

「…でも、あなたにも来て欲しい…。わたしのキラキラしたとこ、見て欲しいの。」

「…けど…邪魔にならないか?」

「大丈夫。…それじゃあ行くね。ステージ見に来て。待ってる。」


アリスはチケットを渡して走ってステージへ向かった。



「アリス!あなた今までどこに行って…!」

「しーちゃん。あたし、このままスタンバイするよ。アイドル、桜雪アリス、行ってきます。」

靴を履き替えるとマイクを持ち颯爽とステージに立った。

「それじゃあ幕上がりまーす、3、2、1」


観客の歓声が聞こえる中、幕が上がる。

「みんなー!盛り上がって行くよー!一緒に歌ってー!」

曲が流れ、ステージの端から端まで駆け抜けながら歌う。途中、観客の中に冬樹を見つけた。


「(冬樹…!来てくれたんだ!)」

アリスは冬樹にウィンク1つするとそれを見た観客から歓声が上がる。

「とーき、あの子がアリス?」

「ああ、今のって…」

「間違いなくとーきにしてた。いーなー、あんな可愛い子にウィンクされるなんて。モテモテだねぇ」

「…」


何曲か続いたあとアリスは汗だくのままMCに入る。

「みんなー!盛り上がってるー?」

観客たちが大歓声で答える。

「今日の開演、ぎりぎりになってしまってごめんなさい。少しだけ、冒険をしてきたのでお話します。…普段、アイドルとして活動しているわたしですが、なかなか出来ない経験をさせてくれた優しい方に今日出会いました。その方にお礼をいいたくて。この場を借りていいます。ありがとうございました。きっとね、わたしの姿を見てほんとは桜雪アリスだって気づいてたと思うんです。でもその方はわたしに普通に接してくれました。アイドルではなく、1人の女の子の桜雪アリスとして。すごく嬉しかった。…って長くなっちゃいましたね、ごめんなさい(笑)では聞いて下さい。CMソングにもなっているこの曲。ときめき、キス。」

会場が暗転して映像とともにアリスの歌声が響き渡る。

歌い終わるとマイクを置いてアリスはステージから消える。

「彼女、透明感があるよね。ファンがこんなにいるのもわかる気がする。とーきとは違うね」

「うるせー。アリスは…今までにないアイドルだよ。アイドルらしさにとらわれない。そんなやつだ。」


再び違う衣装で出てきたアリスは最後の曲です、と告げる。

「紹介します!これからのわたしの新しい活動の形、新しいスタイルです。マーメイド♡ジュエル!」

バンドメンバーたちがステージに登場すると曲が始まる。

「サマー愛ランド!」

手を振りながら歌う姿はまさにアイドル。会場が熱気に包まれる中、アリスはステージを降りた。


「アリス、おつかれさま。良かったわ」

「…」

「アリス?どうかしたの?」

「ううん、なんでもないよ。ありがと、しーちゃん。それじゃ楽屋に戻るね。事務所に戻る頃また声かけて」

アリスははしって楽屋に向かい扉を静かに閉めた。


「(キラキラの向こう…今日も見れてよかった…。着替えたら早く帰らなきゃね…)」

衣装を着替えて楽屋を出ると2人の男の人を見かけた。

「アリス…」

「冬樹…」

「柚衣、改めて紹介するよ。彼女が桜雪アリス、マーメイド♡ジュエルのボーカルでアイドル。」

柚衣(ゆい)と言われた男の人は冬樹より背が低い小柄で可愛い系だった。ふーん、と見られるとニコッと笑う。

「桜雪アリスさん、はじめまして。ボクは柚衣。冬樹と同じブラックラビリンスでギターやってるんだ。よろしく」

「よろしくお願いします。アイドルの桜雪アリスです。最近マーメイド♡ジュエルを結成してボーカルを担当しています。」

「とーきが街でアイドルに会ったって聞いてどんな子かなって思ってたんだー。キミだったんだね。」

「はい、わたし、街に出たの初めてで…立ち尽くしていたところで冬樹さんに会いました。まさか女の子たちに人気のブラックラビリンスのボーカルだと思わなくて…すみません。」

「いや、いいよ。あの時は柚衣と待ち合わせてたとこでね。アリスに会って驚いたよ。事務所は違うけど同じ歌手としても仲良くしてくれると嬉しい」

「是非。…あ、そろそろわたしはこれで失礼します。柚衣さん、冬樹、それじゃ」

アリスは2人に頭を下げ、ぱたぱたとその場を後にして外に用意された静雅の車へ向かったのだった。














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