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仲間と休息

移動は流石に徒歩と言うわけにもいかず、ロウンの用意した馬車に助けられた。初めは彼の同行を渋っていたアーティも渋々ながら許可するしかなかった。



「別に、彼の事が嫌なわけではないのよ?」


言い訳のようにこっそりとアリスリンにだけ告げてくる。


「ただ、職務熱心過ぎるところがあるから、心配なのよ」

「まあ真面目なのもいいけど、度を超すとねえ」


彼の場合は、仕事だからというわけではないのだろうけれど。彼が誰の為に騎士になったのか、このお姫様はてんで分かっていないらしい。幼なじみとは、そういうものなのかもしれない。アリスリンにはそういった相手が居ないから分からないけれど。



「僕はですね、予言者様の噂を聞いて、押し掛け弟子になったんです!それまではあちこちいろんな所を旅して回って、いわゆる自分探しの旅ってやつです!」


ベルはリバー・ミネルヴァの弟子というだけあって、賑やかな彼に似てよく喋る少年だ。

明るい人間が居るのは良いことだ。少し空気が読めない所もあるようだけれど、これくらいが丁度良いのかも知れない。


ベルの格好はあまりにも目立ったので、上衣を与えてみたのだけれど、それでも彼はどこか少女のように見えてしまい、そんな彼をアーティは面白がって直ぐに気に入ったらしい。まるで姉弟のように楽しげにしている様子に微笑ましさを感じる。


「水を汲んで来ます」


桶を持ってロウンが上流の方へと歩いて行く。

アリスリンは慌てて彼を追い掛けた。


「…何か?」

「あ~、いや、その。何か手伝おうかなって」

「寧ろ私が貴女の手伝いで水を汲みに来たつもりなのですが」

「ですよね」


何だか気まずい。

そう言えば、アリスリンはアーティ抜きでこの騎士とあまり話した事がなかったのを思い出した。


少し後ろを付いていきながら、そっと観察する。


彼はアリスリンより幾つか年下だった。

どちらかと言えばアーティと歳は近かった筈だ。一つか二つか、それくらい彼の方がアーティより年上の筈だけれど、彼はそれ以上に大人びて見える。

この若さで騎士隊長をつとめているのだから当然かも知れないが。



「済みません。私はあまり話すのが得意ではないので、不愉快にさせてしまう事が多いものですから」


水を汲みながら、騎士が言い訳じみたことを呟く。

確かに、餓鬼のくせに無愛想で生意気だと城内の評判はあまり良くはない。それも女性人気のやっかみだと半分は思っていたのだけれど、あながちデタラメでもないらしい。

まったく、不器用な男だ。

きっと損する事も多いだろうに。

しかし、彼は気にしないのだろう。

信念があるから。


それはアリスリンも同じだった。



「あの子の事はあたし達で守りましょうね。何があっても」


騎士は無言だった。

けれど、思いは同じだった。

アリスリンと彼は似ているから、分かる。

同じ者に救われて、同じ者を大切に想っているから。



「ねえアリスリン、見て見て。カインの鞘をね、お父様が用意してくださったみたい!」

「馬車に色々と積まれてました。食糧とか水とか、あと薬箱とか。王様直筆のお手紙付きで」

「ロウンは知っていたの?」

「私は中身までは聞いてはいませんでしたが」


キャンプに戻ると背中に聖剣を背負ったアーティが嬉しそうに駆けて来た。

なんだかんだ言ってはいるけれど、この娘も父王が大好きなのだ。


確かにカインシードはアーティには大きすぎる。

なんせ地面に突き立てた状態でも柄の部分が顔の高さまであったのだ。

アーティが小柄な事もあるが、それにしても刀身が長すぎる。

見た目に反して重いということはない。

それはアーティが正式な持ち主として選ばれた故なのか。それはいいのだが、扱うとなると話は別だった。


フィールだって、こんなに長い剣を振り回す程大柄な人間ではなかった。華奢ではなかったけれど、中肉中背の一般的な体格に見えたのだが。


「先ずは聖剣を自分のものにしなければいけませんね。こいつ、まだ先代の事を捨て切れてない。アーティさんにサイズがまったく合ってないのが証拠です。未練たらしいったら」


アリスリンの淹れた紅茶を飲みながら、ベルがアーティの傍らに置いた聖剣を顎で指す。

少女のような見た目にそぐわず、中身はいたって男らしい少年である。


「どうすればいいのかしら?」


鞘越しに問い掛けるように撫でて見ても、聖剣はうんともすんとも言わなかった。


「なんだか、拗ねてるみたい」

「あなたが乱暴に扱ったんじゃない?」

「わたし、剣なんて触ったこともなかったから…」


冗談のつもりだったアリスリンの言葉にアーティがしゅん、と落ち込む。やはり勇者に選ばれたとはいえ、お姫様はお姫様だ。


「剣の扱いなら私がお教えします」

「有り難う、よろしくね」


ロウンの申し出に少しだけ元気付けられてくれたらしい。確かに、これ以上の教え手はいないだろう。何せ彼は国一番の剣の使い手だ。


「私にはこれしか取り柄が有りませんから」

「あら、そんな事はないわ。侍女達が言っていたわよ。その銀髪、王子さまみたいでとっても素敵だって。ロウンはとっても人気者なんだから!」

「………」


嬉しそうにアーティが褒めるが、当の本人はどこか不満げだった。

照れている訳ではなく、本気で嫌なのかも知れない。

確かに彼のガラではないのだろう。あのチャラチャラとした予言者とはやはり対極な男だとアリスリンは思った。



「ところで今向かっている村についてですけど」


思い出したようにベルが切り出した。


「勇者フィールが生まれた村というのはご存知でしょうけれど、今はもう勇者の血縁は存在しないと言われています」

「そうなの?」

「彼の血筋は、彼で終わりなんです。残念な事に」


それは初耳だった。

本当に勇者の痕跡は、魔王を倒すまでの劇中でしか存在しないということか。


「フィールにはご家族は居なかったのかしら」

「彼について、僕らは何も知りませんよね。先ずはそこから調べましょう。村に行けば何か残っているかもしれません」

「……そうね」


頷いたものの、あまり気は進まなかった。

彼処は、フィールの

勇者の産まれた村であり、

勇者の葬られた村でもあるから。



大陸は聖剣を中心に広がっている。

今はアーティの居た城が大陸の中心にあり、その外側に魔の者達が住む魔海が広がっている。

今から向かうアルカ村は城からはそう遠くはない。

明日には着けるだろう。


「今夜はさっそく野宿ね。アーティ初めてでしょ」

「ええ」

「私とベルが交代で見張りますのでお二人は馬車でお休みください」

「ええー?…まあいいですけど」


「有り難う」と二人に微笑みかけながら、アーティは聖剣の様子が気になっていた。

何だか落ち着きがないような気がする。


まるでフィールが現れたあの時のように。


これから向かう村のせいかも知れないと思いながらもアーティ自身も落ち着かなかった。


あの人にもうすぐ会えるような気がして。







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