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風車  作者: 藍月 綾音
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「きゃぁぁぁ!凄いわっ!!柚のクローゼット宝の山よっ!!いやだ、コレ去年の限定モデル。しかもナンバー零っ!アンタっこれ各色限定50着づつしか販売してないのよっ!全色揃ってるじゃないの

よぅ!!」


 私の部屋のウォークインクローゼットに入った蒼は、さっそく服に夢中になってしまい、小さい悲鳴を上げると声を抑えながらオネェ言葉で話しだした。

 やっぱりさっきのオカマな蒼は夢じゃなかったのか。

 シミジミとそう思いながら、ポスンとベットに横たわった。

 あーぁ、あんなに顔を輝かせちゃって。本当にWINDYの洋服が好きなんだろうなぁ。

 男のフリをしていたら着れない洋服ばかりなのに。


「この、ロックテイストから甘いロマンティックまで、幅広いデザインを手がけて、それでいて一目であっ、WINDYだって分かるトコが好きなのよ」


 WINDYのロゴマークは繊細なデザインのティアラだ。どの洋服にもさりげなくティアラが隠れている。

 ボタンだったり、スカートのすそにチョコっと描いてあったりあぞび心が満載でティアラが何処に隠されているのか探すのも楽しい。

でも、一目で分かるほどじゃないと思うんだけどなぁ。

少なくとも私には分からない。


「うわっ。こっちはロリポップばっかり。あらっ!こっちも限定品まで揃ってるっ!!」


 あぁ、そっちはりく伯父さんが持ってきたほうだ。着ないんじゃなくて、着れないってほうが正しいんだけど。

 だって、フリフリなんだもの。兎に角レースが凄い。フリルも凄い。ちょっとゴスロリ入っている。

 りく伯父さんが赤い顔しながら持ってくるから捨てられないんだよね。

 でも、このフリフリを私になんで着ないのかと尋ねる蒼も蒼だよね?てか、知ってるってことはこっちも着たいって事??!!フリフリだよっ!

 蒼は次々と洋服を丁寧に見て、感激しながら首をかしげたり、笑ったりと百面相をしている。

 その幸せそうな顔に私のほうが嬉しくなってきてしまった。

 蒼はどうして男の人の格好してるんだろ。顔が綺麗なんだし、スタイルもいい。腰の細さなんてあり得ないくらいなんだから別にスカートはいてお化粧していても変じゃないのに。


 いや、変じゃないどころかそんじょそこらじゃお目にかかれない美女に変身しそうなんだけど。

 よく気のつく人だなと思ってたけど、女の人目線だから気がきくんだな。

 ボンヤリとそんな事を考えながらゴロゴロしていると、急に影が差す。

 おや?と思って影がさしたほうを見るとあきれ返った顔を隠そうともしない蒼が電気を遮るように立って、私を見下ろしていた。


「あんた、ホント女子力皆無ね。なにそのゆるい雰囲気。それに、なんなのっ!!この汚い部屋っ!!あり得ないわよっ!なにこの汚い部屋にアタシを連れ込んでるのよっ!」


 そう言われて、私は部屋の中を見渡した。

 部屋の中にある家具はベットと机だけ。あとの細々しているものは壁の隅に積み上げたり、紙袋に放り込んで壁際においてあった。

 さっきまで下に散らばっていた洋服は巽が片付けてくれたみたいだし。ゴミも拾って掃除機がかけてある。

 雑誌や本は整頓されて机の上に置いてくれてあった。

 私は首を傾げた。


「汚い?何処が?」


 目を丸くしたのは先輩のほうだった。一瞬で部屋を見渡すと、頭を抱えて座り込んでしまう。


「前から、この子整理整頓が苦手なのかしらとは思ってたけど、まさかここまでとは」


「えー!ゴミなんか落ちてないじゃないですかー」


 キッと蒼が下から私を睨みつけた。


「アンタっ!!物を紙袋に入れて放置するのは片付けてるって言わないのよっ!それに、クローゼットのホコリっ!服が可哀相でしょうがっ!だいたい部屋の隅にうずたかく積まれる書類の束って!!アレ、全部ゴミなんじゃないの?」


 ……………………正解。なんで分かったんだろう。流石先輩だよ。


「あぁ、折角のWINDYが泣いているわ。柚は全体的に大雑把なのよっ!」


 だって、面倒臭いんだもん。

 人間寝るスペースがあれば生きていけるわけだし。

 別にお風呂に入ってないとか言うわけじゃないし。

 口を尖らせると、蒼の鉄拳が飛んできた。ガツンと頭の天辺に痛みが走る。


「もうっ!いいわよっ!今日はとり合えず見た目だけ可愛くしてあげるわ。お食事いくんでしょう?」


 何も叩くことないじゃないか。

 とは、思うものの、あまりの迫力に有無を言わせない圧力を感じる。

 ドンと蒼がベットに置いたのはこの部屋にくる途中に自分の家に寄ってもってきたメイクボックスだった。


「まずは顔を洗ってらっしゃいな。メイクしてあげるから」


 そう低い声で凄まれて、仕方なく部屋を出た。

 リビングでは奏さんがソファに座ってコーヒーを片手に雑誌を読んでいる。

 家に帰ってきた時には、巽はどこかに買い物に行ってしまったみたいでいなかった。

 今は支度をしながら巽を待って御飯を食べに出掛けようという事になっている。

 因みに奏さんのコーヒーは奏さんが自分で淹れたものだったりする。

 もう勝手知ったるなんとやらだから。

 奏さんは、チラリと私を見ると優しく微笑んで体を私にむけた。


「柚、和泉くんにコーヒー持っていってあげて。サーバーに入ってるから」


「はーい。奏さんありがとう。」


 奏さんも本当に気が利くよなぁ。蒼の分までコーヒー淹れてくれるんだもん。

 先に顔を洗ってからキッチンに入ると、お客様用のコーヒーカップとミルクと砂糖がお盆に乗ってセットされていた。

 流石っ!奏さん!

 後はコーヒーを注ぐだけになってるなんて嬉しいよ。ちょこんと小皿にチョコレートまでのっている。


「持っていってあげても良かったんだけと、邪魔しちゃ悪いし、家族じゃない僕が出すのも如何なもんかと思ってさ」


「邪魔なんてことないよ?それに、私がしなきゃいけなかったのにありがとう」


 コーヒーを注ぎながらいうと、奏さんは雑誌に目を落としながらコーヒーをすすった。


「大丈夫、柚にそんな気が利かせられるとは思ってないから。晶があれじゃ仕方がないよね」


「お母さん?なにがあれじゃなの?」


「一から十まで柚の面倒みてたでしょ?躾より柚が可愛いってのが勝っちゃったんだよ晶は」


 ………………………あれ?奏さんさりげなく私の躾が、なってないって言ってる??

 いくら私でもお客様に、コーヒー出すくらいは、出来るし。

 ただ、奏さんはもうお客様に入らないし蒼は招かざる客ってやつだからさ、コーヒーなんか出さなくても良いじゃないかと思うんだよね。


「晶はねぇ、一人じゃ外出れないし、家にいたら子供の面倒ぐらいしかやる事ないし、柚も遥も大人に囲まれてホントに甘やかされて育ってるからなぁ」


「ちょっと、奏さん。私が駄目な人間って言ってるの?奏さん率先して甘やかしてると思うけど」


 ちょっとムッとして、そういうと、クスリと笑われた。


「ソレが分かってるから、柚と遥は大丈夫。君たちなんにも出来ないけど、愛情だけはやたら貰って育ってるから」


 …………何が大丈夫なのよっ!めちゃめちゃ何も出来ないって言われてるけどっ!


「何にも出来ないのは、好きな人が出来たんだから変わるよ。好きな人には色々喜んで欲しいと思うはずだから」


 むむっ!今日の奏さんは説教臭いぞ。

 私、好きな人が出来てもなんにも変わらないんだけど。

 巽に色々してあげたいか?

 いや、色々して欲しいだよねぇ?

 首をかしげて考えても奏さんの言っていることはよく分からない。

 まっ、考えてもしょうがないか。分からないものは分からないし。

 だいたい、奏さんなんか結婚も子育てもしてないし。

 って、アレ?お母さんの事、一人じゃ外に出れないって言ったな、今。

 私はコーヒーを注ぎ終えるとお盆を持つ。

 キッチンから出ると、雑誌に目を通す奏さんを見た。


「お母さん、一人じゃ外に出られないの?なんで?」


「あれ?柚は知らないんだっけ?じゃぁ、直接晶に聞きなよ。教えてくれるから」


「えー、なにそれ。奏さんが教えてよ」


「嫌だよ。柚が知らないなら、なにか理由があるんだよ。僕、カズさん怒らせたくないから」


 あぁ、奏さん、お父さんにすぐに怒られてるもんね。

 もう、けちなんだから。

 お母さんに聞けばすぐに教えてくれるなら、今ここで奏さんが教えてくれたって一緒の事だと思うんだけどなぁ。

 けれど、お父さん絡みの時は奏さん、絶対に駄目っていったことは教えてくれないから諦めよう。


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