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風車  作者: 藍月 綾音
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 次の日、巽が出掛けたことをメールで知らせると、蒼は意気揚々とやってきて気合を入れてメイクと服のコーディネイトをしてくれた。

 今日は、黒のキャミソールにデニムのショートパンツ。白のガーゼ生地に赤のレースや模様をあしらったエスニック調の上着を合わせて黒のサンダルを渡される。

 鞄はシンプルな皮の肩掛け鞄だ。

 髪の毛をゆるく一つに編んでわざと少し髪の毛を引っ張り出すと、ルーズ感がさらに完成されていく。

出来上がりを満足気に見てから、蒼と一緒に朝ごはんを食べて大学に来ていた。


 夢だったらいいのにと思ったけれど夢ではなかったようで、人のいないところでは蒼は楽しそうにオネェ言葉で話す。

 だけど、一歩外に出ればそんな素振りは全く見えなかった。


 エスコート上手だし、ほら、なんていうのイギリス紳士のレディーファーストってやつだと思う。扉を開けて先に通してくれるんだよ?あり得ないよね?


 そんな蒼と一緒にいれば、自然と注目を浴びるのは必然で・・・・・。

 電車の中でなんだか久しぶりに注目浴びるなと周りを見渡せば、蒼に視線が集中している。

 心の中で、一人納得してしまった。

 

 そうか、蒼ぐらいの顔の整い方でも注目浴びるのか。


 考えようによってはとても失礼だとは分かっているけれど、なにしろ巽とお父さんと歩くと周囲の注目度が半端ない。

 子連れでいたって逆ナンされるんだから。おかげで電車の中とか、繁華街で注目を集める視線は慣れっこになっていた。

 あまり視線を気にせず、蒼と今日の予定を打ち合わせしていると蒼が耳元に口を寄せた。


「柚、アンタ今日は兎に角アタシと付き合ってるって宣伝しまくるのよっ!!いいわねっ!」」


 宣伝しまくるって、もうすでに何度かキツイ視線を頂戴してるけど。

 

 近くにある蒼の顔を見て、私は溜息を吐いた。

 この程度の顔でモテるとか、やっぱり都会でも、巽以上に格好良い男は存在しないのか。


「なによ、失礼ね。人の顔見て溜息とか吐かないでくれる?」


「別にー」


 ふいと視線をそれせば、怒ったように蒼が息を呑む。


「アンタ、ほっんとに生意気ねー!年上を敬うって巽様に教えてもらわなかったのっ!」


 今度はげっそりと溜息が出る。

 すっかり巽に様までつけちゃって、蒼は本格的に巽に惚れ込んでしまったらしい。


「年上を敬うってことは教わったけど、失礼なオカマを敬えとは教わってない」


「オカマじゃないって言ってるでしょっ!!オネェよ、オネェ!それにアンタのほうがよっぽど失礼でしょうがっ!」


 声がちょっと大きくなりそうになって、慌てて蒼は声を低めた。

 それから、ちょっと考える素振りをしたと思うと、ふふんと鼻で笑う。

 そして、グイッと近づくと、また耳元で囁いた。


「アンタ、アタシが気付かないとでも思ったの?アンタの秘密してっるんだから」


  ・・・・・・私の秘密?

 秘密って、別に秘密なんてないけど。


 なにを言われているのか分からずに、蒼を伺い見ても、分かってるのよ的な意味深な笑顔を浮かべているだけだ。


「意味わかんない」


「そうだな、憶えておくといいよ?柚の秘密を俺が握ってるってね」


 普通に男に戻って、綺麗に口角を吊り上げる。悪戯に煌めく瞳に、イヤな予感しかしなかった。

 なんだ??秘密って!

 人に言われたら困ることあったけ??

 まさかとは思うけど、巽にばらすとか?

 いや、ないない。それやったら私もオカマなのばらしてやるし。

 なんだか、私が強い筈なのに、蒼が優位に立っているのが気にくわないんだよなぁー!


 そうそう、昨日の夜はホテルの最上階でフランス料理を奏さんにご馳走になったんだ。

 最初から最後まで蒼は普通に見えたのに、家に帰って来てから、携帯に電話がかかってきて興奮した口ぶりで延々と料理の素晴しさと、巽の格好良さを話された。

 その時だって、私が巽の事をどう思っているかなんで話題にも登らなかったし。

 多分、なにか他の事で私の秘密になりそうな事に気付いたってことかな?

 でも全く身に覚えがない。

 軽く首を捻って、まぁ、いいかと考えなおした。

 だって、どんな事かも分からないのに、考えたり萎縮するほうが馬鹿らしいじゃないか。

 体を離した蒼をそっと盗み見る。

 なんだか濃すぎる昨日の夕方から時間のおかげで、すっかり凄く前からの友達のようになってしまっていた。

 大学の友達より話をしていて面白いってどういうことなんだろうと、ふと考えた。

 蒼は、オカマなのを覗けば、とってもいい人な気もする。

 メイクも上手だし、洋服を見る目も間違いないというか、私の好みをピンポイントでついてくる。話も合う。好きな人の好みも似ている。これに関しては滅茶苦茶不本意だけど。

 この際、男とか女とか細かい事なんて気にしなくてもいいかも。

 男のふりをしている時は、格好いいんだし。


 昨日からのモヤモヤを打ち消して、私は気を取り直した。彼女らしく腕でも組んだほうがいいんだろうか。

 ちょっと考えていると、蒼が首を傾げる。


「なに?」


「ん、この際彼女に徹するには、腕でも組んだほうがいいのかなと」


「柚は変なトコ真面目だな」


 くすりと笑うと私の手を握る。暖かい体温が私の冷たい指先につたわってくる。


「冷たい。冷え性?しょうがをいっぱい食べなよ。パウダーも売ってるし」


「別にいいよ困ってないし。手を繋いでればいいの?」


「まだ、付き合い始めだしね。段階ふめばいいよ」


 ・・・・・・・蒼って、凝り性っぽいよね。段階って、本当に付き合ってる訳でもないのにそこまで考えるの?


 そこで、ハタと気付く。

 私、蒼のオネェ言葉に馴れすぎてるよ。この男の人っぽく喋る蒼にものすごく違和感を感じるんだよ。

 昨日まで、この和泉先輩が私の知っている和泉先輩だったのに。


 今では、オネェ言葉で、ころころ表情と機嫌が変わる蒼のほうがしっくりきてしまっている。


 毒されてる。毒されてるよ私!


 でも、オネェ言葉で話している蒼のほうが生き生きしていて、輝いて見える。

 人間我慢は体によくないんだな。

 繋がれた手に、全くときめかない昨日とは違う自分にこっそり笑いを漏らした。



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