表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

大切なことを、忘れないでください

 拙い文章で、少ない知識で書いていきます。

 認知症になった祖父と、その家族がどう関わっていくのか。

 少しずつしか更新できませんが、どうぞお付き合いくださると嬉しいです。

 おじいちゃん、あのね。

 私の名前を覚えていなくてもいいんだよ。私は解ってるから、それでいいよ。

 覚えてないからって、そのことを謝らなくてもいいんだよ。それは仕方ないんだから。

 迷子になっても迎えに行くから、心配しなくていいんだよ。散歩にも行ってね。

 おじいちゃん、あのね。

 迷惑なんて考えなくていいから、長生きしてください。

 それが、私たちみんなの願いです。


               *


 祖父の物忘れが多くなったことに気づいたのは、今からもう六・七年前のことでした。祖母が言ったのか、はたまた母が言ったのか。それはもう、覚えてはいません。

 いわゆる、認知症というものだと。

 それまではまったく自分に関係のなかったことが、一気にやってきました。叩きつけられてしばらくは「変わらないんじゃないか」「ただの物忘れだ」と、そう思うことが家族の心理だと思います。

 でも、認知症は誰にでも起こりうることです。

 “私や家族に限って、そんなことはない”って。それは保証できません。今や何百万人といる、ごくありふれたものなんです。加齢が原因にもなりうるそれを、予防する手立てはあれど、絶対にならないようにする手立てはないのですから。

 実際に私も、そう思っていました。

 新聞やニュースで見ても、どこか他人事で。心のどこかで、うちに限ってと聞き流していました。でも違うんだと、そうじゃなんだと今になって痛感しています。

 それから、祖父が認知症だと理解してすぐ、今でもはっきりと覚えていることがひとつ。

 祖父が真っ先に忘れたのは、私の名前でした。

 あのころは初孫の姉だけが祖父の記憶に鮮明に残っていたのか、度々会話の中に姉の名前が入ってきていました。私にはそれが羨ましくて、泣きたい気持ちでいっぱいでした。泣いたとしても、覚えていない祖父が悪いわけじゃありません。それを責めるのは、お門違いです。

 気づいたころにはもう名前を呼ばれることはありませんでした。今では呼ばれるどころか、顔も覚えていないようです。

 つい数か月ほど前までは「孫だよ」と言えば「そうか、覚えてなくてごめんな」と言ってくれていました。ですが、今はもう「わしに孫はおらん」の一点張りです。でも、否定すると逆上してしまうので否定はしません。

 上手い切り返し方が見つからず、ただただ苦笑いしかできない日々です。

 もう六・七年も認知症の祖父を傍で見続けてきました。

 もう六・七年も祖父を支える祖母を見続けてきました。

 今、私に何ができるのか。そう考えて思いついたのが、こうして記すことでした。

 認知症というものは、外傷ではありません。そのぶん、人には見分けがつかないのです。ただの知らない人から見たら“はた迷惑なおじいさん”といったところでしょうか。その“はた迷惑なおじいさん”が何を思っているのか、私にもわかりません。

 私はこの六・七年を認知症と向き合う家族として生きてきました。知識はまだまだ少ないですが、それなりに向き合ってきたつもりです。

 この文章を書くことで、祖父との思い出を少しでも残したい。

 それと同時に、少しでも誰かと共有して、誰かの役に立つものになればいいと思っています。

 どうか、これだけは忘れないでください。


 認知症になっても、その人の本質が変わることはありません。


 人としての心や感情だってあります。ちゃんと話を聞いて、根気よく話してください。目の前の家族が人であると、忘れずにいてください。昔から傍にいてくれた、大切な人だということを忘れないでいてください。

 その向き合う気持ちひとつで、きっと変わるものはあると思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ