表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

トリックス☆スターズ

出来損ないの大魔導士 ~ トリックス☆スターズ

「最凶のプリースト」(別作品)と話がクロスしています。


「一緒がいいなぁ」

『え……? う、うん。そうだね、でも』

「だめ? あたしマールと一緒がいいの」

『だめじゃないよ、そう言ってもらえるのは凄くうれしいんだけど……』


 クルレとあたしは共に魔法学校に通って魔導士になった。

 正確にはクルレが魔導士になって、あたしは出来損ないの魔導士になった。

 向き不向きと言うものの差か潜在能力の差か、あたしは魔法学校を卒業したにも関わらず、満足に魔法を扱うにも至らなかった。

 魔法の形成すらままならず、むしろ失敗する事の方が多い。

 失敗する恐れから余計失敗する感じで、偶然魔法が成功してもその威力は低かった。


 入学してすぐに自分の限界はすぐに分かった。

 潜在能力はそれなりにあるらしく入学は出来たけど、それは必ずしも実る訳ではないと言う見本の様なものだろう。

 何度も担任に遠まわしに他の道を進められ、わたし自信も何度も辞めようと思った。

 その都度クルレに励まされて、魔導士認定はされなかったけど卒業する事が出来たんだ。


 だから学校を卒業したら魔導士としての活動はせず、普通の生活をしようと思っていた。


「大丈夫、あたしがマールを護ってあげるから」


 結局、押し切られる形でクルレと一緒に新しい街に住む事になった。

 二人で魔戦士組合に入り、討伐等の仕事を請けてはこなす。

 と言ってもあたしは殆ど役に立たず、魔法の形成に手間取っている内にクルレが倒す形だったけども。


 討伐の帰り、あたしはいつもクルレに詫びていた。

『ごめんね、またクルレばっかりにさせちゃって』

「そんな事ないよー、マールもちゃんと頑張ってるじゃない」

『ありがとう。でも、あたしはやっぱり役に立てないよ……』

「大丈夫、今にうまく出来る様になるよ。あたしだってマールが居てくれるからがんばれるんだから。ほら、泣かないの!」

 あたしはいつも泣いていて、クルレは笑って励ましてくれた。


 そんなある日、あたし達はマトラの西の外れにある、エムトと言う小さな村の警護をする事になった。

 遠く離れた最果ての地ではあったが、報酬も高く、戦闘も必然ではなさそうなので無条件に飛びついた。

 エムトの村周辺に、最近不審者が多く見られる様になった為だそうだ。

 小さな村と言う事もあって資金も限られていたからもあるだろう、依頼で募集された組合員は10名と少なかった。

 その内訳は、剣士が五名、格闘家が二名、ヒーラーが一名、そしてあたし達二人だ。


 エムトの村に到着してすぐ思った印象は、穏やかで花壇の花が咲き乱れる美しい村だった。

 村の小さな学校で学ぶ子供達の明るい声が聞こえる中、あたし達は定期的に村周辺を警備して歩いた。

 警護を始めてすぐに三日が経過したが、怪しい者の姿はなく、一週間の期限はあっという間に過ぎると思っていた。


 交代で昼食を兼ねて休憩を取っていると、丸い目をした黒髪の少女があたし達に近づいて来た。

 年齢は8歳前後と言った所か。

「おねえちゃん達魔法使い?」

 真ん丸の目でじっと見つめるその少女はこの村の村長、インダイト・プレナの一人娘だった。

「そうだよー! ほらっ」

 クルレは人差し指を立てると、指の周りに光の輪を作ってくるくる回して見せた。

「うわぁー! きれー!」

 村長の娘は目を輝かせて見ていたが、やがてあたしの目をじっと見つめた。

「あのね、ボク……」

 この少女は自分の事を「ボク」と言う様だ。

『なぁに?』

 視線を外して少し俯いた後、再びあたしの目を見た少女はこう言った。

「ボクね、大きくなったらおねえちゃん達みたいに強くなってこの村を護るんだ」

『そっかぁ、きっとなれるよ』

 少女に微笑んであげると、満面の笑みを浮かべていた。

 自分の事をボクと言うのは、男の子の様に強くなりたいからだろうか。


 それからもその少女は、あたし達が休んでいるとやって来るようになり、そして何事もなく最終日がやって来た。

 お昼の休憩をしていると、いつもの様に少女はやって来たが、今日は少し元気がない様だ。

「おねえちゃん達、明日帰っちゃうの?」

『うん』

 そう言うと、その少女は俯いてしまった。

「元気だしなって、大きくなって魔戦士組合に入ったらまた会えるんだから」

 すると少女は俯いたまま首を振った。

「ボクも、一緒に行きたい」

『え……』

「強くなるから、頑張って強くなるから」

 少女はあたしの袖をぎゅっと掴んで離そうとせず、あたしとクルレは困ってしまい顔を見合わせていた。


「イシェル、そんな無理を言うもんじゃない。それにいい加減ボクと言うのもやめなさい」

 様子を伺っていたのだろうか、村長が出て来てイシェルを制した。

 すると、イシェルと呼ばれたその少女は、俯いたままどこかへ走って行ってしまった。

「あの子の母親、つまり私の妻ですが、それの悪い癖がうつってしまった様でお恥ずかしい」

 インダイト・プレナ村長の話によると、イシェルの母親は元魔戦士組合員の魔導士で、この村の依頼をきっかけに村を気に入り住み着いたらしい。

 同時に魔戦士組合員からは引退し、村長と結婚してイシェルが生まれたそうだ。

 その後、イシェルの母親はずっと村を一人で護って来たが、少し前に何者かに殺されてしまったと言う。

 不審な者を度々見かける様になったのはそれからで、軍にも調査依頼を出したが一週間程はかかる為、それまで魔戦士組合に警護を依頼したのだと言う。

 イシェルの「ボク」と言う一人称は、母親譲りなのだそうだ。

 そうか、イシェルは男の子の様になりたい訳じゃなくて、村を護って来たお母さんの様になりたかったんだ。

 あたしはイシェルがとても健気に思えた。




 異変はその夜に起こった。

 交代の見回りに出た三人が、いつになっても戻ってこないのだ。

 村の警備に三人を残し、あたしとクルレ、そして格闘家と剣士の四人で捜索に向かい、その三人はすぐに発見出来た。

 森の中の月明かりが届く明るい場所で、三人とも折り重なる様に血まみれで倒れていたのだ。

 三人は既に事切れており、剣を手にしている事から何者かに襲われたと思われる。


「まずいな……、恐らく明日軍が来る事を知って行動を起こしたに違いない」

「ならば、村の護りを固めるのが懸命だな。急いで村に戻るぞ」

 そして、あたし達が村に戻ろうとした時、暗がりの中から声がした。


「ほー賢いねぇ、もしかして名探偵かい?」

「おっほ! なんだ名探偵かよ、どうりで弱えぇはずだ!」

「なるほどな」


 あたし達は一斉に声のした方向へと振り向いくと、そこには三人の男が立っていた。

「何だお前等は! こいつらはお前等がやったのか?」

 剣士がそう言って指を指すと、男達は一斉に噴出してげらげら声を上げて笑い出した。

「ブハッ! さすが名探偵だ、推理始めたぜ!? 犯人探ししてるわーッ!」

「決め台詞は『犯人はこの中に居る』だろ? さっきのオレの台詞で犯人だって供述したってのによ! ところでオレの台詞うまかったろ? うまかったらなるほどなって言え」

「なるほどな!」

 そして、三人の男はまた爆笑し、あたし達はあっけのとられて見ていた。


「ふざけやがって、誰が名探偵だと!?」

 剣士は剣を抜くと三人の男に向かって突きつけ、格闘家とあたし達も身構えて交戦が始まった。

 最初に喋った男と剣士が戦い、二番目に喋った男と格闘家が戦い、最後になるほどなと言っていた男とクルレが戦っている。

 その様子を、あたしは一人なす術もなく見守るだけだった。

 こんな時もあたしは何の力にもなれないのか、無力感に苛まれる。


「おーい! 名探偵って普通剣とか使わないだろ? 勝手に役柄変えてんじゃねぇよ!」

 剣士と戦っている男が余裕そうに言った。

「だよな! 名探偵は普通はグーで殴るもんだ、つまりこいつは名探偵だった。だったって事はどういう事か分かるよな?」

 それに対して格闘家と戦っている男がへらへらした顔で言う。

「なるほどな!」

 クルレが戦っている男はまた同じ事を言った。

 そのクルレは接近戦で苦戦を強いられている。

 接近戦されると大きな魔法を使う事が出来ないのだ。


 しかし、クルレは不利な状況を容易に打破する事に成功した。

 わざと間合いに隙を作り、まんまと誘われた男を魔法で10メートル程吹き飛ばすと、そこへすかさず攻撃魔法を叩き込んだのだった。

 男は喉を締め上げた様な声を上げ、やがて動かなくなった。

「おっとマジかよッ! オレは『なるほどな』って絶対言わねーぞ!」

 格闘家と戦っていた男は、いつの間にか格闘家を倒していた。

 地面に横たわる格闘家は白目を剥いており、様子からすると既に死んでいる様だ。

「なるほどな役はまた入れるから心配するな、こっちも終わったぜ」

 木の幹に突き刺さった剣士の剣は、何と持ち主の剣士を突き刺していた。

 地面の葉に、ポタポタと剣士の血が滴る音が聞こえる。


「んじゃ、こっちの名探偵の助手もらうぜ? 強い方はお前にやるわ」

 格闘家を倒した男があたしを真っ直ぐに指差した。

 しかし、あたしは恐怖を感じて後ろへ下がろうとしたが、足が震えて動かなかった。

 真っ直ぐにじり寄って来る男に、あたしは魔法を発動させようと手を差し出したが、頭が真っ白になって集中が出来ない為に何も起こる事はなかった。

 がたがたと震える様子を見て、男はにやりと笑っていた。

 やがて、男があたしに飛びかかろうとした時、突然男が爆発した。

 分厚い皮袋が破裂する様な重い音が辺りに響き、一瞬置いてあたしの顔や体に生ぬるい血しぶきの様なものがかかった。

「マールはあたしが護る」

 クルレだった。

 足が動かず倒れ掛かっているあたしの肩を、クルレが強く抱きしめてくれた。


「さてはお前……名探偵じゃないな?」

 尚もふざけた様子のこの男は、そう言うとクルレに飛び掛っていった。

 魔導士の不利な接近戦に持ち込もうと、男は一気に距離を縮めて行く。

 懐に潜り込まれる寸前に周囲に爆風を轟かせ、軽く5メートル程飛んで無数の魔法を叩き込むクルレ。

 同時に男の周囲にも魔法を展開させ、それをシールドの様に使って動きを封じ込めていた。

 こんな戦い方は、到底あたしには想像すら出来なかった。

 あたしを護ると言った根拠が、力がそこにあった。


 徐々に押され、傷ついて行く男の表情に余裕はなく、言葉すら発する事もなくなっている。


 ――強い……


 あたしはクルレの勝利を確信した時、男はするすると立ち位置を変えた。

 何と言う事だろう、クルレとあたしの対角線を利用し始めたのだ。

 直線的な魔法が撃てなくなったクルレは、その手数を減らした様に見えた。

 それに気が付いたあたしは、クルレと男の延長線上から外れようと移動する。

 しかし、後ろに目が付いているかの如く、男はその位置を素早く修正してしまった。


 あたしが戦いの邪魔になっている。


 移動しつつ、どうせ失敗するだろうと思って男の足元に向けて放った魔法が奇跡的に発動した。

 あたしの魔法は男の左足をかすり、確実に男のスピードを奪ったのだ。

「マール! ナイス!」

 いつも失敗ばかりしていた魔法が、ここぞと言う時に役に立たなかった魔法が始めて役に立った。

 あたしは嬉しくなってクルレにピースサインを送った。


「じょ……しゅ……は……ッ!」

 怒りに声を震わせた声に男を見ると、鬼の様な形相であたしを睨みつけていた。

 その恐ろしい形相に、あたしの体が再び凍りついた様に固まったのが分かった。

「すっこんでろーーーッ!」

 男は大声を張り上げ、剣を真っ直ぐ突き出してあたしへと向かって走って来た。

 クルレが張った魔法のシールドをつき抜け、キズだらけになりつつ向かって来る。

 すぐにあたしも魔法で防御しようとしたが、悲しくも魔法は発動する事もなく手のひらに光を集めただけだった。

『あ……ひゃ!?』

 あたしは恐怖で声にもならない悲鳴を上げる。

 男が目の前に迫り、あたしは死の覚悟を受け入れ目を閉じた。

 あたしが死んだとしても、クルレはきっとこの男を倒してくれるのだと、諦めた中にも安心感を感じていた。


「信じてよね、マールはあたしが護るって言ったでしょ?」

 至近距離からクルレの声がして、あたしは目を開けた。

 すると目の前にクルレの背中が見え、その向こうで男が歯噛みする表情が見えた。

 クルレは男の両肩を押さえていた、小さなその背中にはじわじわと赤いものが染み出してきている。

「邪魔だーーッ!」

 男は声を張り上げると、剣を地面に向かって叩きつける様に振り下ろした。

 小さな悲鳴を発し、その動きに引きずられる様に、クルレの体も地面へと落ちて行く。

 地面に倒れたクルレの胸には、男の剣が深く突き刺さっていた。

 クルレは魔法の力を使い、あたしと男の間に素早く滑り込んで、あたしをかばう為に自らの体を犠牲にしたのだった。

『え……!? クルレ?』

 剣を押し付けられ、苦しそうな表情のクルレ。

「結局は無駄な訳だがな」

 笑みが戻った男は、突き立てた剣をぐりぐりと回転させてとこじった。

 何本もの枝が折れる様な音がして、同時に人の声とは思えないものがクルレの口から発せられた。


 ――クルレを助けなきゃ


 あたしは男に右手を差し出した、その右手には確実な魔力の流れを感じられている。

 次の瞬間、男の体はドンと言う衝撃と共に吹き飛び、空高く舞い上がり、ボロボロになりながら少し離れた地面へと落下して弾んだ。

 だが、男の体を吹き飛ばしたのはあたしの魔法ではなく、クルレの放った魔法だった。

 あたしの魔法はやはり発動する事はなく、手のひらで留まっていたのだ。

『クルレ!』

 あたしは叫び、地面に倒れているクルレの体にしがみつく。

 そのクルレは、虚ろな目をしてどことも言えない方向を見つめており、息はしていなかった。

 胸に突き刺さった剣を見ると、心臓があるべき場所を貫いている。




 クルレはもう二度と動く事はなかった。




 あたしは声を張り上げて叫んで泣いた。

 何を叫んだのかも分からなかったが、ただ大声を上げて泣いた。

 そして、こんな役に立たないあたしを庇って死んだクルレを憎らしくも思い、自らの無力さを心底呪った。


 どの位の時間が経過したのだろう。

 長かった様にも思えるし、とても短かった様にも思える。

 村の方角が燃えている事に気が付いた。


 男が倒れていたはずの場所を見ると、そこにあったはずの死体がない。

 そうか、あの男はまだ死んでいなかったのか。


 無言で横たわるクルレを置いて立ち上がる。

 あたしは逃げた男の後を追うことにした。

 あれ程吹き飛ばされたならかなりの手負いのはずだ、クルレの仇を討つ為にもあの男を逃す訳には行かない。

『クルレ、行って来るね』

 あたしはクルレの見開かれた目を閉じると、あの男の後を追った。



 村は火に包まれており、既にそこに動くものは既に存在しなかった。

 辺りを見渡していると、遠くの方で子供の泣き叫ぶ声がする。

 声のする方向を頼りに進むと、足を引きずりながら不自然な姿勢で歩くあの男と、連れ去られて行くイシェルを発見した。

 男は、泣き叫ぶイシェルを無理やり連れて行こうとしていた。


 あたしはどうすればいいか考える内、護身用に持っていたナイフの事を思い出した。

 発動するかも分からない魔法に望みを託す事など出来ない、急いでナイフを取り出すと男に向かって力いっぱい投げ付けた。

 あたしの投げたナイフは、男の首の後ろに小気味良い音を立てて突き刺さり、男は一言も言葉を発する事も無くその場に崩れ落ちた。

 倒れたままピクリとも動かなくなった男を、側で佇むイシェルが不思議そうな顔をして見つめていた。

 もちろんあのナイフが当ったのは偶然であり、もしそれを外したなら次に打つ手などもなかったのだが。


 その後、後方から複数の人間の気配が近づいて来るのを感じ、更に逃げる事になったのだが、程なく追い詰められる事になる。

 恐らく狙いはイシェルだったのだろう、イシェルを置いて一人逃げたなら、あたしは追われる事もなかったのかもしれない。


 追っ手は五人の男、対抗出来る手段もなくもうこれまでの様だ。

 周囲を囲まれたあたしは、男達に右手を差し出す。

 たった一度でいい、あたしの魔法よ発動してくれ。

 そう願ったものの叶うはずもなく、右手から霧のような光が漏れただけだった。

 魔法が発動しないと分かると、男達はあたしに容赦なく近付き、そしてすぐ脇の崖へと突き落とした。

 崖を転がり落ちるあたしは、イシェルの泣き叫ぶ声を聞きながら意識を失っていった。

 もう死んでもいいやと思いながら。



 その後、あたしは翌日に到着した軍のテントで目が覚めた。

 テントはエムトの村の脇に設置されていて、外に出ると全焼した村の風景が広がっていた。

 それは、誰の目にも一目で全滅した事が理解出来る事だろう壮絶な光景だった。

 あたしも一生涯この光景を忘れる事はないだろうと思った。




          ***



 あたしはクルレの墓に花を添えつつ、昔の事を思い出していた。

『あれから13年か……』

 エムトの村は当時のまま、朽ち果てた姿を晒していた。

『なぁ、あの少女はあれからどうなったのだろうな』

 恐らくもう生きては居まいと思う言葉を飲み込んで、背後に立つ男に向かってあたしは呟いた。

「は?」

『いや、何でもない。それで、すぐ戻ると言ったのにわざわざ来たという事は、重要な事なのだろう?』


 一呼吸置き男は口を開いた。

「アローラ様がエクトの戦場にて戦死なされました」

 その言葉にあたしはピクリと反応する。

『そうか、アローラが……』

 アローラはマトラ王国最強の魔導士だった。

 確か、マトラ史上最高の素質を持つ魔導士が現れたとかで、その育成の任務を受けていたと思ったが……。

「その後、ガーネット様が指揮をとっておられますが、これを」

 あたしは男が差し出す書簡を取った。

 その書簡はアローラがあたしに宛てて書いたものだった。

 恐らくアローラは最後の時を悟ったのであろう、それはエクトから発信されていた。

「申し訳ありませんが、王国の命により、内容は確認させて頂いております。王国もアローラ様と並び証される大魔導士マール様が、最も適任であると判断は一致しております」

『大魔導士か……、あの役立たずがね』

「……?」

 あたしが独り言を言って微笑むと、目の前の男は少し首を傾げて不思議そうな表情をした。


 アローラからの書簡には、その魔導士育成の任務をあたしに引き継いで欲しいと書いてあった。

『この役目、謹んでさせてもらうと王国に伝えてくれ』

「は、その様に伝えます、では私は報告に参ります故、これにて失礼致します」

 そう言うと男は森の中へと走って行った。


 いつになっても時代と言うものは永遠に続くのだな。

 新しい時代を担う者の為に、この力が必要とあらば喜んで貸そうではないか。

『クルレもそう思うだろう?』


 心地よい風を受けつつ、あたしは空に向かって手を差し伸べた。


設定資料


◆マトラ王国

500年の歴史がある王国。魔物(魔の者)との抗争を続けている。過去は隣国に攻め入って国土を広げた事もあるが、現在は協定を結び、武器や魔法を開発、輸出している。王室、軍、ラボで構成。


◆魔戦士組合

王国が設立した民間からなるギルド。職安的な雰囲気。様々な依頼が集められている。


◆ジダン

マトラの広範囲に分布されると思われる大組織。マトラ王国の排除指定を受けている。


◆登場人物

マール・アルマ:本編の主人公。魔戦士組合へ入った活動当初、殆ど魔法を使う事が出来なかった。アローラとは幾多の戦場を共に戦った戦友であり、戦闘能力も同等。親友のクルレを自分の不甲斐なさのせいで亡くす。その後皮肉にも能力が開花する。エムトの村で幼い頃のイシェルと出会った。マトラ王国二位武官。アローラ亡き後一位となる。

クルレ・シリト:マールの幼馴染。高い能力を持つ魔導士だったが、マールを護る為に自分の命を犠牲にした。

イシェル・プレナ:エムトの村長インダイト・プレナの娘。一人称「ボク」は母親譲り。(最凶のプリーストに登場)

インダイト・プレナ:イシェル・プレナの父。エムトの村長。

イシェルの母:(ルアラ・プレナ)元魔戦士組合員の魔導士。エムトの仕事を請けた後にエムトに定住。その後、インダイト・プレナと結婚してイシェルを産む。村を護っていたが村が襲撃に遭う少し前に殺害された。一人称は「ボク」だったらしい。

アローラ・ゼノ:マトラ王国最強の魔導士。マトラ王国一位武官。エクトにて魔の者との戦いで戦死した。(最凶のプリーストに登場)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
[一言] 何やら複雑な設定があるような気がしましたが、とりあえずクルレが可哀想でした。 少女はどこへ行ったのでしょう。 なかなかに奥の深いお話です。 素敵な時間をありがとうございました。
2012/01/23 17:43 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ