第8話 難題
「これなんだけど…。」
BAR BUNKEのカウンター席に座る黒坂にマスターは一枚の紙を差し出した。
「ああ。」
短く頷き黒坂は差し出された紙に目を走らせた。
「この前黒ちゃんが殲滅した調達屋は、一人じゃなかった。全国各地に存在しているらしく、この前の中島君の指令も血液取引に関わるものだったんだ。」
黒坂のもとに緑茶を運びながらマスターは話し始めた。
「組合は、大規模な取引が近々全国各地で行われるという情報をつかんだ。」
「どれくらいの規模なんだ?」
差し出された緑茶を飲みながら黒坂はマスターに聞いた。
「この近辺の取引では、血液の量からすると人間約五百人分。」
「な!?」
黒坂は驚きの表情を浮かべながらマスターを見る。マスターは真剣な眼差しで黒坂を見返した。
「そんな量、どこで調達すんだよ…。」
信じられない現実に戸惑いながら黒坂はマスターに渡された紙の「メナス出現予想地」の欄を見た。
「なるほど…。ここなら可能だ。」
「うん…。学校だよ。それも、黒ちゃんが通ってる学校…。」
その欄には黒坂が通う学校の名前が存在した。
「一学年に二百人、三学年合わせて六百人の生徒が居る。それに…」
と言いながら、黒坂は「指令実行日」の欄に目を運ばせた。
「この日付けには、終業式で全校生徒が集合する。」
そう言うと黒坂は舌打ちをした。
「単独の指令か?」
「うん。この近辺以外のほかの学校でも取引のための調達が行われるらしく、人員はそっちに。」
「なんで他は人員を集めてるのにここは俺一人なんだ?」
「黒ちゃんは、ハンターの中でも指令の成功率が抜群に高い、それに…」
そう言うとマスターは黒坂から目を伏せながら言った。
「ここは、地方だから。首都圏ではこの辺の何倍もの取引が計画されているらしい、組合は少しくらいの犠牲は仕方ないと思ってる。」
「分かった。」
そう言うと紙を破り捨て、黒坂は席を立った。
「黒ちゃん…。やっぱり、応援を呼ぼう。僕が組合に掛け合うから…。」
「いいよ、マスター。俺が守る。」
そう言うと黒坂は店を出て行った。
「楽しみだな~。」
あるマンションの一室、そこには三人の男と一人の女がいた。
「ああ。ついに明日だ。」
椅子に座っている男が、嬉しそうに微笑む女に言った。
「取引に使わない余った血は俺らがもらっていいのか?」
椅子に座る男の向かい側に居る男は、持っていた携帯ゲーム機をその場に置いて言った。
「ああ。」
椅子に座っている男が微笑むと向かい側の男も微笑んだ。
「みんな、明日はハンターが一人居るらしい。」
ベランダで携帯電話をいじっていた最年長らしい男は振り向き言った。
「一人?」
「つまんな~い」
「なめられたもんだな…俺たちも。」
口々に不満を言う三人を見て男はニヤリと笑った。
「いや…こいつはきっと楽しくなる。」
男が持つ携帯電話の画面には銃を構える黒坂が映っていた。