第7話 祈祷
「黒ちゃん、体の具合はどう?」
病院の一室。部屋は白で統一され余計なものは何もない。そんな部屋のベットの上に黒坂はいた。
「美羽、頼みがある。」
真剣な表情の黒坂を見て美羽はやれやれといったしぐさをしながら口を開いた。
「黒ちゃんに用があるから来いって言われたときに気づいてたよ。祈祷して欲しいんでしょ?」
「ああ。」
「確かに、祈祷すれば黒ちゃんの怪我はすぐに治るけど…。」
「分かってる。寿命が縮むんだろ?」
「うん。」
美羽は俯いた。
祈祷はメナスにとっては有害なものであるが、人間にとっては違う。本来人間に備わっている生命エネルギーつまり、寿命を使う事により怪我を治したり人間の限界を超えた力を手に入れたりすることができる。
「医者によると完治には時間がかなり掛かるらしい。」
俯く美羽を横目で見ながら黒坂は言った。
「俺は長く生きたいわけじゃない。今を生きたいんだ。」
「分かった。」
美羽は顔を上げ
「準備するね。」
と言って病室から出て行った。
「黒ちゃん退院おめでとう~。」
BAR BUNKEのドアを開けるとマスターの声が店内に響いた。
「どうも。」
黒坂は短く返事をすると、カウンター席に座り緑茶をオーダーした。
「中島君が、黒ちゃんにあの時は何もできなくてごめんなさいって言ってたよ~。」
「別に。」
そう言うとマスターが持ってきた緑茶を一口飲んだ。
「お!!黒ちゃん。ちょうど用意できたとこだよ。」
そう言いながら小さなケースを持った美羽が店の奥から出てきた。
「ありがとう。」
と言いながらケースを受け取り中を開くと五発の弾丸が入っていた。
それを銃に装填しながら黒坂は口を開いた。
「そういえば、中島は?」
「いまさら? 中島君なら指令中~。」
とマスターは若干あきれながら言った。
いくら祈祷により怪我が完治すると言ってもある程度時間は掛かる。以前の任務からはもう2週間ほどがたっていた。もう中島は単独の任務を開始しているらしかった。
「そうか。」
短く答え席を立ちドアを半分ほど開けたところでマスターは黒坂に声を掛けた。
「黒ちゃん。組合にはもう少し待てって言ったんだけど…。明日たぶん黒ちゃんに任務が出る…。」
申し訳なさそうに言うマスターの顔を振り向いて見た後
「分かった。明日また来る。」
と言って黒坂はマスターに手を上げて合図しながら店を出た。