第42話 過去(27)-涙-
「どけぇえええええええええええ!!」
黒坂は、勢いよく地面を蹴ると
近藤との間に立ちふさがるメナス達を切り裂き進む。
しかし、首をはねたメナスも霧になって消えていった。
切り裂かれたメナスの一体が、
最後の力を振り絞り黒坂の足首を握る。
動きの止まった黒坂の目の前には別のメナスが近づいていた。
「邪魔だぁああああああああああああああああ!!」
黒坂は足首を握るメナスの頭に刀を突き刺すと、
そのまま右手を、メナスの爪に変え目の前のメナスの首をはねた。
「素晴らしい、素晴らしいよ黒坂君。」
近藤は怯える誄の肩に手をかけ誄にささやく
「もし、君が逃げようなどと企むのであれば、彼の命は保証できない。わかるね?」
誄には、何かに叫んで刀を振り回す黒坂しか見えない。
しかし、必死な黒坂の顔を見ると
恐怖のあまり、声が出ずなんとか首を縦に振った。
「それでは、そろそろ 絶望の始まりだ。」
パチン
近藤が指を鳴らすと、
メナス達は一斉に黒坂へと飛び掛かり、
切られながらも黒坂を地面に組み伏せ、右腕だけを外に出した状態で
全員で黒坂の上にのしかかった
「…っぐ!?」
圧迫感にむせるが、体は右腕を除き動かない。
「黒坂君。受け取ってくれたまえ。僕からの絶望だ。」
「止めろぉぉおおおおおおおおおおおおお!!」
黒坂は全力で這い出ようとするが、動かない。
全身はギシギシと音を立て、
ついには、ブチブチと嫌な音が響く。
しかし、一向に体は動く気配すらなかった。
近藤は誄に向き直るとその右爪をかざし
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
誄の腹部へと突き刺した。
「おい!! 信士!! 無事か!?」
慶斗は工場の奥へとたどり着くと目の前には、近藤と呼ばれるメナスの姿はなく
血だまりに横たわる一人の少女と
右腕を地面に突き刺し、体を引きずるようにして少女に近づく黒坂の姿があった。
「誄…るい…。」
やっとの思いで誄のそばに来ると右手で誄の手を握る
「くろ…さ…か…くん。」
誄の唇は微かに動く
「な…か…い…で…。わ…って…わ…し…は…あ…たが、あな…の…え…おが…き…だか…ら…。」
「るい?…るい? 聞こえないよ…。」
「…………。」
誄の唇は、再び微かに動いたが声を発することはなく
動かなくなった。
「誄…るい………。」
黒坂の頬を伝い、
血だまりに落ちた涙は滲んで消えた。