第35話 過去(20)-戦闘(2)-
「くっ……。」
黒坂は深く抉られた右肩を左手で抑えながら前を見据えた。
男は、煙草を地面に落とすと踏みつけ火を消した。
「予想以上の力だな。」
男は、黒坂の方へと静かに歩み寄る。
黒坂は刀を構えた。
「君はなぜ人間の味方をする?」
男は歩みを止め黒坂に問いかけた。
「ベースは人間だとしても君には私たちの血が確実に流れている。」
「……人間だ…。」
「何か言ったかい?」
「俺は、人間だ!!」
黒坂はそう叫ぶと地面を蹴り男との距離を詰める
「そうか…では、残念だ。」
黒坂は力を振り絞り斬撃を繰り出す。
男は難なくそれをかわすと黒坂の頭上へと爪を振り下ろす。
間一髪のところで黒坂はそれを避け後ろへと飛び退く。
「そろそろ限界だろう?」
男はそう言うとにやりと笑った。
「……。」
黒坂は男を睨みつける。
「二人と戦い、肩に深い傷。睨みつけるだけで精いっぱいか。」
男は続ける。
「さらばだ、同胞の血を持つ者。」
男は爪を振りかぶる。
「やめて!!」
不意に聞こえたその声に男は動作を止め声の方を向いた。
「もうやめて…。」
そこには恐怖に顔を強張らせた誄が居た。
「ようやく出てきてくれたみたいですね。」
男は誄へと歩みを進める。
「誄…逃げて…。」
黒坂は声を絞り出す。
「黒坂君を傷つけるのは止めて…。」
「約束しよう。君が私と一緒に来るなら。」
男がそう言うと誄は黙ってうなずいた。
「ダメだ…誄…。」
黒坂は必死で体を動かそうとするが体は言うことを聞かなかった。
男は携帯電話を取出し、
「近藤。任務は完了した。予定通り例の場所で集合だ。」
そう言うと携帯電話をしまった。
「黒坂君…ありがとう…。」
誄は黒坂に必死に笑顔を作るとそう言って男と共に去って行った。
「誄…る…い…。」
黒坂の意識もそこで途絶えた。