第33話 過去(18)-開戦ー
「すっかり遅くなっちゃったね。」
太陽は沈み夜が街を包み始めるころ黒坂は誄に言った。
「今日はありがとう。すごく楽しかったよ。」
誄は笑顔で黒坂に応えた。
「家まで送っていくよ。」
「うん。」
黒坂は誄の手を引き歩き出す。
「こんばんは。黒坂君。」
背後から聞こえた聞き覚えのある声に黒坂は振り向く
しかし、そこには誰も居なかった。
「こっちだよ、こっち。」
再び聞こえた声に驚き前に向き直ると
「約束通り、貰いに来たよ。お姫様をね。」
そこにはにやりと笑みを浮かべる近藤が立っていた。
「誄。こっち!!」
黒坂は誄の手を引き近藤とは逆方向へ走り出す。
「おいおい。追いかけっこかい?」
近藤は再びにやりと笑った。
「幻覚というか別の空間というかとにかくそんなことができるメナスはいるのか?」
車のハンドルを握りながら慶斗は助手席に座る桜に尋ねた。
「う~ん。そんな奴聞いたこともないけど…。それがどうかしたの?」
「黒坂の奴が言っていた。桜でも知らないのか…。」
「でも…。」
少し悩むようにして桜は呟く。
「でも?」
「もし、そんな奴がいたとして厄介じゃない?さっき言ってた能力みたいな物もそうだけど強そうっていうか…。」
「ああ。念のために組合に連絡して、黒坂の近くにハンターを配置させといた。」
「そう。あなたはいいの?大事な弟子でしょ?」
「こっちも仕事だ。」
「カタブツ。」
「うるさい。」
慶斗はハンドルを切る。
「余計な心配ならいいんだが…。」
「ん?何か言った?」
桜は慶斗を見て言った。
「いや、なんでもない。」
二人の乗る車は、夜の街を走って行った。
「黒坂君…?さっきの人知り合い?」
先ほどとは少し離れた路地に二人は居た。
「奴は君を狙ってる…。」
「え?急にどうしたの…?でも、なんで?」
誄は心配そうに黒坂を見た。
「後できちんと説明するから。今は僕を信じてほしい。」
誄をまっすぐと見据えて黒坂は言った。
「分かった。」
誄は力強く頷く
「み~つけた。」
不意に聞こえた近藤の声に黒坂は振り向く
「お姫様を渡してくれないかい?家族を殺したくはないんだよ。」
「くそ…。」
黒坂は呟くと肩に掛けていた袋を両手で握る。
「メナスさんよぉ!!」
突然の大声に近藤は振り向く
そこには二人の人物が立っていた。
一人は大柄な男性でその身長と同じくらいの大きな刀を背負ったもの。
もう一人は小柄な女性でダガーのような刀をすでに構えていた。
「邪魔しないで頂きたい。」
近藤は二人の人物にめんどくさそうに話す。
「つれねぇな。楽しくやろうぜ。」
大柄な男性は笑いながら言う。それに続いて
「メナス…殺す…。」
小柄な女性もつぶやく。
「そういうわけだ。話は聞いてるぜ。さっさと対象連れて行きな!!」
大柄な男性の声を聞き、二人がハンターだと理解した黒坂は
「行こう!!」
誄を連れてその場から去った。
「仕方ないですね。」
近藤がそう言うと
キイィイイイイイイイン
鋭い音が静かな路地を包み込んだ。
「はぁ…はぁ…。」
二人は息を切らしながら走る。
しかし、その足は止まった。
「その娘をこちらに渡してもらおう。」
二人の前には同じく二人の男性。
振り向くとそこには一人の女性が立っていた。
「一人のはずないか…。」
黒坂は袋を握りしめる。
道を塞ぐ者たちの手は月の光を受け漆黒に輝いていた。