第32話 過去(17)-休日-
「定期連絡は忘れるなと言ったよな!?」
携帯のスピーカーからは慶斗の怒鳴り声が響いていた。
「すいません。ちょっと立て込んでて。」
バツが悪そうな顔をしながら黒坂は答えた。
「で?今どこにいる?」
「映画館です…。」
「映画館? 誰と?」
「え?…その…誄と…。」
黒坂がそうつぶやくと間髪いれずに再び慶斗の怒鳴り声が響いた。
「はぁ…。対象とのコミュニケーションは必要だ。だがな、映画館?狙ってくださいと言ってるようなもんだろうが!!」
「大丈夫です!!彼女は何が何でも俺が守ります!!」
「黒坂君?映画始まるよ?」
二人分の映画のチケットを持った誄が携帯で話す黒坂に静かに話しかけた。
「師匠、すいません。もう切ります。任務はきちんとやりますから。」
そう言うと黒坂は一方的に電話を切った。
「おい!!黒坂!話はまだ…。」
「なにかあったの?」
慌てて電話を切った黒坂を心配するように誄は話しかけた。
「大丈夫。それより急ごう?」
黒坂はそう答えると彼女の手を引き歩き出した。
「あの…ばかやろう…。」
車の中で慶斗はハンドルを軽くたたいた。
「どうかした?」
助手席に座る桜は慶斗に尋ねた。
「バカな弟子のことでな。」
「黒坂君がどうかしたの?」
「保護対象と映画館でデートだとよ。」
「へ~ いいじゃない。」
クスクスと笑いながら桜は言った。
「良くない。」
「相変わらずカタブツね?」
「その言い方はやめてくれ。仲良くなることは悪くない。だが、仲良くなりすぎるのはな…。」
慶斗の顔が曇る。
「まだ、気にしてるの?あの事。」
心配そうに尋ねる桜に慶斗は静かに答えた。
「大丈夫だ。それより、今回の仕事は?」
「そう、ならいいの。けど、そんなに仕事ばかりだと女の子に嫌われるわよ?」
皮肉を込め微笑みながら桜は言った。
「そりゃ どうも。」
慶斗は軽く笑みを浮かべ車を走らせた。
「近藤。我々の準備はできた。」
一人の男が、暗い部屋に入り、椅子に座る男性に声をかけた。
「ああ。私もだ。」
そう言うと椅子に座っていた近藤は腰を上げにやりと笑う。
「では、行こうか。楽しませてくれよ?黒坂君。」