第3話 「メナス(menace)」と「銃」
「組合」によって「メナス(menace)」と呼ばれるようになった人外生物は50年ほど前から確認されるようになった。メナスが脅威として認定されるようになったのは、人間の血を飲むという行動があるからだった。人間の血を飲むといっても、メナスの生命維持に不可欠なものではなかった。つまり、人間の血を飲まなくても生きられるのに、人間を殺しその血を飲むということである。「組合」の研究チームによるとメナスは人間の血を飲むと一定時間麻薬と同じ効果が現れることを発見した。しかし、麻薬と違い依存性は確認されなかった。このことから、メナスは自らの欲望のため自らの意思により人間の血を飲むことが確認された。メナスは普段人間と区別がつかない。しかし、メナスの意思により手首から先を漆黒であり頑丈な皮膚に変えることができ、その爪は鋭利な刃物のようになる。ハンターは指令を受けた後メナスを殲滅もしくは確保することになるが、通常の武器ではメナスには傷一つつけられない。そのためメナスに関わる部署のハンターは特殊な「祈祷」を施された武器を扱う。祈祷は「巫女」と呼ばれる選ばれた人間により行われるが、高度な技術が必要なため祈祷が施された武器は日本刀のような形の「刀」のみである。メナスの活動を停止させるには、人間で言う脳の部分の活動を停止させればよい。つまり、メナスを殲滅させるには「祈祷」が施された「刀」でメナスの脳を貫く必要がある。
「ふ~。 説明はこんなとこかな~。」
伸びをしながらマスターは言った。
「あれ?」
説明を聞いた、中島は一つの疑問を持った。
「マスターさん。 黒坂君はメナス部署のハンターなのになんで『銃』なんですか?」
中島からの疑問を聞くとマスターは頷きながら、黒坂に向かい
「黒ちゃん、「銃」貸して。」
といいながら両手を突き出した。
「……。」
黒坂は何も言わず、ホルスターから「銃」を抜きマスターに渡した。
「本来、対メナス用の武器に銃は有り得ない。でもここに存在する。そもそもなんで銃がだめかというと、刀と違って銃は直接相手を攻撃するのは「弾丸」なんだ。だから祈祷は弾丸一発一発にしなくちゃならない。でも、祈祷は高度な技術だから小さな弾丸一発一発に祈祷を施すなんて無理。 だと思われてた。 だがしかし、ここに居る美羽ちゃんがそれを可能にしたんだよ!!」
マスターは少し興奮気味に一気にしゃべると美羽を紹介するように手を添えた。
「荒城美羽です。 「巫女」です。 よろしくね。」
少し照れたように美羽は中島に自己紹介をした。
「美羽さんてすごいんですね!! じゃぁ僕も銃使えるんですか!?」
マスターにつられ興奮している中島はマスターに詰め寄った。
「残念ながら、それが無理なんですよ~。」
「なんでですか?」
「やっぱり、こんな小さな弾丸に大きな力である祈祷を施すと威力が大きくなりすぎて銃身がもたないんだよ。」
そう言うとマスターは「銃」をくるくると回しながら黒坂に返した。
「いまだに分かんないんだよね~。その銃。黒ちゃんは何にも教えてくれないし。」
「話す必要ないだろ。美羽弾丸よろしく。」
銃をホルスターにしまい、黒坂は残りの緑茶を飲み干し店を出て行った。
「つれないな~黒ちゃん。 まぁそんなわけだから中島君は刀だよ~。」
「わかりました。」
「刀は全部オーダーメイドだから好きな長さとか重さとか教えて。」
「はい!!」
店には大きな声が響き渡った。
大通りを歩きながら黒坂は昔を思い出した。
辺りは血の海。そこに横たわる一人の少女と「刀」を持った今よりも少し幼い自分。
自分は少女のそばで泣き叫ぶ
「守れなかった!! おれが…まもるって…いったのに!! あああああ!!」
やがて涙は枯れ沈黙が支配し始めたころ、自分の後ろに一人の男が立っていた。
「それじゃあ 多くのものは守れない。 これを使え。」
刀を指差しながら言うと、懐から銃を取り出し黒坂に渡した。
「これを使えば…もう…失わなくていいの?」
枯れたはずの涙はまた頬を伝い地面に落ちた。
「それは…、お前次第だ。」
そう言うと男は黒坂に背を向け去っていった。
そこで黒坂は記憶の再生を止めホルスターにしまってある銃に手を触れた。