第29話 過去(14)-一閃-
「ふぅ…。」
黒坂は短く息を吐き目を閉じる。
「ひゃああああはああああああ!!」
正義は狂ったような叫び声をあげながら黒坂のもとへと走り出す。
「黒坂、お前の力はメナスのものよりも強い。だが、一部しか変化させられないところが弱点でもある。」
任務に着く前、修行のときに慶斗に言われたことを思い出していた。
「一撃だ。一撃で決めろ。自分の力を変化させた箇所一点に集めろ。」
「一点に…集める…。」
黒坂は呟くと右手を刀のように指を伸ばし居合い切りの構えのように腰の左側に構える。
手首を軽く左手で覆い力を込める。
右手はゆっくりとその色を漆黒へと変えた。
「一撃で…決める…。」
黒坂は呟くと目蓋を開けた。
「しねええええええええええええ!!」
黒坂は爪を構え飛び掛る正義に目を向けると
右手を一気に振り居合い切りの要領で一閃を放った。
「ぎゃあああああああああああ!!」
直後正義の悲鳴が響き渡る。
地面に正義の両手が落ち灰と化した。
「終わりだああああああああああああ!!」
黒坂は叫びながら一気に距離を詰め正義の首をはねた。
正義の体は炎を上げることなく灰と化した。
「はあはあはあはあ。」
黒坂は肩で息をしながら自分の刀を拾い上げ、手の変化を解除した。
「黒坂…。」
拓馬は黒坂の前に立ち、言った。
「俺は覚悟できてる。」
「何の?」
黒坂は肩で息をしたまま、尋ねた。
「お前に殺される覚悟だ。飲んでないとは言え、俺は吸血行動を…」
「最後まで…最後まで守りきれよ、拓馬。」
そう言うと黒坂は拓馬をその場に残し去っていった。
「黒坂…ありがとう。」
黒坂の後姿を見て拓馬は呟く。
「黒坂君、大丈夫なの?」
恭子は心配そうな顔をしたまま拓馬のもとへと駆け寄ってきた。
「ああ。」
拓馬が呟くと
「じゃあ先生は?今のはなに?拓ちゃんや黒坂君の手は?」
「明日、ちゃんと説明するから。今日はもう帰ろう?送っていくよ。」
「うん…。」
二人は公園を後にした。
静かな夜にさわやかな風が吹き積もっていた灰はキラキラと月明かりを反射しながら、舞っていった。