第26話 過去(11)-守る-
「拓馬…。お前メナスなのか?」
校舎の片隅、誰も居ないことを確認して呼び出した拓馬に黒坂は話しかけた。
「な!?」
拓馬は目を見開き黒坂を見た。
「僕は、ハンターだ…。拓馬の吸血行動が確認されたらしい。だから…」
「俺は!あいつの血なんて飲んでない!!」
「じゃあなんで彼女の血を抜くんだ?今日だって、貧血で倒れたらしい。」
黒坂がそう言うと拓馬は目を伏せ黙った。
「本当のことを教えてくれ。拓馬が彼女を傷つけるなんて…。」
「俺は…落ちこぼれなんだ。」
拓馬は顔を上げ話し始める
「生まれたころから、手しか変化させられなかった。そのせいでずっと迫害されてきた。親に捨てられ、絶望の中に居たとき助けてくれた人が居た。」
「助けてくれた人?」
「ああ。木下正義だ。」
「木下…木下って担任の?」
黒坂の問いに拓馬は頷き、また話し始めた。
「やさしい人だった。でも、二年前から急に人間の血に執着を持ち始めて…。俺に獲って来いって…。今では、別人みたいだ。」
「そっか…。じゃあ拓馬は飲んでないんだよね?」
「本当は、もう彼女を傷つけたくない。でも、俺なんか落ちこぼれだし敵うわけないし…。言うこと聞かないと…。」
「分かった。」
黒坂はそう言うと拓馬をその場に残し歩き出した。
「拓ちゃん!一緒に帰ろ~。」
拓馬が教室に戻るとそこには恭子がいた。
「もう…大丈夫なのか?」
「うん!」
拓馬は恭子と一緒に校舎を出る。
時間は遅く、学校にはもう誰も残っていないようだった。
「よお、拓馬。」
校門から出ようとしたとき、拓馬を呼ぶ声がした。
振り返ると、そこには正義が立っていた。
「先生。どうかしたんですか?」
拓馬は恭子と正義の間に立ち身構えながら言った。
「お前がぐずぐずしてるから、俺が自分の手でもらおうと思ってな。」
「恭子、逃げろ。」
拓馬は恭子に話しかける。
「え?なんで?」
「いいから!早く!」
必死の拓馬の呼びかけにも、恭子は訳が分からず応じなかった。
「お前、俺に逆らうのか?」
正義はにやりと笑いながら二人に近づく、その手はメナスのものへと変化していた。
「なにあれ…?」
恭子は正義の手を見て呟く
「大丈夫。絶対守る、恭子だけは。」
自分に言い聞かせるようにそう言うと、拓馬は正義の方を見た。
「待てよ。」
その場にいる三人とは別の声が響く。
その声に反応した三人は校舎の方を見た。
「拓馬、早く連れて逃げろ。」
そこには片手に刀を持つ黒坂の姿があった。
「でも…。」
「いいから!!早く!」
黒坂の声に頷き、拓馬は恭子を連れ逃げていった。
「黒坂、どういうつもりだ?」
正義はゆっくりと振り向き黒坂のほうを見た。
「ハンターだ。お前を殲滅する。」
黒坂はそう言うと、鞘から刀を抜き正義に構えた。