第25話 過去(10)-秘密-
「どうだ、何か動きはあったか?」
校舎の片隅には携帯電話を持つ黒坂が居た。
「特に何もありません。初日に現れたメナス以外は、まだ。」
「そうか、何もないに越したことはない。報告は怠るなよ?」
「はい、師匠。」
黒坂がそう言うと、電話は切れた。
「このまま…何もなければいいのに…。」
黒坂は携帯電話をしまい校舎へと歩き出した。
「黒坂!」
教室に着くと大声で黒坂を呼ぶ人物が居た。
「拓馬、どうかした?」
窓際に座る拓馬のほうを見ながら黒坂は近づいた。
「紹介するぜ、俺の彼女。」
そう言いながら、横に座る女子生徒の方を見た。
「こんにちは、梅崎恭子です。よろしくね。」
肩ほどまでの茶髪の髪の毛は笑顔と共にフワリと揺れた。
「よろしく。黒坂信二です。」
黒坂も挨拶を済ませると
「かわいいだろ?」
拓馬は黒坂に近づきにやりと笑った。
「…そうだな…。」
拓馬の威圧に戸惑いながら、黒坂は答えた。
「まぁ、お前は委員長一筋だもんな。」
そう言いながら、拓馬は黒坂の肩を思い切り叩く
「なんでそうなるんだよ…お前は…。」
黒坂は肩を摩りながら言った。
「まぁ分かるぜ。なんか惹かれるもんな。言いにくいけど、魅力的っていうか。」
「ちょっと、拓ちゃん!どういうこと!?」
恭子はそう呟いた拓馬に詰め寄っていた。
「落ち着けよ…。お前が一番…だぜ?」
おそらく決め顔であろう横顔と共に拓馬は言った。
「…。」
黒坂は何も言わずその場を離れる。
教室から出る直前、黒坂は呟いた。
「…拓ちゃんって…。」
太陽は傾き街は夕焼けに染まる頃、街の片隅に拓馬は居た。
「よお、拓馬。今日の分は?」
向かい側には一人の男が立っていた。
「もう、止めてください。彼女は大切な人なんです。」
「ああ!?てめぇ誰のおかげで、そこまで育ったと思ってんだ?」
男はそう叫ぶと右手でこぶしを作り拓馬の横顔を殴った。
拓馬の体は後方へと吹っ飛ぶ
「おしおきが必要だな、お前は見つからないように俺にてめぇの彼女の血を持ってくればいいんだよ。」
そう言いながら近づく男の両手はメナスのものへと変化していた。
「メナスのくせに、両手を変化させるだけで精一杯の拓ちゃんよお!!」
「どうしたの!?拓ちゃん!」
翌朝、登校してきた拓馬の顔は傷だらけだった。
「どうかしたのか!?」
黒坂と恭子は拓馬のもとに駆け寄る。
「いや~派手に転んじまった!」
心配する二人をよそに拓馬は笑みを浮かべる。
「も~気をつけてよ?」
「おう。」
そう言うと拓馬と恭子は教室の奥へと進んで行った。
「あいつらしいな…。」
黒坂は呟き、二人の方を見た後歩き出した。
すると携帯電話が振るえ着信を知らせる。
黒坂は、校舎の隅へと移動し電話に出た。
「黒坂、お前のクラスに横山拓馬という人物は居るか?」
聞こえてきた声は慶斗のものだった。
「はい。居ます、それがどうかしましたか?」
「そいつはメナスだ。殲滅しろ。」
「なに言ってるんですか…?」
「殲滅しろと言っている。」
黒坂は混乱し携帯電話を持つ手が震え始めた。
「あいつが…メナス?殲滅って事は、あいつが吸血行動を?」
「確認された。そいつは、自分の恋人が寝ているうちに血を抜き出している。」
「そんな…。」
「吸血行動の確認されたメナスは殲滅対象だ。速やかに殲滅しろ。いいな?」
そう言うと電話は切れた。
黒坂はやっとの思いで教室へと戻る。すると
「恭子ちゃん!!」
クラスの女子生徒が叫ぶ。
黒坂はその声に反応し顔をあげると、そこには倒れた恭子の姿があった。