第24話 過去(9)-恐怖-
「そんな事急に言われても…訳分かんないよ…。」
病院の一室、検査入院という名目で誄はベッドの上に居た。
「その気持ちは分かるよ…。」
誄への説明は一通り終わり、黒坂は呟いた。
自分の存在、メナスの存在を教えられた過去を振り返りながら。
「莉子は大丈夫なんだよね?」
心配そうな顔のまま誄は問いかけた。
「うん。すぐに退院できるよ。」
黒坂は微笑みながら言った。
「これからも…襲われ続けるんだ…。いっそ前みたいに記憶消してもらった方がいいのに…。」
誄は呟いた。それと同時に涙が頬を伝う。
「…。」
黒坂はなにも答えられなかった。
「怖い…。」
そう言うと誄はついに泣き出した。
黒坂はただ黙ってそこに居た。
「ごめんね。」
しばらくすると泣き止んだ誄は黒坂に話しかけた。
「転入生なんだよね?黒坂君。」
「うん。明日から僕も同じ学校に。」
「じゃあ、よろしくね。明日は学校案内してあげる。」
そう言って笑顔を作る誄を見て、誄に分からないように黒坂はこぶしを握り締めた。
その笑顔には、悲しみしか写っていなかったから。
「転入生を紹介するぞ~。」
間延びした声で無精ひげを生やした男性教師は教室に入ってきた。
「黒坂信二です。よろしくお願いします。」
「俺は、ここの担任の木下正義だ。そうだな、席は…窓際の一番後ろだな。」
そう言うと正義はあいている席を指した。
「はい。」
黒坂はそう言うと割り当てられた席に向かい座った。
「よ!黒坂だったな。よろしく。」
横の席に座っている茶髪の少年が話しかけてきた。
「こちらこそ。えっと…。」
「ああ。拓馬だ。横山拓馬。」
そう言うと拓馬は笑った。
「じゃあ授業入るぞ~。」
正義はそう言うと授業へと入っていった。
「よ~し、昼休みな~。」
正義がチョークを置くと生徒達は立ち上がり、それぞれの行動をし始めた。
「誄。案内してやってくれ~。」
正義に言われた誄は席を立つと黒坂の下へと歩いていった。
「黒坂君。山神誄です。学級委員長をしています。よろしくね。」
「うん。よろしく。」
「じゃあ行こうか。」
黒坂は立ち上がり誄と共に歩き出す。
「ここが、体育館で……ここが、図書室で……。」
一通り案内が終わると
「私、怖いの。メナスっていうのは人間と区別できないんでしょ?だから…みんな怖くて…。」
誄は俯いたまま話し出した。
黒坂は周りに人が居ないのを確認すると
「分かるよ。僕だってすごく怖いんだ。でも、僕は君の味方だよ。」
黒坂の言葉に誄は顔をあげる。
「言ったでしょ?君は僕が守るって。」
そう言って微笑むと
「うん。分かった。」
誄も笑顔になった。
「るい~!!」
遠くから誄を呼ぶ声がする。二人が振り返るとそこには莉子が居た。
「誄!!今日は英語!早く~。」
そう言って誄の肩を掴む。
「あ!転入生の…。」
黒坂の存在に気づいた莉子は黒坂に話しかけた。
「黒坂信二です。よろしく。」
「あたしは、桜井莉子よろしく!もしかしてなんか用事ある?」
「今学校の中案内してもらってたとこ。でももう終わったよ。」
「いいタイミングじゃん!じゃあ誄は借りてくからね!」
そう言うと莉子は誄の肩を掴んだまま走っていった。