第23話 過去(8)-護衛-
「美味そうだ…。」
誄の腕を掴んだ教師は舌なめずりをして左手を振り上げる。
「やめろ!」
莉子はそう叫ぶと持っていた鞄で教師を殴った。
「君に用はないと言ったはずだが。」
莉子の攻撃を意にも介さずそう言うと教師は莉子を思い切り蹴り飛ばした。
ドン
鈍い音と共にその体は吹っ飛び壁に当たり突っ伏した。
「莉子ちゃん!!」
誄は必死に莉子に呼びかける。しかし、莉子からの返事はなかった。
「それでは、いただきます。」
そう言うと視線を誄に戻し左手を構える。
「いやああああああ」
誰も居ない校舎に悲鳴が響き渡る。
突然 ドアが開き一人の少年が教室に入ってきた。
「君は誰だ?」
教師は左手をを降ろしその少年を見た。
その声に目を瞑っていた誄は目を開き教師の先に居る少年を見た。
その目からは涙が溢れていた。
「山神誄さん、ですよね?」
少年は誄に微笑みかけた。
「…。」
なぜ自分のことを知っているのか、一体誰なのか、今この状況はなんなのか
様々な疑問が誄を混乱させていたが、無言で何度も頷いた。
「誰だと聞いている!!」
痺れを切らした教師は叫んだ。
「僕?僕は…ハンターだ!!」
少年…黒坂はそう叫ぶと鞘から刀を抜いた。月の光に照らされ、刀身は輝く。
「ハンター…。そうか。だが、邪魔しないでくれるかなあ!!」
そう叫ぶと教師は掴んでいた自分の右手を誄から離し両手をメナスのものに変え、黒坂のもとに飛び掛る。
しかし、そこには黒坂の姿はなかった。
「ふう…。大丈夫、気を失ってるだけみたい。」
黒坂は莉子の生存を確認し、誄に話しかけた。
「…よかった…。」
誄は何とか声を出した。
「少しの間、目を瞑ってて。」
誄にそう言うと、黒坂は立ち上がり教師の方を見た。
「お前、人間じゃないな?」
教師は黒坂の方を見つめ言った。
「メナス。お前を殲滅する!!」
そう言うと一気に教師との距離を詰める。
その速さに焦り、教師は慌てて右手で黒坂を切り裂こうとした。
刀を斜めにしてその攻撃を受け流し、懐に柄の部分で打撃を加えたじろいだ隙に右手を切り落とした。
「ああああああああああ!!」
叫び声と共に切り落とされた腕は緑色の炎に包まれ灰と化した。
目を瞑っていた誄はその声に驚き耳を押さえながら身を震わせていた。
「くそがあああああああ!!」
教師はそう叫ぶと近くにあった机を持ち誄に向かって投げた。
ガアアン
机は真っ二つに割れそれぞれは教室の壁に当たった。
誄の前には刀を構えた黒坂が居た。
「化け物がああああああ!!」
教師は形振り構わず黒さかに突っ込む。
黒坂も刀を構え迎え撃つ。
二人がすれ違った直後、教師の全身は緑色の炎に包まれ灰と化した。
黒坂は刀を納め誄のもとに行った。
「もういいよ。」
そう言うと誄は恐る恐る目を開いた。
「大丈夫。君は、僕が守るから。」