第22話 過去(7)-極秘任務-
何もないただ広く暗い空間に黒坂は立っていた。
「ごくろう。」
部屋の隅につけられたスピーカーから携帯電話で聞いた声が響いた。
黒坂は突然聞こえた声に無意識に身構えた。
「そう身構えるな、君に極秘で任務を頼みたい。」
「極秘…任務。」
「そうだ、後ろを見てみろ。」
その声に振り向くと、そこにはいつの間にか机が置いてあった。
「そのファイルに詳細は書いてあるが、一応説明しておく。」
黒坂が机の上のファイルを取ると、説明が始まった。
「任務の内容は、そこに居る少女の護衛だ。」
「護衛…。それだけですか?」
「ああ。だが、その少女の体には王家の血が流れている可能性がある。」
「王家の血!?」
「そうだ、その少女は二年前からメナスに襲われる機会が異常に高くなっていた。そのたびに記憶の処理はしてきたのだが、そろそろ限界だろう。王家の血を持つ者にはメナスの情報の公開が認められている。その上でお前に護衛してもらいたい。」
その言葉を聞くと黒坂はファイルの写真に目を落とす。そこには満面の笑みを浮かべる眼鏡を掛けた少女が写っていた。
「期間はどのくらいなんですか?」
ファイルから顔をあげ、声が聞こえた方に質問を投げかけた。
「それは分からない。王家の血は、突然対象者の体から消えることがある。それが明日なのか五年後なのか、一生消えないのかそれ次第だ。」
「分かりました。」
黒坂が答えると黒坂の背後で扉が開き光が部屋の中に差し込んだ。
「では、今から任務開始だ。よくファイルを確認してくれ。くれぐれも他言のないように。」
そう言うとそれからは何も聞こえなくなり、黒坂は部屋を出た。
組合から出た黒坂は帰路の途中でファイルを確認した。
「山神誄…か。」
「るい~!」
丘の上に立てられた校舎の一角で淡い栗色のショートカットの少女が叫んだ。
「どうしたの?」
るいと呼ばれた黒髪で長い髪を持つ少女は振り向き、駆け寄ってきた少女に声を掛けた。
「来週から、テストでしょ?お願い!教えて。」
少女は顔の前で両手を合わせた。
「莉子ちゃんまた?も~しょうがないな~。」
誄はやれやれといった様にため息をついた。
「ありがとう!じゃあ早くいこ!」
そう言うと莉子と呼ばれた少女は誄の手をとり、校舎へとかけていった。
「そうそう、そこで移項して…。」
次第に夕日が落ち、闇に包まれ始めた教室の中で二人は向かい合わせに座っていた。
「あとは、整理して解くだけ?」
「そうだよ!」
「終わった~!」
莉子は両手を挙げ伸びの格好をした。
「お疲れ様!」
向かい側に座る誄は莉子に微笑む。
「数学終わったから、明日は英語おねがいね?」
莉子は上目遣いで誄を見た。
「分かったよ。もう遅いし帰ろ?」
鞄を肩に書け誄は莉子を見た。
その時、不意に教室のドアが開き一人の男性が入ってきた。
「もう下校時間だぞ。」
「すいません、すぐ帰ります。」
二人は席を立ち帰ろうとすると
「君は残りなさい。」
男性教師は右手で誄の手を掴んだ。
とっさに振り向いた誄は男性教師の左手を見た。
「きゃああ」
短い悲鳴が響き渡る。左手はメナスのものへと変化していた。