第21話 過去(6)
「黒坂。自分の能力は分かってるな?」
「はい。」
両者は爪を構えたまま口を開いた。
「お前は体の一部をメナスのものへと変化させられる。今は、右手を変えている状態だな?」
そう言うと慶斗は黒坂の手を指差した。
「はい。そうです。」
黒坂が頷いた直後、慶斗は目の前から消えた。
キィイイイイイン
鋭い音が響きわたる。
振り向いた黒坂の右手の手のひらには慶斗の右手の爪が当たっていた。
「いい反応だ。次、行くぞ。」
慶斗はそのままの状態で左手で突きの攻撃を与えた。
黒坂は右手を払い左手をメナスのものへと変え突きの攻撃を弾き慶斗のわき腹に右手で打撃を与えた。
「お前は甘すぎる。」
右手の前にはわき腹ではなく慶斗の右手があった。
「なぜ右手を変えなかった?」
そう言うと黒坂の腹に蹴りの一撃を与えた。
ドン
鈍い音と共に黒坂の体は吹っ飛んだ。
「お前は、体の一部しか変えられないが、力自体はメナスよりも数倍強い。まったく、師匠に手加減する弟子がどこに居る。」
慶斗は黒坂が吹っ飛んでいった方に目を向けると、そこには黒坂が立っていた。
「腹を変化させたのか。いい考えだ。」
そう言うと慶斗は黒坂に爪を構えた。
「加減はいらない。」
「はい!!」
黒坂は自分の右足をメナスのものへと変化させ、地面を蹴り人間のものでは有り得ない速度で慶斗へと接近した。
右手をメナスのものに変え慶斗に突きの攻撃を仕掛ける。
慶斗は体をずらしそれを避け、右手で黒坂に攻撃を仕掛けた。
キィイイイイイイン
黒坂は左手をメナスのものに変え、防いだ。
黒坂は慶斗の手を弾き慶斗の懐に飛び込み右手で攻撃を与えた。
慶斗はそれを左手で防ぐ、しかし慶斗の予想に反し黒坂の右手は人間のものだった。
黒坂は右足をメナスのものに変え地面を蹴り慶斗の背後に回り、右手をメナスのものに変え切り裂くように振り下ろした。
慶斗はそれに反応し、振り向き右手で防ぐ
キィイイイイイン
鋭い音が響き渡り慶斗と黒坂は互いに距離をとるため後ろに飛びのいた。
「十分だな。」
そう言うと慶斗は黒坂の方に右手を出した。
そこからは血が滴り落ちていた。
「体の部分変化のスピードも戦闘の仕方も問題ない。」
そう言うと慶斗は両手の変化を解いた。
「師匠、血が…。」
黒坂も変化を解き慶斗のもとに駆け寄った。
「こんなもん問題ない。それに俺はメナスと人間のハーフ、お前は一部分とは言えメナスの何倍もの力を持っている。正面で防げるわけがないだろ?」
そう言うと慶斗は手をひらひらとさせながら部屋から出て行った。
それを見送ると携帯電話が着信を知らせた。
「黒坂信二だな。至急組合に来い。」
老人のような声が聞こえ、それだけ言うと電話は切れた。