第20話 過去(5)
「あんたらは王家の血を受け継いでいる人間を把握しているんじゃないのか!?」
何もないただ広い空間に師匠の声が響いた。
「すべては不可能だ。メナスに襲われやすいという手がかりしかないのでな。」
部屋の角に取り付けてあるスピーカーからしわがれた老人のような声が響いた。
「言ってることが違うじゃねぇか!!」
声のする方向に師匠は叫んだ。
「おやおや、立場をわきまえたまえ。君の秘密を公表してもいいのだよ?清水慶斗君?」
「…。」
師匠…清水慶斗は舌打ちをするとその場を後にした。
「慶斗。弾丸準備できたよ。」
部屋を出ると長い廊下に一人の女性が立っていた。
「桜…。ありがとう。」
慶斗はケースを受け取り、共に歩き出した。
「お前の妹、祈祷始めたんだって?」
「美羽のこと?まあ始めたばっかりだから、まだ使い物にならないわよ?」
「結局お前の家は、全員祈祷師なんだな。」
「まあね。向いてるのよ、たぶん。」
二人は会話を交わしながら、組合を後にした。
車に乗り込む瞬間組合を振り返り慶斗は呟いた。
「黒坂も巻き込まれるだろうな…。」
「どうかした?」
車の中から桜が覗き込む。
「ん?なんでもない。」
そう言うと車に乗り込み車は走り出した。
「この少年は?」
「例の実験の成功例です。」
「あの任務を任せてみては?」
組合のビルの地下、会議室のようなところに三人の老人が居た。
「まだ、早すぎるのではないですかね?」
「その通り、慶斗にやらせればいいのではないですか?」
髭の長い白髪の老人と眼鏡をかけた老人が言った。
「いやいや、この少年は慶斗よりも強い力を持っているはずでは?」
さきほどスピーカーから聞こえてきた声と同じ声が響く
その声の主はまだあどけなさの残る少年の体をしていた。
「総帥、そうは言いましてもまだ力は出し切れていないという報告もあがってきていますが…。」
眼鏡を掛けた老人は少年の方を向きながら言った。
「なら慶斗に早急に仕上げろと言え。あの任務は彼で行く。」
「はい…。」
総帥と呼ばれた少年に二人は頭を下げ会議室のような場所を後にした。
「おもしろそうな奴だな…。」
そう言いながら総帥はスクリーンに映る黒坂を見てにやりと笑い机にファイルを置いて部屋を後にした。
ファイルには一人の少女の写真と数枚の書類があった。
「こうなっちまったら、仕方ない。」
巨大な体育館のフロアのような場所に慶斗と黒坂は立っていた。
「師匠…。俺にそんな任務できるんでしょうか…。」
「理論上は俺よりもお前の方が力は上だ。引き出せるだけ引き出してみるさ。心配すんな。」
「はい。」
そう言うと慶斗と黒坂は少し距離をとった。
「はじめるぞ。」
慶斗の合図と共に慶斗は両手を黒坂は右手をメナスのものへと変化させた。