第2話 理由
暗さを忘れた大通りの一角。
黒いコートを着た男はその店の扉を開いた。「BAR BUNKE」
そう表示された店に入ると淡い光に照らされ男の素顔が明らかになった。
黒髪に黒いコート、黒で統一された容姿に青年のような顔立ち。
「お疲れ~ 黒ちゃん。」
カウンターの中から一人の男性が声を掛けてきた。
「マスター、その呼び方止めてください。」
「じゃあ 信ちゃんは?」
「却下。」
「堅いな~ 黒坂信士なんだからいいじゃんよ~。」
悪気はないらしく微笑みながら店の奥に姿を消していくマスターと呼ばれる人物に黒坂はため息をついた。
しばらくするとマスターと呼ばれる男性は一枚の紙を持って戻ってきた。
「任務完了の確認書。」
そういって持っていた紙を黒坂に差し出した。
「了解。あの二人組みの女性は無事か?」
「うん。外傷もなし、ちゃんと記憶処理も終わったって連絡があった。さすが黒ちゃんだね~。」
「だからその呼び方やめ…」
黒坂が呼び方に文句をつけようとしたとき、店の奥から女性が現れた。
「黒ちゃんお疲れ~。」
そう言いながら現れた女性と言っても外見は明らかに黒さかよりも若く見える少女は黒坂に声を掛けた。
「……。」
黒坂は声もなくため息をついた後、ホルスターから銃を抜き少女に渡した。
「美羽、弾丸の補充頼む。」
美羽と呼ばれた少女は銃を受け取り慣れた手つきで銃の確認を始めた。
「今回は、三発だね。二日くらいでできるよ。」
そう言うと銃を黒坂に返した。
すると、後ろの席にいた男性が黒坂に話しかけてきた。
「君はハンターだよね? さっき聞いちゃったんだけどメナスの任務終わったんだって?」
「あんた、誰だ?」
目をキラキラとさせながら質問をしてくる男性に目も向けず黒坂は質問を返した。
「そうだったね、僕は中島悠太。新米ハンターです。」
そう言うと握手を求めるように手を差し出した。
「黒坂信士。」
ぶっきらぼうに答え、中島の握手には応じなかった。
そんな事気にも留めず中島はさっきの質問を繰り返した。
「ああ。」
黒坂は端的に答えると、前にある緑茶を一口飲んだ。
「中島君、必要な書類が揃ったから一通り説明するよ~。」
マスターと呼ばれた男性は書類の束を持って来て中島を黒坂の横に座らせた。
「まずは自己紹介。 僕は益田恒明ぜひマスターと呼んでね~。」
「はい!」
黒坂の横で元気に答える中島をちらりと見た後黒坂は緑茶を一口飲んだ。
「知ってることも含まれてると思うけど、義務だからはじめから全部説明するね~。」
人外生物監視組合、通称「組合」。この組織は百年ほど前に設立され、人類以外の生物を監視している。と言ってもすべての人類以外の生物ではなく、人類にとって有害な生物のみを監視している。その生物の中でも人類に対する影響が著しく高い生物は、脅威として認定されハンターと呼ばれる組合に所属する武装組織により人類の安全確保のため殲滅、確保される。組合には脅威と認定された生物ごとに部署がありその部署ごとに、専属のハンターがいる。ハンターは全国各地に居るのに比べ「組合」は全国に一箇所しかないため、全国に居るハンターに殲滅や確保と言った「任務」の通達に支障が出る。そこで設置されたのが「分家」と呼ばれる組織である。「分家」は「組合」からの任務や情報をハンターに伝えるため全国各地に分布している。「BAR BUNKE」もその一つである。「任務」は脅威として認定されたすべての生物に出るのではなく、その中でも実際に人間に害を与えた個体それぞれを標的にして発布される。ハンターは「組合」から発布された「任務」を「分家」を通して知り、実行し「分家」を通じて「組合」に報告するという一連の動作を行う。
「一応組合と分家、ハンターの説明したけど…どう? わかった?」
「なんとか…」
「まぁ中島君、少しずつ覚えていけばいいよ。」
「はい!」
「じゃぁ 次はメナスとハンターの武器についてせつめいするね~。」