第19話 過去(4)
「あああああああ!!」
突如闇から出てきた青年は一気に師匠との距離を詰め攻撃を繰り出す。
師匠はそれに反応し体を翻し避ける。
「やっかいだな…。」
少し距離をとり自分の右手を見た後師匠は言った。
その手からは血が滴り落ちていた。
「師匠!!」
黒坂は叫ぶが師匠は前を見据えたままだった。
「はずれだ…人間のじゃない…。」
青年はうなだれたまま呟く。
「よく見ておけ、黒坂。メナスは王家の血を飲むとこうなる!」
そう言うと師匠は地面を蹴り一気に距離を詰める。
右手で攻撃するとメナスはそれを避け師匠にカウンターの一撃を放つ。
師匠は顔を軽く動かしかわす。
「終わりだ。」
青年を中心にして体を回転させ背後に回った師匠は胸元から銃を取り出し青年の後頭部に構える。
―タアアアアアアアン―
一発の銃声が響き青年は崩れ落ちる。
その体はなんの前兆もなくただ灰になった。
「炎が出ない…。」
黒坂は呆然としたまま呟く。
師匠は銃をしまい携帯電話を取り出した。
「どういうことだ!!王家の血を飲んだメナスがいた!!」
あまり出さない師匠の怒鳴り声に黒坂は驚いた。
「ああ、分かった。だが、黒坂には話す。いいな?」
そう言うと師匠は携帯電話をしまい、黒坂に言った。
「話がある。とりあえず戻るぞ。」
「はい。」
黒坂は短く返事をして立ち上がった。
「お前が見たメナスは普通じゃないのは分かったか?」
「はい。変色した部分以外の部分も刃が通らなかったし、この手でも防げなかった。」
黒坂は、そう言うと包帯を巻いてある右手を摩った。
「そうだ、だが説明するにはまず「王家の血」について説明しないといけないな。」
「王家の血…ですか?」
聞きなれない言葉に黒坂は師匠に聞き返すと、師匠は頷き話し始めた。
メナスにとって人間の血はいわゆる麻薬のようなもの。しかし、それには依存性が全くない。
メナスは人間の血を飲むことにより自らの運動能力を高めることができる。
これが、一般にハンターに公開されている情報。
しかし、そこには隠された真実がある。
「王家の血」と呼ばれる血液の存在である。
かつて、国家を治める長が居た時代、長になり得る人間にはこの血が流れていたと言われている。
普通の人間の血となんら変わりはないが、解明されていない不思議な力があるとされている。
現代になるにつれ王家の血を持つ人間は少なくなってきたものの、その血を持つものは現代でも存在している。どのような人間に現れるのか、その要因はなんなのかなど様々な疑問があがるが、そのほとんどが解明されていない。メナスの勢力が強くなるまで、あまり注目されてこなかった。しかしメナスが人間を襲うようになると同時に、その血の存在が重要なものとされるようになった。
組合はメナスの様々な調査を行い、メナスは血を選んで人間を襲うことが分かった。つまり、不味そうな血を持つ人間には興味がなく、美味そうな血を持つ人間を襲うということである。
調査を続ける中で、人間の血には依存性がないことが分かったが実験用に許可をもらい採取したある人間の血を一体のメナスに与えたところ、異常なまでの運動能力の向上、皮膚の硬質化そして血への依存性が確認された。はじめは突然変異だと考えられたが、調査を続ける中で王家の血の存在と結びついたのである。
つまり、無作為に選ばれた人間に流れる王家の血は数多くのメナスを呼び寄せ飲んだメナスを血への依存性が強く現れる凶暴なものに変えてしまうのである。
「じゃあ、さっきのメナスは…。」
「ああ、奴はおそらく王家の血を飲んだらしい。」
説明を聞き黒坂が口を開くと師匠は答えた。
「王家の血を飲んだメナスは、目が赤くなることが分かっている。」
師匠は自分の目を指しながら言った。
「俺は、組合に行って来る。」
そう言うと師匠は立ち上がり、部屋を後にした。