第16話 過去(1)
「痛いよ、やめて!!」
古びた小学校の片隅小柄な男子が体格のいい男子数人に囲まれていた。
「うるさい!!お前なんか死ね!!」
「痛い…よ…。」
痛みに男子が蹲った時
「止めろよ!!」
大きな声が辺りに響き渡った。
「なんだよ黒坂!!邪魔すんのかよ!?」
興奮気味に大声を出す取り囲む男子たちは今よりも随分幼い黒坂の方を向いた。
「やめろって言ってんだ!!」
そう言うと黒坂は走り出した。
「おい!!あいつを止めろ!!」
囲んでいた男子たちは標的を黒坂に変え周りを囲み殴り始めた。
鈍い音と共に黒坂は痛みに蹲った。
「こいつはもういいぞ。早くあいつをやってやんねぇと。」
にやにやと笑いながら体格のいい男子はいまだに蹲っている男子の方に目を向けた。
「やめろって…言ってんだ…あああああ!!!」
黒坂は立ち上がり叫んだ。
「お前…なんだよ…その手…。」
男子が注目する先には徐々に漆黒に変わっていく黒坂の右手があった。
「ああああああ!!」
黒坂は走り男子を殴った。
ドン
鈍い音と共に男子は吹っ飛び動かなくなった。
「うああああああああ!!」
「ばけものおおおおおおお!!!!!!!!!」
辺りに居た男子たちは逃げていき黒坂は自分の右手を見た後気を失った。
「大丈夫?」
目を開けた黒坂は心配そうに覗き込む母親を見た。
「あ!」
状況が理解できたと同時に黒坂は自分の右手を見た。
「実験は成功だったのね…あなた…。」
黒坂に聞こえないように呟いた後
「大切なお話があるの。」
と悲しそうな顔で黒坂に言った。
「それより…僕の手が…。」
自分の右手を見つめながらあの時の事が信じられないように黒坂は呟いた。
「それも関係する話よ。」
やさしく微笑む顔には隠しきれない悲しみが浮かんでいた。
「母親は、俺に時間を掛けてゆっくりと教えてくれた。」
昔を思い出しながら黒坂は前にいる二人に話しかけていた。
「実験のこと、メナスのこと。いつもいつも微笑んで、でも悲しそうに。」
「そっか…。」
マスターは頷き、美羽は俯いていた。
「終わりました~!!」
ドアを勢いよく開け中島が入ってきた。
中島の姿を見て一同は驚いた。
「どうしたんですか?」
一同の反応に中島は問いかけた。
「なんでもないよ~。おつかれ~。」
いつもの調子を必死で取り戻しマスターは中島に言った。
「そうですか。」
そう言いながら黒坂に近寄り
「黒坂さん、横いいですか?」
「ああ。」
黒坂の返事を確認して、中島は横に座った。
「黒坂さん。どうしても聞きたかった事があるんですけど。」
「何だ?」
「黒坂さんの初めての任務の話です。」
「なぜ?」
「あの時僕は何もできなかった。だからって訳じゃないですけど…聞きたいなって。」
そう言う中島を見た後黒坂は少し笑った。
「いいよ、今なら。」