第15話 メナスの血
「嫌よ!!」
とある病院の一室で発せられた声はそのフロアに響き渡った。
「あの子は貴方の実験動物じゃない!!」
そこには一人の女性が居た。
「誰かがやらなければいけないんだ…。」
女性の目先には眼鏡を掛けた男性が立っていた。
「だったら自分がやればいいじゃない!!」
「あれは産まれたばかりじゃなければ効果はないんだ…。分かってくれ。」
そう言うと男性は部屋を後にした。
「分かってるけど…どうして私の子なの…。」
部屋を出た男性はすやすやと眠る赤子の前に居た。
「すまない…。本当にすまない…。」
そう言うと胸元から一本の注射器を取り出した。中の液体は蛍光灯の光を受け漆黒に輝いていた。
「着々と勢力を伸ばしているあいつらに対抗するにはこれしかないんだ…。」
男性は眠る赤子にその液体を注射した。
「俺は生まれた直後、メナスの血を体内に入れられた。」
BAR BUNKEのカウンター席に座る黒坂はそう言うと緑茶を飲み向かい側に居る二人の方を見た。
「メナスの…血?」
マスターは信じられないような顔をしながら黒坂に問いかけた。
「ああ。それも何体ものメナスから集めた血を凝縮したもの。」
「何でそんなことを…?」
俯いたまま聞いていた美羽は顔をあげ聞いた。
「組合は、メナスの勢力が拡大してきたのを受け脅威に指定した。その後、捕獲したメナスを使って様々な実験をした。その実験の指揮官だったのが俺の親父。」
「黒ちゃんの…お父さん?」
「親父はメナスの血には他の生物の遺伝情報を書き換える能力があることが分かった。でも、それはごくわずか。だから産まれたばかりの内に体内にメナスの血を入れる事により、メナスの運動能力を持った人間を生み出そうとした。」
「だからって…なんで…そんなこと…。」
美羽は黒坂を見た。
「そこが問題だった。産まれたばかりとは言え人間。倫理的に人体実験なんかが承認されるはずがない。組合は俺の親父に実験の中止を命じた。でも、メナスに対抗するには必要だった。」
「なんで?祈祷があるでしょ?」
美羽はそう言うとマスターに同意を求めるようにマスターの方を見た。
「確かに。でも、祈祷でできるのは武器だけ…。圧倒的に人間よりも運動能力の高いメナスに対抗するのは難しい。実際に年間でも数十人のハンターが命を落としてる。」
マスターは美羽の方を見た後に言った。
「だから親父は俺の体内にメナスの血を入れた。その後親父は組合を解雇され、帰宅途中にメナスに襲われて死んだ。世間体を気にして解雇したものの組合は影では俺の存在を喜んでいた。だから金は余るほどくれた。」
そこまで言うと黒坂は緑茶を一口飲んだ。
「そんなの…ひどいよ…。」
黒坂の話を聞いた美羽は目に涙を浮かべ黒坂を見た。
美羽の目を見ながら黒坂は呟いた。
「大丈夫。」
その後黒坂は天井を見た。
「でも、自分が化け物だって知ったときは結構つらかった…。」