第10話 化け物
「へ~。あいつを軽く吹っ飛ばすなんて、なかなかやるじゃん。」
ドアの前に居る悠馬と呼ばれていた生徒は感心しながら黒坂に叫んだ。
「吹っ飛んじゃいない。」
声のするほうには平然と立っている竹下が居た。
「たけちゃ~ん。私が最初~。」
杏里と呼ばれていた生徒は眼を輝かせながら、手をばたつかせた。
「ああ。だが、俺もかりがある。殺すなよ?」
竹下はそう言うとその場で腕を組み黒坂を見つめた。
「黒坂君でいいんだよね?杏里です。よろしく~。」
黒坂に手を振りながら歩き出した。
「すぐ来い。殺すぞ。」
黒坂は短く答え銃を構えた。
「怒られちゃった~。」
杏里は目に涙を浮かべながら後ろに居る悠馬に振り返った。
―タアアアアアアアン―
一発の銃声とともに放たれた弾丸は真っ直ぐに杏里へと向かったが
キィイイイイイイン
と言う音とともに弾丸は弾かれ床にめり込んだ。
「もう。いきなりは酷いよ!」
そういって叫んだ杏里の手にはハンターの刀が握られていた。
「な!?」
驚きを隠せない黒坂に対し
「驚いてる~。かわいい!」
杏里は持っている刀をぶんぶんと振り回した。
「君の事知ってるよ~銃使うハンターなんて君ぐらいだから。まぁ高校生ってのは知らなかったけどね。祈祷された物は私たち防ぐこともできないけど~同じく祈祷された物なら弾くぐらい簡単だもんね。黒坂君?」
「どこでそれを?」
「ハンターに決まってんじゃん。殺したの、何人も。で、一番使いやすそうなやつもらったんだ~。」
「何人だ…?」
喋り終えた途端に黒坂は呟いた。
「え? 聞こえない。」
杏里は耳に手を当て黒坂に突き出す。
「人間を何人殺したって聞いてんだ!!」
講堂中に響く大声で怒鳴った。
「そんなの覚えてないよ~。」
杏里はクスクスと笑いながら答えた。
―タアアアアアアアン―
銃声が響き弾丸が放たれた。
キィイイイイイイン―
「だから~効かないって…」
「杏里、前だ!!」
やれやれと手振りをする杏里に悠馬は叫んだ。
その瞬間黒い影は杏里の懐に入り渾身の打撃を与えた。
ドン という鈍い音の後
「ぐっ…。」
という短い苦悶の声を残し杏里の体は後方に吹っ飛び壁に当たった。
ダンッ!!
それとほぼ同時に黒坂は床を蹴り杏里に近づき、胸ぐらをつかみ上空へ投げ飛ばした。
―タアアアアアアアン―
―タアアアアアアアン―
二発の銃声とともに弾丸は発射され杏里の右肩と左の太ももを貫いた。
直後杏里の悲鳴とともに二箇所から緑色の炎が上がり右腕と左足は灰になった。
落下する杏里を悠馬が何とか掴み黒坂を睨んだ。
「お前…ほんとに人間か…?」
悠馬はそう言うと竹下に杏里を預けた。
「山神先生!!早く生徒を後ろに!!」
三人を睨みながら黒坂が叫ぶと、ジャージを着た先生は立ち上がり叫んだ。
「みんな!!後ろに!!早く固まるんだ!!」
その声を聞いた生徒たちは一斉に講堂の後ろへと叫び声をあげながら走った。
「な!?お前は俺が殺したはず。」
と漏らした竹下に対し、
「俺の前で誰一人人間は殺させねぇ。」
と黒坂は言った。
「黒坂!!鍵が壊れてる!!開けられない!!」
ドアを叩きながら山神というジャージを着た先生は叫んだ。
「できるだけ固まってください!!」
黒坂は叫ぶと前に居る三人に銃を構えた。
「殺させねぇ?残念だったな!そこに居る女には死んでもらう!!」
そう叫ぶと黒坂と悠馬を結ぶ直線状に居る女子生徒に向かい悠馬は爪を構え床を蹴った。
「もらった!!」
叫び声とともに爪を振り下ろす。
しかし、そこには何もなかった。
「な!?どこへ行きやがった!!」
悠馬が顔を上げると先ほど黒坂が居たところと同じところに女子生徒を肩に抱えている黒坂が居た。
「ありえねぇ…。俺より早い…だと…?人間じゃありえねぇ…。てめぇ…一体何なんだ?」
悠馬は目の前の光景が信じられず、まるで人間が化け物を見るかのように黒坂を見た。