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絶望

 彼が24歳のになり、働きながら、姉を支える生活がルーティーンとなっていき、落ち着いてきた頃、とある日一通の封筒が届いた。差出人は不明だった。少し厚みのある封筒を開けるとその中にはたくさんの写真があった。そこに写っていたのは母だった。しかも自分が知らない20歳ぐらいから死ぬ直前くらいまでの。衝撃的だったのが何枚かは裸の写真だった。色々な年齢の時のものだった。理解ができなかった。呆然としていると写真が手から滑って落ちてしまった。その中の一枚にたくさんのこちらをほとんど全裸で上目遣いでこちらを見つめる女性たちの写真が所狭しとひしめき合っている紙の写真があった。これはどう考えても夜の店だ。その中に母の写真もあった。


 現実を理解することができなかった。誰が送ってきたとかどういう目的でとかそういうのはどうでも良かった。ただ目の前にある現実に圧倒されていた。思考するのを本能が拒絶した。そのまま何時間経ったのだろうか。姉に呼ばれてハッとした時には太陽はとっくに沈んでいた。風呂に入れて欲しいらしい。急いで写真を封筒に戻して机の上に置き、姉の元へ向かった。


「どうしたの?大丈夫?」

 姉は呂律がうまく回らないので簡単な単語を話すことが多かった。頭に血が回っていないのが自分でもわかった。彼女に知らせるわけにはいかないので大丈夫と一言だけ言って風呂場まで連れてこうとした。そんな時、姉の腕がテーブルの上のあの封筒にぶつかった。封筒は開け口を下に写真をばら撒きながら音を立てて床に落ちた。まずい。隠したかったが片腕は姉を支えているため無理だった。


 姉は数秒後には悲鳴をあげて脱力して崩れ落ちた。咄嗟に母を庇おうとした。


「ほら、母さんはずっと大変だったろ。女手一つで二人育てて家に住み続けられるくらいの貯金まで残して。休日だって…」

 

 姉が落ち着くようにというか自分に言い聞かせるみたいなように思いついたことを喋り続けようとした時、姉の


「なんで…」


 と大粒の涙を流しながら過呼吸になる様子を見ると居た堪れず言葉が出なくなった。


 今考えればおかしくはないことだった。母は世間一般の苦労しているシングルマザーよりも休みが多かったし、確かに美人で夜の仕事の前はいつも露出の多い服を着ていた気がする。子供のために働いていると考えれば、養われていた自分たちだけは母を誇りに思っても良いのではないかと思う。しかし、母が若い頃の写真もあったことを考えると、母は結婚する前からずっとその仕事を続けていたのではないか。身寄りも教養もない母が都会で生きていくにはそれしかなかったのだろう。自分は母を知らなかった。それがいまだに悔しい。


 半泣きになりながら姉を風呂に入れたあとまたしばらくぼーっとしていた。確か日付が変わった頃だったろうか、数年前に聞いた心臓にゲロをかけるような不快な音が外から聞こえた。急いで隣の姉の部屋の扉を開けた。窓が開いていた。それは快晴で満月の見える綺麗な夜だった。終わったんだ。全部。安心なのか絶望なのか何かもわからない感情でその場にしなしなと座り込んだ。窓から下を覗き込む気にはならなかった。もう何でもいい。


 その後の記憶はほとんどない。



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