ある世界の記録書――花畑の精霊
あの世界に根付いていたのは、なにも人間だけではない。精霊も同じ命を授かっていた。
これはある少年が見た、精霊たちのある日の姿だ。
* * *
「ニーナ! こっちだよー!」
「待ってー!」
笑顔で追いかけてくるニーナに僕も笑みを向け、太陽の光が降り注ぐコスモス畑へとやってきた。白いトゲトゲとした光の精霊もまた何人も集まり、僕たちの元へと向かってくる。
これが僕にとっての日常だ。変わることのない、楽しい日常だ。
「ルーク! 追いついたー!」
「わあっ!」
ニーナは僕に突進し、体当たりをする。その勢いで、二人揃って花畑の中へと倒れ込んだ。背中に衝撃を受けると共に、甘い匂いがふんわりと鼻を抜ける。
「あはは!」
「痛いよー」
笑うニーナに膨れっ面を見せても、まだ彼女は笑っている。それもその筈、光の精霊たちが僕たちを囲んで飛び跳ね始めたのだ。まるでボールのように、花粉を纏って戯れる。
「僕たちはまだ遊んでないよー」
遊びたいのは僕たちなのに。どうして精霊たちばかりが遊んでいるのだろう。口を尖らせると、精霊のうちの一人がそっと僕の頬にキスをした。
怒っている僕が馬鹿みたいだ。咲き誇るコスモスを摘み、花冠にしていく。
「これ、ニーナにあげる」
「やったー! ありがとう!」
無邪気な笑顔と一緒に、僕の頭にもお揃いの花冠が載せられた。
* * *
守りたかった最後の一人が消えた日、いくつの精霊の命が散ったのだろう。消えた者に詫びることも出来ず、本を棚にそっと戻した。