ある世界の記録書――雨の日
リブリス――それは魔法に満ちた世界、人々は精霊に感謝をし、今を確かに生きていた。世界の外にいる者は、その存在すら知らないのだろう。それでも彼らはここに生きていた。
ある者は精霊と戯れ、ある者は魔法よりも科学を選び、ある者は歴史を読み解いた。これは終わりを迎えた世界の、そんな人々の日常を綴った記録書である。
* * *
その日は雨が降っていた。雨の日は水の精霊たちが当たりを飛び回る。子どもたちは一緒に遊ぼうと、虹を作りながら泥だらけになるまで駆ける。風邪を引いてしまわないかひやひやするが、水の精霊の加護なのだろうか。雨のせいで熱を出す者は、一年に一人いるかいないかというところだ。
「ルーク、あんまり遅くならないようにね!」
「分かってるー!」
家の前を通りかかった青い仔竜の姿の精霊を追いかけ、私の息子――ルークも外へ飛び出した。子どもたちの笑い声が響く村の片隅で、火の魔法を使いながら料理を手際良く済ませてしまう。
私もあんな頃があったんだな。幼馴染のハンクの幼き笑顔を思い返しながら、ふふっと笑い声を漏らす。
そんな時、玄関のドアが開く音が聞こえた。
「アンナ、ただいま」
「おかえり」
今は夫となったハンクは、あどけない笑顔で外を見やる。
「ルークは外か?」
「うん。皆ではしゃいでる」
こんな日々がずっと続けば良いな、とピラフを食卓に置いた。
* * *
世界を終えてもなお、私の手には記録書として残っている。次の世界はもっとより良くしていかなくては。それが神たる私の使命なのだ――。