冷徹な将軍の転機
老将ガレンは、リアムの一派を「危険な扇動者」とみなし、鎮圧のために精鋭部隊を率いていた。王都の貧民街の入り口で、彼はリアムが率いる集団と対峙した。しかし、ガレンが予想していたような武装した反乱軍はそこにいなかった。いたのは、病に苦しむ人々を背負い、互いを支え合う、ただの市民たちだった。
「武器を持たぬ者に、我が剣を向ける理由はない。だが、この混乱は止めねばならぬ。」
ガレンはそう言って、進軍を命じた。その時、彼の目に、一人の老兵が映った。彼はガレンの長年の戦友であり、数日前に「囁く病」に倒れたと聞かされていた。老兵の顔は黒いカビに覆われ、呼吸もままならない。ガレンは胸に痛みが走るのを感じたが、無情にも命令を撤回しなかった。
その時、リアムが老兵のそばに駆け寄り、その頬に手を当てた。リアムの指が触れた瞬間、老兵の顔の黒い染みが、朝霧のように消えていく。老兵は、まるで長年の悪夢から覚めたかのように、安らかな表情で深く息を吸い込んだ。
ガレンは目を疑った。彼の軍事力や冷徹な決断は、この病の前では無力だった。しかし、目の前の青年は、たった一撫でで、何年も解決できなかった問題を解決してみせたのだ。
ガレンは部下に命令し、進軍を停止させた。彼は馬を降り、リアムの前に歩み出た。
「貴様の血が、病を浄化する力を持つとは、本当だったのだな。」
リアムは黙ってガレンを見つめた。敵意も、恐れもなかった。
「私はこの国を、この病から守ろうとしてきた。だが、私の力では足りなかった。貴様が持つ力は、私にはない。私はこの国の未来を賭けて、貴様を試す。だが、もし貴様が真に国を救えるというのなら、私は喜んで、貴様の剣となろう。」
ガレンは膝をつき、リアムに忠誠を誓った。それは、この国の歴史において、最強の軍事力が、一人の若者の理想に屈した、歴史的な瞬間だった。